「高市演説」の強さと弱さ:「強い経済」は人口減少社会にどう向き合うか

金子 勇

高市首相の「所信表明演説」

第222回国会における高市首相の「所信表明演説」(以下、「高市演説」と略称)は、A4で印刷すると約8800字になる。

「はじめに」を受けて、文字数の半分が内閣の看板である「強い経済」の説明に使われて、「成長の好循環、責任ある積極財政、日本成長戦略、危機管理投資、成長投資、地域未来戦略、物価高・消費税・支援金法案」そして「人口総合戦略」などに分かれた内容になった。

残りのうち「力強い日本外交」はやや詳しいが、それ以外の「防衛力とインテリジェンス機能の強化」、「国民の命と暮らしを守る」、「憲法改正、「むすびに」は簡潔にまとめられている。

経世済民

「はじめに」で使われたのが江戸時代の儒学に由来する「経世済民」(けいせいさいみん)であり、今日の「経済」の語源になった四字熟語である。「世を治めて、民の苦しみを救うこと」が経済である。

7月21日の『経済財政運営と改革の基本方針2026』(以下、「骨太の方針」と略称)では印刷原稿で38頁のうち22回も使われた「強い経済」は、「高市演説」でもまた同じように強調された。

「パワー・アジア(POWERR Asia)」

首相官邸が用意した演説を印刷して読み進んでいて、「力強い日本外交」の後半で(POWERR Asia)を見た時には、一瞬だが(POWER Asia)の誤植と思った。しかしこれは“Partnership On Wide Energy and Resources Resilience Asia”= 「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ」が原語であり、その通称が 「POWERR Asia(パワー・アジア)」 なのであった。要するに、アジア各国がエネルギー・資源の供給網を共同で強靱化する仕組みである。

特に、原油・石油製品などの安定調達、エネルギー・重要物資のサプライチェーン維持、各国の石油備蓄制度の整備・強化などを、日本がアジア諸国と協力して進める体制づくりと理解できる。これは内外の経済条件や外交関連でもきわめて重要な方向性である。

人口減少社会

その一方で、6月のいわゆる「骨太の方針」でも「人口減少」については、その末尾に「少子化と人口減少といった国内の構造的な課題も残っており」といった認識が示されただけであった。

しかし今回の「高市演説」ではやや具体化して、「強い経済」の終りの方で

人口減少は、静かに進む国難です。少子化の流れを反転させるとともに、人口減少社会に適応した新たな国のかたちを築かなければなりません。年末を目処に「人口総合戦略」を策定し、人口動態の将来シミュレーションと対応策の全体像をお示しし、その後、分野横断的に施策の検討を進めてまいります

と踏み込んだ内容になっている。

それらに期待するが、最新の高齢化データを組み込むことも忘れないで欲しい。

最新の高齢化の動態

9月21日の「敬老の日」を迎えた朝、年中行事としている全国紙(朝日、読売、毎日、日経)とブロック紙北海道新聞を購入して、敬老の日特集記事や高齢化の動態の最新情報を入手した。合わせてそのニュースソースとなった総務省「統計トピックスNo.149」を参照して、2026年敬老の日段階での日本の高齢化・高齢社会の動態をまとめておこう。

高齢化の動態に関しては日本新記録が続出して、中には世界新記録も認められる状態になっている。順不同だが、以下で整理しておこう。なお、総務省の集計は9月15日現在で行われていることに注意したい。

日本新記録、世界新記録が続出

(1)65歳以上の高齢者の全数は3624万人であり、2022年と24年と同じで過去最高を記録し、その比率は日本新の29.6%にまで上昇した。

(2)この29.6%は人口数4000万人を超えた世界39カ国の内で一番高く、世界新記録である。

(3)高齢化率第2位はイタリア(25.6%)であり、第3位はドイツ(24.3%)であることを鑑みれば、第二次世界大戦時の日独伊が上位3位を独占した現象が続いていることに歴史の不思議さを感じる。

(4)75歳以上の後期高齢者比率でも日本は17.7%であり、世界でもっとも高い。2位はイタリア13.3%、3位はドイツ11.8%なので、ここでも日独伊が上位3位までを独占した。少子化で出生数が少ないことが大きな理由ではあるが、日本がそうであったように、戦後80年間を通して「子どもを増やそう」という政府の呼びかけができなかったことにも原因の一端があるように思われる(金子、2026:111)。

就業する高齢者数も日本新記録

(5)総務省の労働力調査からも、高齢者の就業者数は943万人となり、22年連続で過去最多を更新した。高齢者の就業率は、65~69歳が54.5%、70~74歳が36.2%、75歳以上も12.6%になり、いずれも日本新記録を書き換えた。

(6)2025年の15歳以上の就業者総数に占める高齢者の割合は13.8%になり、これも過去最高である。

(7)従業上の地位別にみると、役員を除く雇用者は586万人であり、正規雇用は140万人(23.9%)、非正規雇用は446万人(76.1%)であり、10年前に比べると正規雇用が47万人増加、非正規雇用は178万人の増加になった。

(8)就業先は「卸業・小売業」が131万人で最も多く、次いで「医療・福祉」が122万人、サービス業が108万人、「農業・林業」が88万人であった。このうち「農業・林業」の高齢化率が非常に高く50.6%になり、このままでは10年後の「農業・林業」の従事者が激減する危険性を感じる。

