
お客様の話をさえぎって「それ、知っています」と言う。「私も同じ経験があります」と自分の話を始める。どちらも悪気はありません。本人は共感して距離を縮めているつもりなのでしょう。
けれどもお客様が話している途中で自分の話を始めれば、会話の主役はそこで入れ替わります。お客様が話し始めたら、その「相手のターン」は最後までお客様のものです。
私がお客様の話を聞くときに気をつけていることは5つあります。どれも地味なものですが、意識するようになってから会話がはっきり続くようになりました。
1つめは「ながら」で聞かないこと。電話をしながら別の作業をする。話を聞きながら資料をめくる。本人は聞いているつもりでも、関心が資料に向いていることはお客様にちゃんと伝わっています。
2つめは「それ、知っています」と言わないこと。知っている話でもお客様は話したくて口にしているのです。「知っています」のひと言で話は終わります。
3つめは先回りしないこと。「つまり、こういうことですよね」とまとめたくなる気持ちはよくわかります。私もやりました。(それも何度も。)先回りするとお客様がまだ話そうとしていたことまで止めてしまいます。
4つめは急に話を変えないこと。ここは少し熱くなってしまうのですが、お客様が気持ちよく話しているところに「では、商品の話に戻りますが」と割り込む営業を見ると、何のために雑談をしていたのかと言いたくなります。開きかけた心は一瞬で閉じるものです。話題を移すならまずお客様の話を受け止めてからにしてください。
5つめは体験を横取りしないこと。「最近、犬を飼い始めたんです」と言われて「うちにも犬がいるんですよ」と返す。共通点を見つけたつもりで自分の犬の話を始めれば、それはもうお客様の話ではなくなっています。共感とはお客様の体験をお客様のものとして受け止めることでしょう。
ここで少し頭を冷やします。5つとも特別な技術ではありません。お客様が話している時間を営業の都合で奪わない。言っていることはそれだけです。
最初の10分の時点では、お客様はまだこちらをよく知りません。こちらも同じです。相手を知りたいなら先にお客様が話しやすい空気をつくることです。次に何を言おうかと考える暇があったら最後まで聞く。少しだけ我慢すれば、お客様のほうから「もう少し話してみようか」となってくれます。
話をつなぐ力のことは営業の本にいくらでも書いてあります。本当に足りないのはお客様の話を「切らない力」のほうだと思っています。反論はあるでしょうけれど。
※ ここでは、本編のエピソードを編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、作家)
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『営業は最初の10分で決まる』(山崎雅行 著)あさ出版
■ 採点結果
【基礎点】 39点/50点(テーマ、論理構造、完成度、訴求力)
【技術点】 20点/25点(文章技術、構成技術)
【内容点】 19点/25点(独創性、説得性)
■ 最終スコア 【78点/100点】
■ 評価ランク ★★★ 標準的な良書
■ 評価の根拠
【高評価ポイント】
・切り口のわかりやすさ:雑談を2つに分け、自慢は認めて不満は受け止めるという返し方に絞ったことで読者が迷わず覚えられる。また、家族旅行や洗濯物を干す場所や犬を飼い始めた話など、営業の現場で実際に出てくる言葉で説明しているため場面を思い浮かべやすい。
・すぐ使える実践性:「ながら」で聞かない、先回りしないなど5つのポイントはどれも特別な準備がいらず、読んだ翌日の商談から試せる。
【課題・改善点】
・根拠の薄さ:主張の裏づけが筆者の経験則にとどまり、調査や具体的な商談の成果など説得の材料が示されていない。お客様の話を聞いたあと、それをどう提案や成約につなげるかの道筋がなく、傾聴を説く既存の営業書との違いも打ち出しきれていない。
■ 総評
本書は営業の雑談を「お客様の自慢と不満を聞く時間」ととらえ直し、認める・受け止めるという2つの返し方と聞くときの5つのポイントに落とし込んだ実用書である。
会話例が具体的で読んだその日から試せる手軽さがあり、若手営業の入門書として役立つ。一方で主張の裏づけは筆者の経験則にとどまり、「最初の10分」の根拠や雑談を商談へつなぐ道筋は書かれていない。傾聴を説く既存の営業書との違いも打ち出しきれておらず、標準的な良書の評価とした。








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