10月から学校のカスハラ対策が義務化。「担任の善意頼み」を脱却できるか?(吉田 克彦)

2026年10月1日から、学校設置者を含む事業主にカスタマーハラスメント(カスハラ)防止措置が義務づけられます。

世間では「学校でカスハラ対策」と聞くと、「理不尽な保護者からの苦情(クレーム)を減らすための制度」だと考えられがちです。しかし私は、そうは考えません。

この制度の本質は、学校が教員個人の「善意」への依存をやめ、保護者との適切な「線引き」を行うことにあると考えます。対応を組織化して教員の疲弊を防ぎ、持続可能な体制を整えてこそ、結果として子どもに必要な支援を継続的に届けることができるのです。

スクールカウンセラーとして、また企業や行政機関でハラスメント対策の研修を行う立場から、今回の制度で学校はどう変わるのか、保護者は何を心がけるべきか、学校と家庭が子どもの成長を支えるチームになるために何が必要なのかについて考えてみたいと思います。

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放課後の連絡が増えるのは、学校と家庭の時間がずれるから

そもそもなぜ、学校と家庭の間に適切な「線引き」が必要だというのでしょうか。

たとえば、平日の夜7時を過ぎ、学校の電話が鳴る。出ると、保護者から「今日、うちの子がいじめられたと聞きました。今から話を聞いてもらえますか」と頼まれる——。

こうした電話は、全国の学校で毎日のようにかかっています。保護者にとっては「わが子のことを聞きたいだけ」でも、担任にとっては夜間の拘束であり、翌日の授業準備を削る時間になります。この積み重ねにより、教員は疲弊していきます。

たしかに、保護者の気持ちも分かります。子どもが学校での出来事を親に話すのは放課後であり、保護者が仕事から帰って話を聞けば、学校へ確認したい時間はさらに遅くなります。

「今日、友達とこんなことがあった」「先生にこう言われた」「明日は学校に行きたくない」。翌日の登校や学校生活に影響しそうなら、その日のうちに確認したいこともあります。学校側も、トラブルの内容によっては早めに家庭へ状況を伝える必要があります。

学校は授業中、担任が電話に出にくく、家庭が事情を知るのは放課後です。そのため、学校と家庭の連絡は夕方以降に集中しやすくなります。時間のずれ自体は解消できません。

だからこそ、学校は夕方以降の連絡を、誰が、どの窓口で、何時まで受けるのかを組織としてあらかじめ決めておくべきなのです。

先生の「特別対応」が、翌年の「当たり前」になることを防ぐ

「熱心に対応するのは良いことではないか」そう感じるかもしれません。しかし、一人の先生の善意による「特別な対応」は、翌年以降の「当たり前」となってしまう恐れがあります。

昼間は仕事がある保護者から「帰宅後に電話したい」と言われ、担任が夜まで対応する。話が1時間、2時間と延びても、「子どものことだから」と応じる先生もいます。

翌年に担任が替わり、新しい先生が時間外の電話に応じなければ、保護者は「去年の先生はやってくれた」と感じます。一度学校から受けた対応を「学校では普通にしてくれること」と受け取るのは、ごく自然なことです。

このような構造があるからこそ、学校は個々の先生の善意に頼るのではなく、組織として連絡方法や対応範囲を決める必要があります。

文部科学省も、過度に要求へ応えようとする組織風土の見直しや、必要に応じた複数人での対応、情報共有が求められることをガイドラインで挙げています(参照・学校と保護者・地域住民等とのより良い関係構築のためのガイドライン 文部科学省 2026/08/28)。

学校は「何時まで、誰が、どこまで対応するか」というルールを、担任が替わっても引き継がれる形で文書に残すべきなのです。

学校は「担任一人で受ける」から「組織で受ける」へ

カスハラ対策とは、保護者からの相談を減らすことでも、教員を遠ざけることでもありません。目的は、相談の窓口を担任個人に閉じず、組織として可視化・共有することです。

私たちが2025年に不登校の子どもを持つ保護者114人に実施したアンケートでは、自由回答で「学校との相談が一番困った」と答えた人が目立ちました。「学校との連携の仕方を知りたい」という声も多数寄せられ、誰にどうやって相談すればいいのか分からないという状況があることが分かりました。

