ベルリン市長カイ・ヴェーグナー氏「重要な課題について私の主張が市民の心に届かなくなった」

ベルリン市長カイ・ヴェーグナー氏「ここ数日で気づいたことだが、重要な課題について私の主張がもはや市民の心に届かなくなった」

ヴェーグナー市長が7月10日、9月20日に実施されるベルリン市(特別州)議会選挙で所属する与党「キリスト教民主同盟」(CDU)の筆頭候補者として出馬しないことを明らかにした時に飛び出した発言だ。同市長は2023年に実施された再選挙で得票率約28%を獲得して1999年以来ベルリンで君臨してきた社会民主党を破り、第1党に復帰して市長職に就任した。市長としてまだ3年余りしか働いていない。年齢的にも54歳と若い。その市長が再選を断念したのだ。

ベルリン カイ・ヴェーグナー市長インスタグラムより

政治家は自分の考えや信条を国民に語り掛けることが重要な職務の一つだ。その自分の考えを語っても、市民がもはや素直に受け取ってくれなくなった、と感じた政治家は苦しいだろう。政治家として死刑宣言を受けたような苦渋の思いではないか。市長曰く、「別の話題が他のすべてを覆い隠してしまっている」というのだ。

「別の話題」とはベルリン市民ならば誰もが知っている。ドイツの首都ベルリン南西部で新年早々の今年1月3日の朝、4万5000世帯と2200の事業所が停電に見舞われた。ヴェーグナー市長によると、停電の影響を受けた人は約10万人に上る。ベルリン市は同月4日に非常事態を宣言した。冬の寒さのため、電力復旧作業は遅々として進まず、多くの世帯が停電のために暖房も使えなくなった。

ベルリン市長の過失が問われたり、辞任に追い込まれる事件とは思えない。問題は、ベルリン市民が停電で苦闘していた時、ヴェーグナー市長は女性と1時間あまりテニスをしていた、ということが明らかになったからだ。そしてメディアから「停電中、あなたは何をしていたのか」と追及された時、市長は「自宅オフィスに閉じこもって仕事していた」と虚言したのだ。

これだけだ、と言えば可笑しいが、その結果、53歳の生粋のベルリン生まれの市長は辞任に追い込まれた。虚言が発覚した後、市長は名誉回復のために奮闘したが無駄だった。「もはや誰も私の言葉を信じなくなった」というのだ。9月の市議会選にCDUの筆頭候補者の立場から退くことになった。

ドイツで良く知られた話がある。2021年7月、洪水災害地の現地視察で、知り合いの人と笑顔を見せながら談笑している所をカメラ記者に写真を撮られ、その結果、次期首相の最有力候補者だったアルミン・ラシェットCDU党首がメディアから「国民が洪水で家屋を失っているのに、それを視察した政治家が笑いながら談笑するとは、なんと不謹慎だ」とバッシングを受けた。同政治家は最終的にはそのポジションから退かざるを得なくなった。

突然襲った停電の時、たまたまテニスをしていた。そして「事務所で仕事をしていた」とついつい嘘の弁解を言った市長はそのポストを失い、洪水被害地を視察した政治家は笑顔を見せて談笑したため、「不謹慎」ということでその後の政治生命を縮めることになった。ドイツの政界は想像以上に厳しい、というか、政治家に対して、国民やメディアは不祥事を許さないといった雰囲気がある。

参考までに、日本の政治家はどうだろうか。日本では元グラビアアイドルの女性とホテルに泊まり、不倫した野党「国見民主党」の玉木雄一郎党首は奥さんから追求されて謝罪したが、野党党首として議会で政治改革について発言を続けている。ドイツで同じようなことが明らかになれば、その党首は政治生命を失っていただろう。「自分の下部すら管理できない政治家がどうして国の政治を治めることが出来るか」といった追及が飛び出すことは必至だからだ。

もっと驚いたのは、岩屋毅外相(当時)の議員宿舎に中国人らしい女性がフリーパスで侵入した事件があったが、外相からは納得できる説明がないまま、幕を閉じた。あれは何だったのか。中国人の女性スパイ説から、訪中時に知り合いとなった女性(ハニートラップ)だとか、いろいろ週刊誌的話題を提供したが、肝心の事件の核心は闇の中だ。政治家のスキャンダルが大好きなメディアが外相の不祥事を余り深堀しないのは不思議だ。

日本とドイツで文化も風習も異なっているが、政治の世界でも大きな違いがある。「もはや自分の主張が市民の心に届かなくなった」と感じたベルリン市長が再選を断念したという話は、日本の政界では考えられないだろう。

なお、9月20日の市議会選で第1党となった左翼党は25日夜、緑の党、社会民主党の両党と連立交渉を進めることを決めた。ドイツの首都ベルリンで左翼党主導の市議会が発足する可能性が現実的となってきた。今となっては遅すぎるが、ヴェーグナー市長の辞任発言は少々潔すぎたのではないか(ヴェーグナー氏は新市長が誕生するまで市長の職に留まる)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年9月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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