安倍政権が誕生する。3分の2を取ったから、参議院の過半数がなくても、かなりの政策を思い通り実現できるだろう。野党との関係で制約がなければ、自民党としての制約条件の下で、経済的に望ましい安部政権のための経済政策を考えることは意味がある。自民党としての制約条件とは、現状を踏まえて、安倍政権が受け入れられるということだ。
一番の懸念材料は、ばらばらな経済政策の実施により、効果は半減、副作用は倍増となることだ。安倍氏は、素直でいい人だから、今は自分の勉強した成果を見せびらかしたくて、ひとりで盛り上がっているが(「安倍おひとりさまバブル」と私は呼んでいるが)、今後は、政治家の側近や総理就任後の政策アドバイザー(これまでの人々と変わる可能性、あるいは増える可能性が高い)の言うことにかなり影響されるだろう。そうなると、それぞれの側近、アドバイザーが主張する個々の論点を個別に気前よく(安倍さんがトップとして)実施していく可能性がある。こうなると、政策の整合性がなくなり、とりわけ、金融市場などは、一貫していないと、副作用ばかり大きくなってしまう。そこで、ここでは、政治的な制約条件を満たす中での整合的な政策トータルパッケージを議論したい。
まず、日銀にプレッシャーをかけて金融緩和をさらに拡大させる、ということは制約条件として残るとすると、その場合にとるべき手段は3つ。
インフレターゲット導入は、一つの政策としてありだと思うが、公に政治のプレッシャーを受けてというのではむしろ入れにくい。もう安倍氏はすでに白川日銀総裁と会談し、インフレターゲットを要請してしまったから、もう遅いが、これはあまりよくない。が、仕方がないので、可能な範囲で、日銀が能動的に採用した形を取りたい。導入の理屈としては、今までと緩和のスタンス自体は変わらないが、市場と日銀、そのほかの人々とのコミュニケーションの改善として、ターゲットを採用する、という形を取るのがよい。そのときにターゲットの水準は日銀に任せるのがよいが、これも2%と言ってしまっているので、日銀が1%-2%とあいまいな形にしても許容したほうが良い。
次に、日銀法改正はしない。これは波乱要因となるだけで、実利はない。米国のような雇用目標を入れたければ、実質的に日銀が一つの目標だと表明すれば済むことだし、日本においては、失業率の数字は高くない、景気に対する感応度は高くなく、また遅行指標(景気の回復後に数字が上がってくる)であるから、妥当な数値目標にはなり得ない。実際のところは、ほとんどの政策について、人事で影響を与えることが出来るから、日銀法改正はせずに、総裁、副総裁人事で影響力を発揮すべきだ。
さて、この人事であるが、あえて無難な人事をする。ベストは白川総裁を再任することだ。再任にもかかわらず、白川総裁の政策が変われば、自民党政権になったら、白川さんは積極的になった、という市場の評価が得られる。これで、安倍総理の評価は大きく高まる。人を替えれば、新しい総裁が注目を浴び、彼の手柄になってしまい、自民党政権による金融緩和という勲章がなくなる。したがって、政治的には、むしろ白川再任が賢い選択だ。白川再任でなくとも、日銀出身者、あるいは無難な人選で、日銀を安心させることにより、信頼感を醸成し、日銀に緩和をより積極的に行わせる、という考え方が絶対的に必要だ。日銀は、経済に責任感がないわけではない。まじめでプレゼンが下手で、政治的立ち回りが下手なだけなのだ。そこがバーナンキとの違いだが、これまで量的緩和、時間軸効果など世界で最もイノベイティブな中央銀行とも言われているから、むしろ自主的に緩和するように仕向けたほうが、うまく行く。北風よりは太陽が効果的だ。
金融政策と深く関連する為替政策については、円安は85円程度までなら許容範囲だが、今後の一番の波乱要因だ。日本経済にリスクがあるとすれば、極端な円安だ。円安のトレンドが確立すれば、日本売りしたほうが儲かるので、円と同時に日本国債が売り込まれ、国内投資家が資本逃避を進める。この国債暴落リスクを高くしないためには、悪い円安の進行に歯止めをかけるべきで、金融緩和をさらに加速するならば、もう一つの円安要因、経常収支の悪化を止め、改善することが必要だ。
そのためには、貿易赤字の削減を図るべきで、原発再稼動を迅速に積極的に行う必要がある。実際の再稼動は、参議院選挙後でもいいかもしれないが、再稼動のためのプランは直ちに立案実行するべきで、そのためにも、民主党政権以上の安全対策を行うことが前提となるだろう。補正予算による公共事業は、これを最優先するべきだ。
これで、強力な金融緩和とのバランスがとれ、悪い円安、海外資金逃避、国債暴落、銀行危機、という最悪のシナリオを回避することに全力を挙げてもらいたい。これは、自民党が望む公共事業の拡大に必要なことで、安定的な国債発行が実現することにより、可能となるのだ。
唯一つ、安倍政権が死守すべきことは、長期国債の名目金利の上昇を防止することだ。
これが株価上昇よりもGDP成長率上昇よりも、何よりも重要なことだ。