建設現場の「花形」と呼ばれてきた鳶職が、いま存続の危機に立たされている。
東京商工リサーチによると、2026年1~8月の鳶工事業の倒産は110件。前年同期比26.4%増で、同期間としては過去最多となった。年間では170件に達する可能性もあり、これまでの最多だった2010年の148件を上回る勢いだ。

不思議なのは、仕事がないから倒産しているわけではないことだ。

years/iStock
仕事はあるのに会社が潰れる
鳶職人を含む「建設躯体工事従事者」の有効求人倍率は7.94倍。全職種の1.18倍とは比較にならない人手不足である。それにもかかわらず倒産が増えている。
2026年1~8月の「人手不足倒産」は19件と前年同期の10件からほぼ倍増した。一方で資材費や人件費も上昇し、「物価高倒産」も9件に増えている。特に苦しいのは小さな会社だ。倒産企業の89%は資本金1000万円未満、91.8%は従業員10人未満だった。
つまり建設需要そのものが消えたのではない。仕事はある。人がいない。人件費は上がる。しかし元請けとの価格交渉力は弱い。その結果、「忙しいのに倒産する」という奇妙な現象が起きている。
鳶職は未経験者を採用して翌日から一人前、という仕事でもない。高所作業を伴い、事故が命にかかわる以上、技能と経験を時間をかけて伝承する必要がある。その若手が入ってこなければ、会社だけでなく技能そのものが消えていく。
「20代で500万円」でも希望者0%
そこへ追い打ちをかけるのが、若者のブルーカラー離れである。
UZUZグループが就職活動中の20代457人を対象に実施した調査では、「ブルーカラー職は条件や職種を問わず、就職先としてまったく考えられない」と答えた人が64.3%に達した。

さらに建設業の施工管理職について、「20代で年収500万円を目指せるなら希望するか」と聞いたところ、「希望する」はなんと0%だった。「希望しない」が75.7%、「収入以外の条件も良いなら検討する」が24.3%だった。
もちろんこれは鳶職そのものを対象にした調査ではなく、UZUZの求職者を対象とした施工管理職についてのアンケートなので、若者全体の意識と断定することはできない。
それにしても、「給料を上げれば人が来る」という単純な時代ではなくなったことはうかがえる。
ホワイトカラー信仰はいつまで続くのか
ここには日本社会の少し皮肉な構図がある。
大学へ行き、オフィスでパソコンを使う仕事に就くことが「成功」で、現場で体を動かす仕事はできれば避けたい。そんな価値観を学校教育も企業社会も長年つくってきた。
しかし生成AIが急速に進歩している現在、むしろ定型的な資料作成、翻訳、事務、調査といったホワイトカラー業務のほうが機械に代替されやすい。鉄骨を組み、足場を建て、複雑な現場で安全を確認しながら作業する技能職を、ChatGPTが明日から代行してくれるわけではない。
将来性だけを考えれば、ブルーカラーの希少価値はむしろ高まっている。
それでも若者が来ないのであれば、建設会社も「若者の根性がなくなった」と嘆いているだけでは済まない。給与だけでなく、休日、拘束時間、安全性、キャリアパス、独立後の収入まで含めて、仕事としての魅力をつくり直す必要がある。
鳶職の倒産急増は、単なる建設業界の問題ではない。
「大学を出てホワイトカラーになるのが正解」という日本社会の古い職業観と、「本当に人間にしかできない仕事ほど人が足りない」というAI時代の労働市場が、いよいよ正面衝突し始めたのである。







コメント