
先週、自民党の岩屋毅衆議院議員が訪中した。中国との貿易・経済交流の窓口である日本国際貿易促進協会(国貿促)の新任会長として代表団を率いた岩屋氏に対する中国側の応対に、『毎日』は「厚遇」と、同じ系列の『TBS NEWS DIG』は「異例の厚遇」との見出しをつけて報じた。
王毅外相や何立峰国務院副総理と会見したことを以って「厚遇」とするなら、桜内衆議院議長、橋本総理大臣、河野衆議院議長と三権の長が三代続いた国貿促会長に比べ前外相の肩書は如何にも小物。相手も中国共産党中央委員会中央政治局の序列9位と18位で、どこが「異例の厚遇」なのか理解に苦しむ。
が、それは措くとして、習主席訪米時の米国の厚遇ぶりと、トランプ政権が裏で繰り広げている様々な中国締め付け政策とを見れば、「厚遇」の真意がどこにあるか知れる。パナマ運河は手放さざるを得なくなり、ベネズエラとイランの石油も入手できていない中国を、おそらくトランプ氏は弄んでいる。
更に国立公文書館では、「台湾の法的地位は未確定」と記された、中国が不参加のサンフランシスコ平和条約原本まで、危うく拝まされそうになった。それでなくとも経済はガタガタで健康状態も不安、得るところなく9月の訪米だけが決まった春のトランプ訪中を、習氏はさぞ恨めしく思ったことだろう。
ホワイトハウスが9月25日に公表した米中首脳会談の「Fact Sheet」(「FS」)には、台湾の「TA」の字もない代わりに、先の大戦についてこう記されている。
The two leaders recalled that United States and China were allies in World War II and fought side by side to win the war.
両首脳は、米国と中国が第二次世界大戦で同盟国であり、共に戦って勝利を収めたことを改めて確認した(拙訳)。
党機関紙人民日報系の『環球時報』は27日、「中国の指導者は、第二次世界大戦中、中国人と米国人がファシストの侵略に対して肩を並べて戦ったことを指摘した」とし、「報道によると、米国大統領は“第二次世界大戦で共に戦った我々の偉大さを見よ”、“共通の利益の追求は、広大な海を越えて、多くの相違を超えて我々の人々を結びつけ、第二次世界大戦で我々を同盟国にした”と述べた」と書いた。
この発言に「トランプは歴史を知らない」などとする声もある。が、トランプ氏は「PRC:中華人民共和国」ではなく中華民国とも共通の「China」を使った。彼がどこまで当時の中国史に通暁しているか知らないが、ここ10年watchする限り、彼が人並外れて勘の働く人物であることは間違いない。
台湾の総統府メディア『中央通信社』は26日、ホワイトハウスの公表した「FS」によると「両首脳は、米国と中国は第二次世界大戦で同盟国であり、共に戦って勝利を収めたことを改めて確認した」とし、「台湾に関する記述が一切含まれていない」と報じた。
同メディアは、先の大戦に関し「中国側の発表にはこの発言に関する記述はないが、同日に中国国営新華社通信が発表した報道には含まれていた。台湾政府はこの姿勢を非難し、習近平氏が歴史的事実を歪曲していると非難した」と述べ、後者については「9月24日の会合に関して中国外務省が同日に発表した概要とは対照的である」と記している。
が、25日の『人民網日本語版』は、「習主席は、“中国側が国家統一と領土一体性を守る立場は明確だ。米側に対し、『台湾独立』に反対するという正しい立場を堅持し、台湾問題を慎重に処理し、中米の戦略協力と両国関係の発展に強固な基盤を築くことを望む”と強調した」と報じていた
つまり、両岸ともにトランプ取り込みに必死なのだが、「FS」や報道を読む限り、5月のトランプ訪中と同様に習氏にとっては実りの少ない訪米だったようだ。その代わりを日本で取り戻そうと思ったか、今般の岩屋訪中は、重宝した河野氏を後継する国貿促会長を中国側が招待する建付けとされる。
とはいえ、自民党少数野党内の大物相手では、中国が望む成果を得られるはずもない。が、筆者はそれでも、先方から当然要求されるはずの「高市答弁の撤回」に対して、岩屋氏が「答弁のどの部分を撤回せよというのか」と質しでもするなら、日本国民の多くと共に、彼を見直そうかとも考えていた。
なぜなら、高市答弁は予算員会の議事録にこう記されているからだ(太字は筆者)。
・・その台湾に対して武力攻撃が発生する、海上封鎖というのも、戦艦で行い、そしてまた他の手段も合わせて対応した場合には、武力行使が生じ得る話でございます。例えば、その海上封鎖を解くために米軍が来援をする、それを防ぐために何らかのほかの武力行使が行われる、こういった事態も想定されることでございますので、そのときに生じた事態、いかなる事態が生じたかということの情報を総合的に判断しなければならないと思っております。
つまり「米軍が来援する」のは中国による「海上封鎖を解くため」だ。よって中国が海上封鎖をしなければ米軍の来援もない。この理屈は米国による台湾への武器輸出も同じ。レーガンの大統領令は「米国が台湾に売却する武器の質と量は、中国の台湾に対する威圧の度合いに比例する」としているのだから、中国が武力による台湾統一を放棄すれば、米国も武器を売らない。
が、昨年9月の高市答弁以来、11月の金井アジア大洋州局長によるポケ手カウンターパートとの協議も含めて、このことを正面切って中国側に質したとの話は、未だ寡聞にして存じ上げない。日本がきっちり質せば、矛先が中国に向いて来る話だから返答に窮するだろうに。
それを良いことに中国は「撤回しろ」の一点張りだ。が、こちらが無視して応じなければ、そのうちにソロっと降りて来るのが中国の常である。コロナの発生源と北京を難じたオーストラリアへの制裁も、福島処理水に託けた海産物禁輸も、いつの間にか沙汰止みになっているのをみれば判ることだ。
米国の習氏厚遇とは違い、中国は日本に助けを求めるべく岩屋氏を厚遇しているのである。日本は慇懃に放置しておくことだ。







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