学校現場でも様々な取り組みが始まっています。例えば、福岡市教育委員会の「学校保護者相談室」では、学校や学級のことで困った保護者が、担任とは別の窓口に相談できるようになっています。電話だけでなくインターネット相談も用意されています。メールやアプリも、保護者が都合のよい時間に送れ、記録を学校内で共有しやすい方法です。他にも”すぐーる”などの相互連絡システムなどの導入も進んでいます。

もちろん、電話に適した内容もあるため、一つの方法に統一する必要はありません。大切なのは、「誰に、どの方法で相談できるのか」を学校側が示すことです。

文部科学省の事例集でも、誰に相談でき、どのような対応を受けられるのかを周知し、相談のハードルを下げる取り組みが示されています(参照・事例集「学校と保護者・地域とのより良い関係構築に向けて」 文部科学省 2026/02/16)。

学校は、相談の入り口を担任一人に閉じず、「誰に、どの方法で、いつまで相談できるのか」を年度初めに全保護者へ明示すべきです。

保護者は「今回の話」と「過去の経緯」を分けて伝える

保護者にも協力が求められます。たとえば、相談の前に要点をまとめておくことが挙げられます。

一度の電話に多くの問題を持ち込むと、話がまとまりにくくなります。今日あったことを確認している途中で、「そういえば前にも」と過去の出来事が次々に加わる。「先生はいつもそうだ」「学校は前から何もしてくれない」。今回の問題から相手への人格批判や学校全体への批判に広がれば、電話は長くなります。

「今回の電話で何が確認できれば、いったん終えられるか」を決めておくことは有効です。今日の事実確認なのか、翌日の登校についての相談なのか、学校側の説明を聞くのか。目的を絞るだけでも話は整理しやすくなります。

過去の経緯が重要なら、その場で思い出した順に付け足すのは避けます。「いつ、何があり、学校に何を伝え、どんな対応があったか」を時系列でメモし、改めて確認した方が、行き違いを減らせます。

重大ないじめや安全に関わる問題であれば、時間をかけた事実確認が優先されます。「一度の電話を短くすること」と「問題を軽く扱うこと」は別です。

学校のカスハラ対策は、保護者と学校の新しい連携の第一歩

カスハラ対策だからといって保護者との連携を減らす必要はありません。むしろ、問題が大きくなる前に、必要な情報を短く共有できる関係を作るべきです。不満をためてから一度に伝えるのではなく、必要なことを普段から共有する。その際、電話だけでなく連絡帳や連絡用アプリを使えば、保護者が送る時間と学校が確認・対応する時間を分けることもできます。

学校は教員個人の善意に頼らず、必要な相談を組織で受け止める。保護者は要点を絞って伝える。この二つがそろって初めて、子どもは安心して学校に通えます。

学校は教員個人の善意に依存せず、保護者も積極的に学校とつながる。今回のカスタマーハラスメント対策の強化により、学校と家庭の関係がより良好になることを期待します。

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吉田克彦 公認心理師・精神保健福祉士・家族問題戦略家
合同会社ぜんと代表。大学在学中に子供の不登校や引きこもりに悩む家族を支援するNPO法人の立ち上げ、以降25年以上不登校や引きこもり問題に携わる。東日本大震災では被災地の心理支援にも従事。11年前から働く人の本人や家族のメンタルヘルス支援も行っている。本人が相談に来れない状況で関係者への支援を通した問題解決を得意とする。著書に『「できる」ブリーフセラピー』(金子書房)、共著に『小学校スクールカウンセリング入門』など。現在は「家族なんでも相談室」を運営している。
公式X:https://x.com/denkitiyy @denkitiyy
公式サイト:https://zento.work/

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2026年9月18日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。