サッカーの「ワールドカップ(W杯)2026」の話ではない。イランは参加しているがアルバニアはW杯には出場していない。両国代表チームが戦うことはあり得ない。ところが、トランプ米大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー氏が率いる投資会社「アフィニティ・パートナーズ」によるアルバニアでの大規模な高級リゾート開発計画(総額40億~50億ドル規模)に対する抗議デモ(通称:フラミンゴ革命)が契機となって、アルバニアのラマ首相が「抗議デモの背後にはイランのハイブリット工作がある」と批判したことから、イラン側が反発、両国の非難合戦が始まったのだ。

フラミンゴを描き、ラマ首相を非難するプラカード、IRNA通信から、2026年6月10日
AFPは2日、ティラナ発で開発計画に反対する数千人規模の抗議デモを報じたが、同国のラマ首相は「イランが誤解を招く敵対的な発言を繰り返し、アルバニアの内政に干渉している。国内の抗議活動は観光建設プロジェクトや環境問題とは無関係だ。イランによる‘ハイブリッド戦争‘だ」と言い出したのだ。プロジェクトには、アドリア海に浮かぶ無人島サザン島や、南部ズベルネツに位置するヴョサ・ナルタ保護景観地域でのホテル複合施設の建設が含まれる。
クシュナー氏は2年前、アルバニアにおける開発プロジェクトの計画を提示した。それによると、かつて共産主義政権の秘密軍事基地であったサザン島を、推定14億ユーロ(約2600億円)規模の開発プロジェクトによって華麗な観光地に変貌させるとともに、ズベルネツに高級ホテルを建設するという内容だ。その計画が明らかになると、今年1月には、約40の環境保護団体が生物多様性への脅威を理由に、このリゾート計画の中止を求め、各地で抗議デモが始まった。
アルバニア側はクシュナー氏の開発計画に反対する抗議デモはイラン側が裏で操っていると受け取っている。それなりの理由はある。アルバニア南部沿岸の自然保護区(ヴヨサ・ナルタ)やサザン島(旧共産圏の軍事基地)でクシュナー氏による開発計画が始まると、環境破壊や汚職を訴える数千人規模のデモが国内で勃発した。その最中、SNS上で「このリゾート開発は、ガザ地区のパレスチナ人をアルバニアに移住・定住させるための隠れみの(カバー)だ」という偽情報・陰謀論が急速に拡散したのだ。
ラマ首相は、この陰謀論や抗議デモの過熱について、「イランが関与する情報工作(ハイブリッド戦)であり、偽情報を使って世論を操作している」と名指しで批判した。それに対し、イラン外務省のイスマイル・バガエイ報道官は8日、X上で猛反発し、「彼らはイランを非難し、フラミンゴもイランの治安工作員だったと言い出すかもしれない。イランに対するこうした主張はステレオタイプだ。シオニスト政権に何らかの形で近づこうとする支配機関は、イスラエル側を満足させるためにイランを非難する」と指摘、ラマ首相に対して「自国の主権を(米国の権力者に)売り渡しているのはお前だ」「自国国民の知性を侮辱するな」と強く非難し、激しい舌戦が始まったのだ。
アルバニアは欧州でのフラメンゴの重要な生息地
イラン国営IRNA通信は10日、「アルバニア首相の反イラン姿勢の理由を検証する」というタイトルで「『フラミンゴ革命』からイランへの非難まで:ラマは何から逃げているのか?」というリード文でかなりボリュームのある記事を掲載している。
IRNA通信によると、バカエイ報道官は「豊かな歴史を持つ文化ある民族として、国民の理解と意識を尊重する方が良い。彼らは善悪を見分ける。もしあなたが国家主権を売りたいなら、それはあなた次第だ。説明は不要だ」と、トーンを強める。
ラマ首相も負けてはいない。ソーシャルメディアのメッセージの中で、イランの奇妙なサイバー攻撃を非難し、「イランはアルバニアの公共サービスとデジタルインフラをサイバーテロキャンペーンの標的とし、わが国を完全に麻痺させようとしている」と糾弾している。ちなみに、2022年、アルバニアの政府機関や公共インフラが壊滅的なサイバー攻撃を受けた。アルバニア政府はこれを「イラン政府による攻撃」と断定し、イランとの国交を断絶した。サイバー攻撃を理由とした国交断絶は世界初だ。
IRNAは「ラマはガザでのイスラエルによるジェノサイドへの強固な支持により、イスラエル大統領名誉勲章を受け、占領下のエルサレムでイスラエル大統領アイザック・ヘルツォークから授与された。ラマはまた、最近の米国とイスラエルによるイランに対する2度の攻撃においてイスラエルの犯罪を支持している。彼は反イラン、イスラエル支持を表明することで、強力な西側政治家たちを味方につけ、EU加盟やアルバニアへの大規模な投資を得ることができると考えている」と、ラマ首相にターゲットを絞って攻撃している。
IRNA通信によると、トランプの義理の息子のプロジェクト地域はフラメンコの生息地域として保護地域の一つだったが、クシュナー投資プロジェクトの承認後、アルバニア政府はこの地域の土地を保護区から外し、クシュナー投資会社の名前を特別投資パートナーリストに加え、建設のための法的許可取得を免除したという。
なお、イランとアルバニア両国間の論争が単なる開発プロジェクトに対する環境保護云々ではないことは明らかだ。アルバニアは2014年以降、米国の要請を受け入れる形で、イランのイスラム体制打倒を掲げる最大規模の反体制武装組織「MEK」のメンバー数千人を難民として自国内に受け入れ、強固な拠点((アシュラフ3キャンプなど)を築かせた。イラン政府はこれを「テロリストの隠れみの」として激しく批判してきた。イラン指導部には、‘アルバニア憎し‘といった強い敵愾心があることは否定できない。
(イランの最大規模の反体制武装組織「MEK(モジャーヘディーネ・ハルグ)」は、1979年のイラン革命前から活動する歴史の長い組織だ。イスラムの教えと社会主義を組み合わせた独自の思想を掲げ、現在の神権政治に基づくイスラム体制の打倒を目指している)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年6月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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