脱炭素が成長投資のワケがない

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池田信夫氏は「概算要求の『強く豊かな日本』投資枠はクールジャパン機構の拡大版」で、政府が「成長投資」と呼ぶなら、そのリターンを示すべきだと指摘した※1)

まったくその通りである。民間企業であれば、投資によって将来どれだけの利益が得られるのか、投資額を何年で回収できるのかを厳しく問われる。政府の投資であっても、国民にどれだけの便益をもたらすのかという収益率を示す必要がある。

ところが、政府が「日本成長戦略」に並べた脱炭素関連事業を見ると、収益性が確認されたから投資するのではない。補助金で価格差を埋め、公共調達で政府が買い手となり、規制や税制で需要を作ることによって、ようやく成立させようとしている事業ばかりである。

脱炭素に23.8兆円

 政府は、17の戦略分野、62の製品・技術について、2040年度までに官民合わせて370兆円超を投資するとしている。このうち、いわゆるグリーンエネルギーとしては、以下の6項目がある。政府の官民投資額一覧※2)による投資想定額は次の通りである。

項目 2040年度までの官民投資想定額
次世代型太陽電池 4.1兆円
水素等 6.2兆円
グリーン鉄 4.2兆円
次世代型地熱 1.0兆円
洋上風力 5.1兆円
GXケミカル 3.2兆円
合計 23.8兆円

これは全額が政府支出という意味ではなく、民間を含めた累計投資想定額である。政府と民間の負担割合は示されていない。なおこの投資額は、企業への聞き取りに加え、将来の市場成長率や、政府がどの程度関与するかについての「機械的な前提」を置いて積み上げたものとされている。つまり確定した民間投資でもなく、収益性を検討した投資計画でもない※2)

 政府自身が「採算に乗りにくい」と認めている

これが成長投資でない何よりの証拠は、政府自身が採算性の乏しさを認めていることだ。

財務省は、GX関連の税制優遇について、対象となるのは「民間として事業採算性に乗りにくい」投資であるとはっきり書いている※3)。これだけでも「成長投資」という看板との矛盾は明らかだ。

水素等では官民合わせて6.2兆円の投資を想定している。だが、低炭素水素は既存の天然ガスなどより高価なので、政府は既存燃料との価格差を15年間にわたって助成する。JOGMECの制度説明でも、価格差を15年にわたり支援し、助成率は「定額」と明記されている※4)。価格差支援だけで3兆円規模である。

補助金なしでは価格競争に勝てない燃料の価格差を15年間も国民負担で埋め、それを成長投資と呼ぶのである。

グリーン鉄4.2兆円についても、政府のロードマップは、通常の鉄鋼製品より価格が高く、短期的な需要が不透明であることを認めている。そのため、設備投資を補助し、公共工事でグリーン鉄を優先調達し、自動車や建設会社にも購入を促す制度を導入する。法人税も、生産・販売量に応じて長期間控除する。

GXケミカル3.2兆円も同じである。政府資料は、脱炭素化によるコスト増を製品価格に転嫁することが難しいとして、「脱炭素価値」を価格に上乗せできる仕組みを作り、収益性を改善するとしている。収益性の高い機能性化学品なら、企業が自ら投資すればよい。政府が支援しなければ成立しないものがなぜ「成長投資」なのか。

技術も需要も政府が作る

次世代型太陽電池には4.1兆円を見込む。だが、量産技術も施工方法も発電コストも、まだ目標を達成していない。そこで政府は研究開発費だけでなく、製造設備への補助、導入補助、公共施設への率先導入まで行い、官公需によって最初の市場を作る。

次世代型地熱の1兆円も、国内での本格的な実証はこれからである。政府の計画も、まず国の支援で実証し、技術を確立してから、将来「商業ベース」で普及させるという順序になっている。研究開発として支援する余地はあっても、まだ商業採算が確認されていない段階で1兆円の「成長投資」を先に掲げるのは順序が逆である。

洋上風力には5.1兆円を見込む。政府資料は、コスト上昇、資金調達の困難、収入の不安定さを課題として挙げ、「必要な支援を躊躇なく実行」するとしている。だが現実には、秋田県・千葉県沖の3海域で選定された事業者が採算悪化を理由に撤退し、政府は公募制度を改めた※5)

採算が取れず撤退した事業を、補助金と制度変更で復活させても、成長投資になるわけがない。

「経済波及効果」では投資を正当化できない

 政府は、水素等には85.3兆円、GXケミカルには75.5兆円、フュージョンには9.4兆円の「経済波及効果」があるとしている※2)

だが、これは利益でも、投資収益率でも、GDPの純増でもない。投資額と生産増加額を産業連関表に入力し、部品会社の売上や、そこから生まれる所得と消費を足し上げた数字にすぎない。

高価な水素を補助金で購入しても、製造、輸送、貯蔵の売上は増えるので「経済波及効果」は発生する。しかし、同じエネルギーを安価な天然ガスで得られた場合との差額は、国民経済にとって負担である。それは税負担や電気料金の上昇となる。また、民間投資を押しのけ、鉄鋼や化学産業などのエネルギー多消費産業の競争力を低下させる。これらの悪影響の計算は示されていない。

支出を増やせば「波及効果」が増えるのは当たり前だ。だがそれで投資を正当化するのはナンセンスだ。投資を正当化できるのは収益だけである。

成長投資なら収益率を示せ

政府は、各事業について、補助金や規制等なしでの投資収益率を計算し公表すべきだ。そして、採算の悪い事業はカットする。

バカ高い脱炭素技術を強引に導入しても、投資収益など望むべくもない。それどころか、光熱費の高騰などの形で、国民経済は傷むばかりである。

そして政府支援が尽きたらその技術もそこで終わりである。海外に技術を売って成長するなどと政府は言うが、何処の国がそんな高価なものを買うというのか。

そういえばクールジャパンも一皿1万円の桃をアジアで売ろうとして失敗したらしい。桃ならまだ美味しければ売れるかもしれないが、バカ高いエネルギー技術など誰も買わない。

【参考文献】
※1)池田信夫(2026年9月1日)「概算要求の「強く豊かな日本」投資枠はクールジャパン機構の拡大版」『アゴラ 言論プラットフォーム』(2026年9月1日閲覧)。
※2)内閣府(2026年6月24日)「戦略17分野の『主要な製品・技術等』における官民投資額」第8回経済財政諮問会議(第5回日本成長戦略会議との合同会議)資料1、1–2頁(2026年9月1日閲覧)。
※3)阿部敦壽(2024年2月14日)「令和6年度税制改正(国税)等について」財務省広報誌『ファイナンス』2024年2月号(通巻699号)、14–25頁(該当箇所16–17頁、2026年9月1日閲覧)。
※4)独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)「価格差に着目した支援」『水素等』、公開日記載なし(2026年9月1日閲覧)。
※5)経済産業省・国土交通省(2026年6月5日)「『一般海域における占用公募制度の運用指針』を改訂しました」(2026年9月1日閲覧)。

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