バルカン半島とクシュナー氏の投資計画

トランプ米大統領の娘婿であるジャレッド・クシュナー氏は、自身の投資会社アフィニティ・パートナーズ(Affinity Partners)などを通じてバルカン半島を中心に巨額投資を展開している。ただし、同氏の投資計画は現地の政治家や住民から強い抵抗に直面し、暗礁に乗り上がるケースも出てきている。

クシュナー氏とネタニヤフ首相 Wikipediaより

クシュナー氏(45)は2年前、アルバニア政府から「戦略的投資家」の地位を付与され、アドリア海沿岸などの手つかずの自然や軍事跡地を対象に、総額14億~50億ドル規模とされる大規模な観光開発を進めている。それによると、かつて共産主義政権の秘密軍事基地であったサザン島を、高級ホテルブランド「アマン」を冠した華麗な観光地に変貌させるとともに、アルバニア南部の沿岸地域および潟湖湖畔(ビョッサ・ナルタ自然保護区近傍)のズヴェルネツに、高級ホテルや別荘群を建設するという内容だ。

その計画が明らかになると、今年1月には、約40の環境保護団体が生物多様性への脅威を理由に、このリゾート計画の中止を求め、各地で抗議デモが始まった。 開発の地元では、絶滅危惧種やフラミンゴの生息地である脆弱な生態系が破壊されるとして「フラミンゴ革命」と呼ばれる大規模な反対デモが連日発生。さらに、用地取得を巡る偽造文書疑惑について組織犯罪対策機関(SPAK)が捜査に乗り出すなど、政治・汚職スキャンダルへ発展し激しい反発が続いている(イラン対アルバニアのホットな戦い」2026年6月13日参考)。

イラン対アルバニアのホットな戦い
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アルバニアのラマ首相は、経済効果や観光業の近代化、EU加盟の後押しになるとしてプロジェクトを強く後押ししている。クシュナー投資プロジェクトの承認後、アルバニア政府はこの地域の土地を保護区から外し、クシュナー投資会社の名前を特別投資パートナーリストに加え、建設のための法的許可取得を免除している。

クシュナー氏はまた、セルビアの首都ベオグラードの中心部にあった旧ユーゴスラビア軍参謀本部跡地に、ホテル、高級住宅、商業施設からなる3棟のタワー(トランプブランド)を建設する約5億ドル規模の再開発計画を進めてきた。メディアによると、クシュナー氏の投資会社はセルビア側との間で99年間の賃貸契約を締結したという。

セルビアのヴチッチ大統領は、ホテル建設プロジェクトを擁護し、「我々は彼らに土地を与え、彼らは少なくとも6億5000万ユーロを投資する。これは我が国にとって巨額の投資だ。これは売却ではなく長期リース契約だ」と強調した。同大統領によると、「ベオグラードのあらゆるものの価値が高まり、さらに多くの観光客が訪れることになるだろう。このプロジェクトは即座に10億ユーロ以上の価値を生み出す」と説明してきた。

ところが、昨年11月11日、数百人が旧陸軍司令部があった建物の取り壊しに反対する抗議活動を行った。同司令部建物は1999年のコソボ紛争中、北大西洋条約機構(NATO)空軍に爆破され、破壊されたが、セルビア政府は2005年、同司令部建物の残骸を保存するために文化遺産に指定した。しかし、セルビア議会が昨年11月に入り、その取り壊しを認め、その後に高級ホテルを建設する計画を「重要なプロジェクト」と認定したため、国民の一部で批判の声が上がってきた。

それだけではない。さらに、開発を強引に進めるために建物の保護指定を違法に解除したとして、セルビアの閣僚や政府高官ら4人が汚職などの罪で起訴される事態に発展した。

昨年12月23日のロイター通信によると、クシュナー氏の投資会社は「意義あるプロジェクトは分断ではなく結束をもたらすべき」として申請を取り下げ、同プロジェクトから完全に撤退している(「燻り続けるセルビア人の「反米感情」2025年11月13日参考)。

燻り続けるセルビア人の「反米感情」
セルビアの首都ベオグラードで11日、数百人が旧陸軍司令部があった建物の取り壊しに反対する抗議活動を行った。同司令部建物は1999年のコソボ紛争中、北大西洋条約機構(NATO)空軍に爆破され、破壊されたが、セルビア政府は2005年、同司令部建...

ちなみに、一部のセルビア人が米投資会社による高級ホテル建設計画に強く反対する背景には、セルビア人特有の反米傾向がある。コソボ紛争中のNATOのベオグラード空爆に遡る必要があるだろう。

コソボ自治州の独立問題で、NATOは1999年3月24日、セルビアの民族浄化の阻止と人道上の理由からベオグラード空爆(アライド・フォース作戦)を始めた。米軍が主導したNATO軍のベオグラード空爆は、セルビア人に強い反米感情を植え付けた。セルビアのインフラに大きな被害が生じ、多くのセルビア人が犠牲になった。そのうえ、国連安保理の承認を得ずにNATOが軍事行動を行ったこともあって、セルビア側の米国憎しの感情を生み出したわけだ。

クシュナー氏はセルビアでの投資計画を発表後、数か月で計画を撤回したことになる。セルビア人の反米傾向の強さを考慮に入れなかった結果だ。アルバニアの開発計画は依然、進められているが、その前途は不確かだ。

多民族、多宗教が混在するバルカンは昔から「欧州の火薬庫」と呼ばれ、恐れられてきた。そのバルカンでクシュナー氏は資金力を持って開発計画を提示したわけだが、現地の政治家、住民から強い反発が出てくるとは計算外だっただろう。ちなみに、バルカン地域は基本的にはロシア正教圏に入る。ロシアとは伝統的な関係を有する国が多い。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年10月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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