バンクーバーの住宅価格は尋常ではない水準と言われます。最近売り出されたあるダウンタウンの高級高層コンドミニアムの㎡当たりの単価はおおよそ150万円ぐらいします。つまり70㎡でも1億円を超える価格帯になってしまいます。人々はそれでも買っていきます。それは将来もっと上がるかもしれないという期待感よりも将来上がって住むところが確保できなくなるという焦りからきています。
90年代半ば、バンクーバーやシアトルの私のまわりの友人や知人はこぞって住宅を買っていました。当時、30代の人たちですが、その頃も皆、全く同じことを述べていたのを覚えています。では、なぜ、不動産が将来的に上がり続けると考えているのでしょうか?
通常は需要と供給というバランスでものを考えます。ところがバンクーバーの場合、全く別のファクターがかかってきます。それは開発にかかるソフトコストとハードコストであります。
私がコンドミニアムを建てていた時の基準建設費はsfあたり300ドル程度でした。今もさほど変わりません。労賃は上がっていますが、建設資材の物価が下がっているためです。そこにソフトコストと称する開発に伴う役所への支払いや義務工事などの費用が加わります。当時、大体戸当たり数万ドルで建物価格の7-8%程度を占めていました。
これが最近になると物件によってはコストの2-3割を占めるようになるのです。なぜか、といえば市役所が許認可の申請費を大幅に引き上げた、環境規制などへの対応、非営利住宅建設や託児所建設への一定額の支援などその住宅を買った人が全く想像できないような費用が多分に含まれているのです。それは住宅が増える⇒街が発展する⇒インフラを整備する役所はカネがない⇒潤う開発業者に負担させる⇒新築住宅価格高騰⇒中古住宅もつられて上昇、というシナリオを描きます。
次にハードコストの部分です。バンクーバーのようにコンドミニアムの品評会のような街では設計家が腕を振るい、奇抜なデザインの建物を設計し、役所は「バンクーバーのアセットなる素晴らしいデザインだ」と称賛します。建築業は受注産業ですから新しいデザインに建設会社が頭を痛めながら施工します。が、残念ながら当初計画通りにいかないのは設計が複雑すぎて高層ビルの本来の特徴である「同じものを積み上げる作業」にならなくなっています。波打つ屋根、ねじれた建物、突起物がある建物など未来感覚の建物はもはやアートの世界で建築費が積みあがるのみならず、設計変更と工期の遅延でとんでもない建築コストがかかってしまうのです。
これら複合要因がバンクーバーの住宅が高騰した理由であって値上がりは必然的で景気の動向に左右されにくいという奇妙な背景が存在します。
日本の場合はどうでしょうか?まず、ある程度大きな開発事業ではない限り、マンション業者へインフラ負担金や環境整備の話は出てこないでしょう。建物はどうでしょうか?地震が多い日本は外観が余り奇抜なものは作れません。そのうえ、日本の建設会社はいかに早く予算内で終わらせるかという技能に長けています。つまり、予算も工期もある程度のところに収まります。これが日本の不動産の物価水準を作っているともいえるのです。
ずいぶん前にこのブログで日本も開発業者に負担金を出させれば役所や政府の財政赤字の改善に貢献できると述べたことあります。ロジックとしては正しいと思いますが、現実としては出来ないでしょう。ただでさえ日本のマンションの価格は上がりすぎて売れ行きがストンと落ち込んでいる状況です。長期的に値上がりすることに売り手も買い手も心構えが出来ていないとも言えます。
この視線で考えると値上げをさせないのは売り手と買い手の双方の欲求であって値下がりすることでウィンウィンの関係を築いているとも言えます。では誰がそのしわ寄せを受けているのか、といえば役所と政府の財政であります。言い換えれば政府はデフレの嵐に競い負けているともいえるかもしれません。
値上がりするから早く買う、という思想と価格が下がったからお得感で買うという思想の違いがよくわかる比較ではないかと思います。デフレ対策の難しさとはこんなところにも見て取れそうです。
では今日はこのぐらいで。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 10月16日付より