少子化の一断面である「年少人口比率」は最低

(9)高齢化率は29.6%であったが、年少人口率は日本新記録の10.7%に下がり、15歳~64歳の「生産年齢率」も59.7%にまで落ち込んだ。

以上が26年の敬老の日のために総務省が発表した日本高齢者の現状である。

認知症、軽度認知障害の人の増大

次に、「国際アツルハイマー病協会」がWHOとともに設定していた「世界アルツハイマーデー」の9月21日を、2024年に施行した「認知症基本法」に基づき日本政府も受け入れて、「認知症の日」と定めている。そのため、今回の新聞五紙のうち朝日と日経では、かなり詳しい特集記事を掲載したことが特筆される。

図1は朝日からの転載であるが、「認知症高齢者数の推計」から分かるように、2022年を基点にした折れ線グラフは25年から35年をへて2050年まで増加傾向が見込まれている。

図1 認知症の割合とイメージ
(出典)『朝日新聞』2026年9月21日

22年の65歳以上の実数では、「認知症」が443万人(12.3%)、「軽度認知障害」が559万人(15.5%)、両者に非該当の高齢者が2601万人(72.2%)となっている。「軽度」までいれれば、約1000万人(27.8%)が該当することになる。すなわち、高齢者3.6人に1人が含まれるから、誰もが当事者になりえる。

ただし、その症状の進行を遅らせるレカネマブやドナネマブなどが使われてからは、図1「認知症に対するイメージ」にも10年間で少し変化が生じているように思われる。

要支援・要介護の現状

次に「要支援・要介護」の現状についてまとめる。なぜなら、高齢化が着実に進行することはそのまま認知症高齢者を増加させるとともに、2000年4月から始まった「介護保険」適用の高齢者もまた増大させるからである。

図2で分かるように、介護保険の20年の歴史で全体としては認定者が256万人から682万人まで実数で2.7倍に増加している。これによれば、「要支援」と「要介護1」のグループが3.2倍、「要介護2」=「要介護4」までが2.4倍程度、「要介護5」が1.7倍に増加したことが分かる。ただ図2の数字はやや古いので、最新の2024年7月に出された「介護保険事業状況報告月報」を使い、新しく表1を作成した。

図2 要支援・要介護者の推移
厚生労働省ホームページ(閲覧日2026年9月29日)

区分 要支援1 要支援2 要介護1 要介護2 要介護3 要介護4 要介護5 総計・平均
人数 1,030,060 992,532 1,457,039 1,178,336 919,603 890,206 576,884 7,044,669人
比率 14.6% 14.1% 20.7% 16.7% 13.1% 12.6% 8.2% 19.6%

表1 要支援・要介護認定者の推移
(出典)「介護保険事業状況報告月報」2024年7月

要支援・要介護認定率は約2割

これによると、認定者全体では704万人まで増えてきて、第1号被保険者としての高齢者全体3590万4092人では19.6%にまで認定率が推移してきたことが分かる。

「認知症と軽度認知障害者」も「要支援・要介護認定者」として重なっていることが珍しくないから、2040年から2050年にかけての日本社会は高齢化に伴う認知症と要介護問題への対応が喫緊の課題になるであろう。

人口減少に対処する「骨太の適応策」への期待

「高市演説」で約束された「年末を目処した人口総合戦略」では、10年から20年後を見据えた「骨太の適応策」の策定を期待する。

それには、今回のPOWERR Asiaを軸としたエネルギー・資源・供給網を確保」を前提にして、「強い経済」を実現するために「経済成長」そのものを目的とするのではなく、むしろその経済成長により「縮減社会」で何を行うのか、そしてその最終な目標を「生活の質の維持・向上」に定めてほしい。そうしなければ、8800字の演説原稿で「国民の皆様」が12回も使われた理由が分からなくなる。

「静かに進む国難」は「強い経済」を動かす人々だけではなく、1300万人の子どもたちも3600万人の高齢者もともに包みこむ「国民の皆様」すべてに直結するからである。

「正攻法」もいい、「必要な投資は先送りしない」も当然だ、「危機管理投資」も歓迎する、「はじめに」と「むすびに」で使われた「志ある者は、事竟(ことつい)に成る」も了解した。あとは「縮減社会」への適応の「骨太の方針」を間違えないことであろう。

「縮減社会」への適応こそが肝要

私は、少子化により高齢化とともに総人口減少社会が進行すると見て、2040年から2050年をめどに日本には本格的な「縮減社会」(shrinking society)が到来すると予測してきた(金子、2026)。

「縮減社会」とは、総人口が減り続ける⇒消費者も労働者も減少する⇒国民の需要、企業の・投資、国の税収が揃って減り続ける⇒経済社会システムの維持条件が変化する⇒エネルギー・資源・食料・技術・人材などの確保方法が変わる、という連鎖が生じる社会システムである。

さらに重要なことは、そのような社会で「人口を増やして成長社会に戻す」政策を実行しても無意味であり、50年かけての少子化による総人口減少と高齢化の進行にいかに適応するかを対策の柱にするしかない。もっと積極的にいえば、総人口が減少し続けるという資本主義の変化を前提として、経済社会システムそのものを再編する政策こそが求められる時代になる(金子、2023)。

その意味でも年末の「人口総合戦略」が楽しみである。

【参照文献】

  • 金子勇,2023,『社会資本主義』ミネルヴァ書房.
  • 金子勇,2026,『少子化と縮減社会』東京大学出版会.
  • 高市内閣,2026,『経済財政運営と改革の基本方針 2026』(令和8年7月21日閣議決定).
  • 高市首相,2026,「第222回所信表明演説」首相官邸.

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「少子化と縮減社会:新しいワークファミリーバランスをめざして」

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