秋田市の上下水道料金改定から考える市民のための財政学

島澤 諭
要点まとめ
  • 秋田市では、人口減少による料金収入の減少や施設老朽化、物価高を背景に、2027年4月から水道料金を平均約32%、下水道使用料を約18%引き上げる予定で、4人家族では月1,529円の負担増となる。
  • 上下水道は利用者が減っても維持・更新費用を同じ割合では減らせないため、人口減少→1人当たり負担増→生活コスト上昇→さらなる人口流出という悪循環を招く恐れがある。
  • 上下水道は単なる「商品」ではなく地域生活を支える共通基盤であり、受益者負担や独立採算だけでなく、一般財源の活用、施設統廃合、維持管理の効率化などを組み合わせる必要がある。
  • 同様の料金値上げは全国で進んでおり、問われているのは自治体の帳簿上の収支だけではない。人口減少社会で生活基盤を誰が、どこまで負担して維持するのかという財政のあり方そのものが課題になっている。

人口が減るほど負担が重くなる財政でいいのか

秋田市で、上下水道料金の大幅な値上げが予定されている。秋田市上下水道事業経営審議会は7月2日、料金改定について「適当」とする意見を市に提出した。市議会で条例改正案が可決されれば、来年4月から水道料金は平均約32%、下水道使用料は平均約18%引き上げられる予定である。

4人家族が月20立方メートルを使用する場合、水道料金は現在の2,860円から3,828円へ、968円の増加となる。下水道使用料は3,113円から3,674円となり、561円増える。水道と下水道を合わせれば、月額負担は現在より1,529円増えて7,502円となる。

今回の料金改定の背景には、人口減少による料金収入の減少に加え、老朽化した施設の更新費用や物価上昇による維持管理費の増加がある。水道料金については1996年度以来31年ぶり、下水道使用料については2003年度以来24年ぶりの値上げとなる見通しだ。

審議会に示された当初案では、水道料金を平均39%、下水道使用料を平均23%引き上げる内容だった。しかし、物価高が続くなかで利用者の負担が大きくなることを考慮し、最終的にはそれぞれ7ポイント、5ポイント圧縮された。それでも、住民にとって小さくない負担増であることに変わりはない。

「受益者負担」だけでは人口減少に対応できない

上下水道料金の値上げについては、「使った人が、そのサービスに必要な費用を負担する」という受益者負担の考え方から説明することができる。水を使う人が水道施設の維持管理費を負担し、下水道を利用する人がそのための費用を負担するという考え方自体は、分かりやすく合理的でもある。

しかし、人口減少社会において、この考え方だけで公共サービスの持続可能性を考えると、別の問題が生じる。

人口が減れば利用者も減る。しかし、水道管や下水道管、浄水場、処理施設などのインフラは、利用者が減ったからといって同じ割合で縮小できるわけではない。施設の維持管理や更新には、利用者数とは直接連動しない固定的な費用がかかるからである。

その結果、利用者が減るほど、一人当たりの負担は重くなりやすい。料金を引き上げれば、さらに住民の生活コストが増える。生活コストが上昇すれば、地域で暮らすことの経済的な余裕が失われる。こうした負担の増加が、人口流出や地域経済の縮小と無関係だとは言い切れない。

つまり、「人口が減ったから一人当たりの負担を増やす」という仕組みは、財政収支だけを見れば整合的でも、人口減少そのものをさらに進める可能性がある。ここに、人口減少社会における受益者負担の難しさがある。

上下水道は「商品」ではなく生活の共通基盤

もちろん、水道を利用する人が一定の費用を負担すること自体を否定する必要はない。問題は、上下水道を一般の商品やサービスと同じように考えてよいのかという点にある。

水道や下水道は、単に個人が購入するサービスではない。安全な水を安定的に利用でき、使用した水を適切に処理できる環境は、地域で生活するための基本的な条件である。家庭だけでなく、病院、学校、飲食店、工場、商店など、地域社会のさまざまな活動が上下水道という基盤の上に成り立っている。

だからこそ、上下水道を維持するための費用をすべて利用者だけに負担させることが、本当に適切なのかを考える必要がある。

利用者負担には、サービスを利用する人と費用を負担する人を対応させることで、コスト意識を促すという役割がある。一方で、地域社会全体を支える基盤については、その維持によって利益を受けるのが個々の利用者だけではないという側面もある。

この違いを考えずに、「使った人がすべて負担する」という原則だけを徹底すれば、人口減少地域ほど住民一人当たりの負担が重くなってしまう。

独立採算は目的ではなく手段

地方公営企業の経営では、独立採算が重視される。上下水道事業についても、料金収入によって事業に必要な経費を賄うことが基本となっている。

しかし、独立採算そのものが最終的な目的なのではない。財政や経営の健全性を確保しながら、市民が必要なサービスを安定して利用できる状態を維持することが、本来の目的であるはずだ。

自治体の収支を改善するために料金を引き上げ、その結果として住民の生活負担が増えれば、それだけで問題が解決したとは言えない。重要なのは、行政の帳簿上の収支だけではなく、その負担が地域で暮らす人々の生活にどのような影響を与えるのかまで含めて考えることである。

その意味では、料金改定を検討する際にも、単純に「必要な費用を利用者から徴収できるか」だけを見るのではなく、料金収入、一般財源による負担、施設の統廃合や更新方法の見直し、維持管理の効率化などを組み合わせながら、地域全体としてどのように基盤を維持するのかを考える必要がある。

