先月6日に実施されたドイツ東部のザクセン=アンハルト州議会選挙は極右「ドイツのための選択肢」(AfD)が単独過半数こそ逃したが圧勝し、定数83議席中、39議席を獲得して終わった。その1か月後の10月6日、議会議長の選出選挙が行われ、AfDのトビアス・ラウシュ氏(35)が選ばれた。AfD議員が州議会の議長に選出されたのは今回が初めてだ。

ザクセン=アンハルト州議会議長に選出されたラウシュ氏、ザクセン=アンハルト州AfD公式サイトから
ところで、議長選出結果をじっくりと見ると、AfDは39票、そしてAfDと連立を模索する「サーラ・ワーゲンクネヒト同盟」(BSW)の5票を足すと合わせて44票だ。しかし、議長選では48票だった。AfDとBSW両党以外の政党から4議員がラウシュ氏を支持したことになる。
頭を整理する。州の議会定数は83議席、AfDは得票率43.8%で議席39を獲得、第2党CDUは17.2%で15議席、第3党「社会民主党」(SPD)は9.3%、議席8、第4党「緑の党」は8.9%、8議席、第5党「左翼党」は8.6%で8議席、そして最後に「サーラ・ワーゲンクネヒト同盟」(BSW)は5.3%、5議席だった。
メルツ与党の「キリスト教民主同盟」(CDU)、社会民主党(SPD)、そして野党の「緑の党」、左翼党はAfDに対し如何なる連携も拒否してきた。AfD排斥政策は通称「防波堤 」( Brandmauer)と呼ばれ、反AfD陣営が構築されてきた。
それではAfD議員とBSW議員以外でどの政党がラウシュ議員を議会議長に選んだかだ。「防火壁」破りの犯人探しだ。ちなみに、投票は無記名形式だ。
ドイツの政界に通じている人ならば、おおよその見当はつくだろう。メルツ首相が率いるCDU議員からラウシュ支持に回った議員がいたはずだ、という推測が生まれてくる。
実際、メルツ政権の連立パートナーのSPD側から「AfDに投票したのはCDU議員以外に考えられない」と、「防火壁破り」の責任を糾弾する声が飛び出している。この主張は根拠がないものではない。CDUとAfDは政策的には近い点があるからだ。例えば、移民対策ではほぼ同じ路線だ。緑の党や左翼党、SPDはAfDの移民政策を激しく批判してきたが、CDUはAfDの厳格な移民政策に同調している。
SPDから「防火壁」破りの犯人と指摘されたCDUの党首メルツ首相は7日、「AfDは反民主主義的であり、連携できる政党ではない」と指摘、懸命に無罪証明していた。ただし、メルツ氏が如何に叫んだとしても、CDU内にはAfDにシンパティを感じる議員がいることは周知の事実だ。
投票日の3週間前、同州のCDUの市長がAfDに投票するように呼び掛けると共に、AfDに数千ユーロを寄付していたことが判明し、CDUに大きな衝撃を与えたばかりだ。。同市長は、公開書簡の中で、「9月6日の選挙でAfDに投票する」と明らかにし、その理由として「安全問題から国家観、そして文化的アイデンティティ問題まで、CDUからはもはや保守的な価値観が感じられなくなった」と説明していた。
ここでちょっと立ち止まってAfDのような極右政党への対抗策として「防火壁」を構築することは正しい処方箋かを考えてみたい。欧州では各国で極右系政党が出現し、選挙で躍進している。ドイツでは、右派ポピュリズム・極右AfDに対する「防火壁」を巡る議論は、現在のドイツ政治における最もホットで対立点の一つだ。
例えば、今回のザクセン=アンハルト州議会選の場合だ。有権者10人のうち4人以上がAfDに票を投じた。その政党に対し、過激主義的で民族主義的だという理由で排斥することが果たして民主的かという点だ。少なくとも、AfDに投票した有権者を無視することになる。
CDUの主流派や社会民主党、緑の党などは、民主主義を守るために防火壁の維持が不可欠であると主張する。その背後には、1930年代のワイマール共和国末期、保守派の政治家たちが「ナチス(ヒトラー)をコントロールできる」と過信して手を組んだ結果、独裁政権の誕生を許してしまった、という歴史的猛省がある。
また、AfDは連邦憲法擁護庁から「極右の脅威」として監視対象に指定されている。彼らの掲げる排外主義的な政策、反ユダヤ主義的な言説、ロシア寄りの姿勢は、自由民主主義やドイツの保守が持つ基本価値(法の支配やEU連帯)とは根本的に相容れないため、協力をすることは自滅を意味するという考え方だ。
看過できない点は、「防火壁」政策には深刻な問題点が出てくることだ。AfDを排除するために、本来なら思想が全く異なる政党同士(例:CDUと左翼党や新興左派のBSWなど)が無理に大連立や少数政権を組まざるを得なくなる。その結果、政策の妥協と停滞が生まれ、政治の運営が難航し、国民の不満がさらに高まるという悪循環が生まれることだ。
一人のドイツ人記者が「羊(有権者)がオオカミ(AfD)に投票している」と表現していた。AfDへの「防火壁」問題は、 民主主義の防衛、歴史の教訓 現実的な統治など複雑なテーマが絡んでくるのだ。

AfDアリス・ワイデル党首インスタグラムより
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年10月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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