お客様は「自慢」と「不満」を話したがっている

先に結論を書いてしまいます。営業の雑談でお客様に話してもらうべきなのは「自慢」と「不満」です。天気の話でもこちらが仕込んできた小ネタでもありません。

一生懸命しゃべっているのに場が冷えていく。あの感覚を知らない営業はたぶんいないでしょう。私も若いころに何度も味わいました。こちらは雑談しているつもりでも、お客様からすればただ聞かされているだけなのです。人はもともと自分の話をしたい生き物です。なかでも口をついて出てくるのが自慢と不満でしょう。

『営業は最初の10分で決まる』(山崎雅行 著)あさ出版

試しにSNSをのぞいてみてください。昼に食べたラーメンの写真にも「見てほしい」が混ざっています。上司への愚痴の投稿は「わかってほしい」のかたまりです(そう言う私も褒められた日には投稿したくなるのですが)。

自慢の底にあるのは「認めてほしい」という気持ちです。不満のほうは「わかってほしい」。正反対に見えて根っこは「自分を受け止めてほしい」で同じなのだと思います。だから自慢と不満をきちんと聞ける営業は強い。ここは断言してしまってかまわないでしょう。

聞き方は少し変わります。「この前、家族で旅行に行ったんですよ」とうれしそうに言われたら「いいですね」と認める。「今の家は洗濯物を干す場所がなくて大変なんです」と言われたら「それは毎日のことだから大変ですね」と受け止める。それで終わりです。

ここで余計なひと言を足す営業が本当に多い。洗濯物の話に「乾燥機を入れればいいですよ」と返してしまうのです。親切のつもりでしょうが、お客様は解決策を頼んでいません。気持ちをわかってほしかっただけです。正直に言うとこれを見るたびに少しいらっとします。

話がそれますが、先日行きつけの床屋で店主が客の釣り自慢を延々と聞いていました。「すごいですね」「それは大きい」と相づちを打つだけで自分の話はひと言もしない。その客は会計のときに次の予約を入れて帰っていきました。営業の教科書に書いてあることを、あの店主は誰にも習わずにやっているわけです。

自慢や不満は何気ないひと言にまぎれて出てきます。「この前、子どもの運動会があってね」「最近、仕事が忙しくて」「新しい車に買い替えたんですよ」。商品とは関係のない話に聞こえるかもしれません。それでもお客様がわざわざ口にしたのは話したい気持ちがあるからです。

とくに会って最初の10分は、お客様がこちらとの距離を測っている時間です。そこで「そうなんですね」と流して切り上げるのは正直もったいない。もう少し聞いてみようと思えるかどうかで雑談の中身は決まるのではないでしょうか。まあ言うほど簡単ではないのですが。

※ ここでは、本編のエピソードを編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、作家)

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