佐々木彩乃氏の「中国留学」をどう見るべきか:Schwarzman Scholarsの実態から考える

福岡市長選への立候補を表明した佐々木彩乃氏の経歴が、SNS上で議論を呼んでいる。特に注目されているのが、佐々木氏が中国・清華大学のSchwarzman Scholars(シュワルツマン・スカラーズ)で学んだという経歴である。清華大学が習近平国家主席の母校であることから、中国との関係を問題視する声も出ている。

佐々木彩乃氏 公式サイトより

しかし、佐々木氏の経歴を考えるのであれば、まずSchwarzman Scholarsがどのようなプログラムなのかを理解する必要がある。そして、佐々木氏が実際にどのような形で同プログラムに参加したのかも確認しなければならない。

単に「中国の大学に留学した」という一言で説明してしまうと、このプログラムの性格を見誤る可能性がある。

Schwarzman Scholarsは「中国留学」だけでは説明できない

Schwarzman Scholarsは、米国の金融大手ブラックストーンの共同創業者であるスティーブン・シュワルツマン氏が創設した、清華大学の1年間の全額給付型修士課程である。正式にはGlobal Affairs(グローバル・アフェアーズ)を専攻するプログラムであり、中国、国際情勢、リーダーシップなどを学ぶことを柱としている。

Schwarzman Scholarsによれば、毎年、世界各国から最大200人程度の学生が選抜される。2026~27年度の第11期生は、世界40カ国、83大学から150人が選ばれ、5,800人を超える応募者から選抜された。新たな学生を加えた卒業生ネットワークは、107カ国、490の教育機関、1,500人以上に広がっている。Schwarzman Scholars自身も、このプログラムを21世紀の地政学的環境に対応する次世代のグローバルリーダーを育成するためのプログラムと位置づけている。

つまり、このプログラムの特徴は、単に中国の大学で学位を取得することだけにあるわけではない。中国について学ぶことと同時に、世界各国から集まった学生が互いに学び、国際的な人的ネットワークを形成することにも大きな意味がある。

もちろん、清華大学が中国を代表する大学の一つであり、習近平国家主席の母校であることは事実である。しかし、その事実だけから、同大学の国際的なプログラムに参加した人物の政治的立場まで推測することはできない。

むしろSchwarzman Scholarsというプログラムの性格を考えれば、「中国を理解するために、世界各国から若者を集めるグローバルなリーダー育成プログラム」と捉える方が実態に近い。

しかも、佐々木氏の場合は「中国での留学生活」ではなかった

ここで、もう一つ重要な事実がある。

佐々木氏がSchwarzman Scholarsに在籍した2020~21年度は、新型コロナウイルスの感染拡大の時期にあたっていた。そのため、プログラムはオンラインで実施された。東洋経済オンラインも、佐々木氏がこの時期にSchwarzman Scholarsに在籍していたこと、そしてプログラム自体がオンラインで実施されたことを報じている。

したがって、佐々木氏が清華大学の修士号を取得したことは事実である一方、北京に渡航して中国で生活しながら1年間を過ごしたという意味での「中国留学」ではなかった。

この点は、佐々木氏の中国経験を評価するうえでも重要である。

実際、佐々木氏自身は2020年の合格者インタビューで、Schwarzman Scholarsに応募した理由について、中国という国を理解する必要性を感じたことを挙げている。日韓関係、日米関係への関心から出発し、香港への留学を経験した後、「中国」という国の理解なしに今後の国際社会を理解することは難しいと考え、さらに中国本土について学ぶためにSchwarzman Scholarsに応募したと説明している。

同時に、佐々木氏は同プログラムについて、世界中から集まる学生から学べることも魅力だったと説明している。将来的には日中韓の相互理解を深め、3カ国の連携において橋渡し役を担いたいという目標も語っていた。

したがって、佐々木氏の経歴を「中国に留学した」という一言だけで説明することも、「清華大学で学んだから中国に近い人物だ」と推測することも、本人が当時説明していた留学の目的やプログラムの性格を十分に反映しているとは言い難い。