秋田市だけの問題ではない

秋田市の問題は、決して秋田市だけの特殊な問題ではない。人口減少や節水によって水道料金収入が減少する一方、老朽化した施設や管路の更新、耐震化、物価や人件費の上昇によって必要な費用が増えるという構造は、全国の自治体に共通している。

例えば、栃木県さくら市では、2027年3月請求分から水道料金を平均27.35%引き上げる予定であり、その背景として人口減少や節水による料金収入の減少、施設の老朽化、物価や人件費の上昇が挙げられている。

北海道北見市でも、人口減少などによる使用水量の減少や施設更新費用の増加を背景に、2026年4月から水道料金と下水道使用料が引き上げられた。山口県下関市や兵庫県西宮市でも、人口減少による料金収入の減少、老朽施設の更新、物価上昇などを背景として、水道料金の改定が進められている。

さらに注目すべきなのは、こうした問題が人口減少の著しい地方自治体だけに限られないことである。神奈川県営水道でも、水需要や料金収入の減少、人口減少の見込み、老朽化した施設の更新や耐震化などを背景として、2026年10月から料金を段階的に引き上げることが決まっている。平均改定率は2026年10月から16%、2027年10月から19%、2028年10月から22%と段階的に引き上げられる予定である。

自治体の事例

神奈川県の事例が示しているのは、上下水道の財政問題が、人口減少が著しい地方の特殊な問題ではないということである。人口規模の大きな自治体や大都市圏であっても、人口構造の変化や節水によって料金収入が伸びにくくなる一方、過去に整備されたインフラの更新時期が到来すれば、必要な支出は増えていく。

共通しているのは、利用者が減少する一方で、施設やサービスを維持するための費用は利用者数ほど簡単には減らせないという構造である。利用者が少なくなればなるほど、一人当たりの費用は高くなりやすい。その費用を利用者だけに転嫁すれば、地域で暮らすための負担はさらに増えていく。

これは上下水道だけの問題ではない。人口が減少する地域では、公共施設を一人当たりどれだけ維持するのか、公共交通を誰がどの程度負担するのか、医療や介護の基盤をどのように確保するのかといった問題が、今後ますます重要になる。

したがって、秋田市の料金改定を単純に「水道料金が上がった」という個別のニュースとして捉えるだけでは、問題の本質を見失う。人口が減少する社会において、これまで整備してきた生活基盤を誰が、どのように支えていくのかという全国的な問題として考える必要がある。

問われるのは自治体の収支だけではない

ここで重要になるのが、財政の持続可能性を自治体の収支だけで判断しないことである。

自治体が赤字を出さず、事業を継続できたとしても、そのために住民の料金負担が大幅に上昇し、生活に使える所得が減少すれば、市民にとって望ましい財政運営だったとは限らない。

家計にとって重要なのは、単純な所得の額だけではない。税や社会保険料、公共料金などを支払った後に、住居、食料、教育、医療、交通などにどれだけお金を使えるのかという生活上の余裕も重要である。

人口減少地域では、この「生活の余裕」をどう維持するのかが、財政政策を考えるうえで重要になる。自治体の財政を健全化することと、市民の生活を守ることは、本来対立させるべきものではない。むしろ、両者を同時に成立させる方法を探すことが財政運営の課題になる。

人口減少社会では「誰が支えるか」が問われる

人口が減少する社会では、これまでのように利用者が増え続けることを前提にした仕組みを、そのまま維持することは難しい。だからといって、利用者が減った分だけ、一人当たりの負担を増やしていけばよいということでもない。

必要なのは、何を残し、何を縮小し、どこまでを利用者負担とし、どこからを地域全体で支えるのかを改めて考えることである。場合によっては施設の統廃合やサービスの効率化も必要になるだろう。しかし、それでもなお地域で暮らすために不可欠な基盤については、自治体が一定の責任を持って支える必要がある。

その際、自治体がすべてのサービスを直接提供する必要はない。民間企業や非営利組織など、多様な主体がサービスを提供することも可能である。ただし、提供主体が誰であっても、市民が最低限の生活基盤を利用できる状態を確保するという最終的な責任まで、市場に委ねてよいとは限らない。

人口減少によって利用者が減るほど料金を引き上げ、それによってさらに生活コストが上昇するという循環を避けるためには、個々のサービスの採算だけではなく、地域全体の生活基盤をどのように維持するのかという視点が必要になる。

「市民のための財政」へ

財政を考えるとき、どうしても「歳入はいくらか」「歳出はいくらか」「赤字はいくらか」という数字に目が向きやすい。しかし、財政は数字の帳尻を合わせるためだけに存在するものではない。財政によって、市民がどのような生活を維持できるのかを考えることも、その重要な役割である。

秋田市の上下水道料金改定が突きつけているのは、水道料金の額だけではない。人口が減少する社会で、これまで整備してきた生活基盤を誰が支え、その費用をどのように分担するのかという、より根本的な問題である。

利用者負担を否定する必要はない。独立採算を軽視する必要もない。しかし、それらを財政運営の目的そのものにしてしまえば、人口減少によって負担が増え、負担の増加によって生活の余裕が失われ、さらに地域の人口が減るという悪循環を招きかねない。

これからの自治体財政に必要なのは、単に行政の収支を均衡させることではなく、限られた財源と実物資源をどのように組み合わせれば、市民が地域で生活を続けられるのかを考えることである。

財政の目的は、自治体の収支を帳尻合わせすることだけではない。

財政によって市民がどのような生活を維持できるのかを考えることも、その重要な目的なのである。


編集部より:この記事は財政学者・島澤学氏のnote「市民経済論で読む日本」2026年9月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は島澤学氏のnote「市民経済論で読む日本」をご覧ください

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