東京大学の次期総長に、大学院総合文化研究科の藤垣裕子教授が選ばれた。東大史上初の女性総長となる。藤垣氏は科学技術社会論を専門とし、2021年から5年間、理事・副学長を務めた経験もある。

藤垣裕子教授(セコム科学技術振興財団)
1985年に東大教養学部を卒業し、1990年に大学院総合文化研究科博士課程を修了。その後、科学技術庁科学技術政策研究所などを経て、2010年から東大教授を務めてきた。
学内投票では染谷隆夫教授が過半数
しかし今回の総長選考には、奇妙な印象が残る。9月28日に行われた「意向投票」では、結果はかなり明確だった。
第1回投票では、染谷隆夫教授が818票、藤垣氏は400票で、過半数を得た候補がいなかったため上位3人による第2回投票が行われ、染谷氏は1107票、51.0%と過半数を獲得した。これに対し藤垣氏は553票、25.5%だった。意向投票と最終結果が違うのも史上初だ。
第1次候補者を推薦した代議員会の投票でも、染谷氏は45票で最多、藤垣氏は24票だった。つまり候補者選びの段階でも最終段階でも、教職員の支持は染谷氏の方がかなり強かったのである。普通の選挙なら、ここで勝負は終わっている。
「意向投票」は単なる「参考材料」
ところが東大総長選は、普通の選挙ではない。制度上、教職員による意向投票は総長を決める投票ではなく、総長選考・監察会議が最終判断するための参考材料の一つである。東大自身も、候補者資料、推薦書、面接、所信表明、共通質問への回答、意向投票などを「総合的に勘案」して総長予定者を決定すると説明している。
問題は別のところにある。東大が掲げた「求められる総長像」には、「組織構成員の幅広い支持を受け」ることも明記されている。自由・自律、多様性・包摂性とともに、学内の支持も総長に必要な資質として位置づけられている。
だとすれば、過半数の支持を得た候補ではなく、その約半分の票だった候補を選んだ理由について、大学側には丁寧な説明が必要だろう。
総長選の「女子枠」なのか
そこで出てくるのが、「これは総長選の女子枠ではないのか」という疑問である。もちろん、今回の選考に「求められる総長像」には、女性であることを評価項目とする記述はないが、それと選考過程の透明性は別問題である。
最近の大学では、入試の「女子枠」をはじめ、ダイバーシティーを数値目標によって実現しようとする政策が急速に広がっている。文部科学省も補助金でそう誘導し、東大も「多様性・包摂性」を重要な価値として掲げている。
その状況で、学内投票で過半数の支持を得た男性候補を退け、女性初となる候補が選ばれれば、「結論ありきだったのではないか」という疑念が生じる。意向投票は壮大な儀式にすぎないのか。
多様性を掲げるなら選考理由も透明に
「意向投票は単なる参考」という原則は事前に明らかにされているが、普通の選挙で過半数を得た候補が当選しないケースはまずない。どんなルールで何を評価して藤垣氏を選び、染谷氏の何が足りなかったのか。東大は具体的に説明しなければならない。
不幸なのは、説明不足によって藤垣氏が「女性だから選ばれたのではないか」と疑われてしまうことだ。その疑念を払拭する責任は選ばれた藤垣氏ではなく、選んだ総長選考・監察会議にある。






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