いよいよ12月16日の、衆議院選挙が迫ってきた。個人的な意見を言わせていたくと、どうしても日本のマスメディアは、有権者に対して、「政府が国民に何をしてくれるのか」、と言う観点で政党の選択をせまる報道をしているように感じる。今の日本の最大の課題は、「財政破綻をどう避けるのか。どうソフトランディング、あるいは、ハードランディングさせるか。」なのではないだろうか。
経済が専門ではない私がコメントするのも恐縮であるが、最大の課題である財政破綻回避に焦点を絞って、一つ一つの政治的テーマを議論すべきだと思う。増税一つをとってみても、極論すれば、財政破綻を避けるための一つの手段に過ぎない。財政問題を無視した政策決定は、いわば国家運営の基礎を無視した政策であるから、意味を持たないはずである。第三極の「官僚主導政治打破」の掛け声も、言い換えると「このまま旧態依然の政治を続けていると、あと何年もせずに日本の財政が破綻してしまう。」ことを意識しての声だと思う。本当はもっとこの事実を前面に出した議論と選挙活動をして欲しいと思っているのは、私だけではないはずあり、多くの国民の本音ではないだろうか。マスメディアはもっとしっかりして欲しい。日本国民は、事実を突きつけられてうろたえて、目先の利益のみを謳う政党を選ぶほど、愚かな国民ではないはずだ。
さて、「マイナンバー法の誤解」シリーズも今回で5回目を迎えたが、「マイナンバー法の真実」シリーズも加えると、8回にわたってマイナンバー法案の、問題点、誤解、混乱、その解決策について解説してきたことになる。この連載により、マイナンバー法案が、非常に多くの目的がてんこ盛にされてしまった結果、本来の目的を見失い、多くの問題点を抱え込み、どこに向かっているのか分からない、糸の切れた凧のような法案になってしまったことを、お分かりいただけたと信じている。
マイナンバー法案の本来の目的は、「社会保障と税の一体改革」であったはずだ。そして、その実現のためのツールとしての番号制度の導入だ。しかし、実際には、「電子政府のための国民ID制度」「身元証明書制度」「プライバシー保護制度」「高齢者不在問題」「震災時本人確認問題」「生活保護不正受給問題」「消えた年金問題」「住基カード問題」等の多くの問題解決を、その目的に入れこんでしまった。その結果、マイナンバー法案は、本来の目的である「社会保障と税の一体改革」のための番号利用の議論すらきちんとできていないまま、本来の目的から外れた活用検討の議論ばかりがされている状況にある。
日本国の財政(バランスシート)は、殆ど破綻状態にあることは周知の事実である。そんな中での、「社会保障と税の一体改革」、そしてその目的実現のためのツールである「番号制度」は、いかに国民の税金投入を最小化するか、無駄遣いをしないかに主軸において制度設計されなければならないはずである。残念ながら、今までの投稿で解説したように、マイナンバー法案は、その真逆の発想の下に制度設計が進んでしまっている。
そのマイナンバー法案は11月16日の衆議院解散に伴い、廃案になった。しかし、だからといって一から仕切り直しとなるとは限らない。自民、公明、民主は、三党合意を継続すると言っており、今回の選挙で、三党が議席の多数を獲得した場合には、廃案になったはずのマイナンバー法案が殆どそのままの内容で復活してくる可能性がある。その場合、法案に書かれずに、国会の外で検討が進んでいた事項も、そのまま引き継がれてしまうと思われる。国民の目に見えないところでの政治取引による合意というのは、その分、大きな力を持ってしまうようだ。本来であれば、マイナンバー制度は、選挙の大きな争点として、国民に問うべきテーマであっても良いはずである
次回以降の投稿では、「本来のマイナンバー制度はどうあるべきなのか。」その「あるべき姿」について解説を行っていきたい。今年4月に発行した拙著「完全解説 共通番号制度」(アスキー・メディアワークス)でもあるべき姿の概要について解説している。さらに、年明け早々の1月10日にマイナンバー制度のあるべき姿について一つの本にまとめ、徹底的に解説した書籍を発行する予定である。過去のアゴラへの投稿内容も含めて、数年に渡って筆者らが検討してきた内容を集大成し、詳細に解説した本である。私の投稿に興味を持っていただいている方々には、是非、ご一読いただきたい。
なお同著では、マイナンバーに留まらず、ビッグデータ社会が抱えるプライバシー保護の問題点と解決策についても詳しく解説している。
「マイナンバー法のすべて
~身分証明、社会保障からプライバシー保護まで、
共通番号制度のあるべき姿を徹底解説 」
東洋経済新報社
2013年1月10日発行予定
※拙著「完全解説 共通番号制度」を発行後、ビジネス界、法曹界、学術界等に渡り、実に多くの第一人者の方々とマイナンバー法案に関する熱い議論をさせていただきました。今回の新刊はその結晶であります。ありがとうございました。