「中国を理解すること」と「中国に同調すること」は別である

中国に対する警戒感を持つこと自体は、現在の国際情勢を考えれば不自然なことではない。中国政府の外交・安全保障政策や経済政策については、具体的な政策や行動に基づいて検証する必要がある。

しかし、「中国を理解すること」と「中国政府に同調すること」は別の問題である。

中国が世界経済や国際安全保障において大きな存在感を持つ以上、中国について学ぶことには、それ自体に意味がある。中国の政治制度、経済、社会、外交政策を理解しなければ、中国との競争や協力についても適切な判断をすることは難しい。

実際、Schwarzman Scholars自身も、プログラムの目的の一つを、中国と世界についての理解を深め、グローバルな協力を担うリーダーを育成することとしている。現在のプログラムでは、中国、リーダーシップ、グローバル・アフェアーズを柱とするカリキュラムが組まれている。

したがって、「中国について学んだ」という事実と、「中国政府の政策を支持している」という判断の間には、大きな距離がある。

政治家の中国との関係を検証するのであれば、大学名や留学経験だけではなく、本人が中国政府の具体的な政策について何を語っているのか、日中関係や経済安全保障についてどのような政策を掲げているのかを確認する必要がある。

ただし、佐々木氏の経歴を過大評価する必要もない

ここで逆方向の注意も必要である。

Schwarzman Scholarsが国際的な選抜プログラムであるからといって、それだけで佐々木氏が国際政治や中国情勢について特別な専門家であると判断することもできない。

そもそも佐々木氏が参加した2020~21年度のプログラムはオンラインで実施された。したがって、現地で中国社会の中に身を置き、日常生活を通じて中国社会や組織を経験した人物と、まったく同じ種類の中国経験を持っているわけではない。東洋経済オンラインも、この点を指摘している。

つまり、佐々木氏の経歴については、過小評価する必要もなければ、過大評価する必要もない。

確認できる事実は、世界各国から選抜されるSchwarzman Scholarsに選ばれ、清華大学のGlobal Affairsの修士課程に参加したことである。そして、その年度はコロナ禍のためオンラインで実施された。

この事実から、中国や国際情勢について学ぶ機会を得たことは評価できる。一方で、それをもって中国社会を深く知り尽くしている、あるいは中国との特別な政治的関係を持っていると判断することはできない。

問われるべきなのは「どこで学んだか」だけではない

候補者の経歴を検証することは重要である。特に市長選挙では、候補者が国際情勢をどのように捉え、それを自治体行政にどう結びつけるのかを知ることには意味がある。

しかし、その検証は「どこの大学で学んだか」という一点で終わるべきではない。

佐々木氏について言えば、日米関係、日韓関係、中国への関心、香港大学への留学、Schwarzman Scholarsでの学習など、これまでどのような問題意識を持って国際関係を学んできたのかを時系列で見ることができる。2020年の本人の説明からは、中国を理解することを東アジア全体を理解するための一環として捉えていたことも確認できる。

その経歴を評価するかどうかは別として、少なくとも「清華大学で学んだ」という一点だけから政治的な立場まで推測するのではなく、本人の政策、発言、実際の行動を検証する方が、候補者についてより多くの情報を得ることにつながる。

中国に対する警戒と、中国についての知識を持つことは両立する。むしろ、中国の影響力が大きくなる時代だからこそ、中国を理解したうえでどのような距離を取るのかを考えることが重要になる。

佐々木氏のSchwarzman Scholarsでの経験についても、評価の出発点となるべきなのは、「清華大学」という名前そのものではない。そのプログラムが何を目的として設立され、誰がどのような基準で選抜され、佐々木氏自身がなぜ応募し、そして実際にどのような形で学んだのかという具体的な事実である。

政治家の経歴をめぐる議論だからこそ、象徴的なイメージではなく、こうした事実を一つずつ確認していく必要がある。

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