暗愚の保守主義

池田 信夫

新訳 フランス革命の省察―「保守主義の父」かく語りき安倍総裁が、日銀の白川総裁にインフレ目標を2%にする政策協定の締結を申し入れたという。まだ安倍氏は首相ではないのだが、彼の頭は大丈夫なのだろうか。第2次安倍内閣では麻生太郎氏が副総理兼財務相で入閣するといわれているが、彼も自民党政権の末期に大型補正を連発して何の役にも立たず、財政赤字を積み上げた。この暗愚の3代目コンビにまた財政をまかせるのは、泥棒に金庫の鍵を渡すようなものだ。


安倍氏は「保守主義」を自称しているが、日銀にインフレ目標を強要し、財政政策を拡大しようとしている。海外では、こういう介入政策を主張するのはクルーグマンのようなケインジアンで、保守派はFRBの過激な緩和政策に反対している。安倍氏が内閣府参与に迎えるといわれる浜田宏一氏のようなオールド・リベラリストがケインズ的な介入主義を主張するのはわかるが、安倍氏が大きな政府を主張するのは、保守主義を根本的に取り違えているからだ。

バークは「天から与えられた人権」にもとづいて合理的な人間が社会秩序を設計するというフランス革命の思想を徹底的に批判した。社会は複雑であり、それを特定の目標に単純化してそれだけを実現しようとすることは、全体のバランスを見誤る結果になる。

複雑な体制は、いくつものこみいった目標を満たすように構築されており、したがって個々の目標を達成する度合いにおいては劣る。だが社会が複雑なものである以上、「多くの目標が不完全に、かつ途切れ途切れに達成される」ほうが、「いくつかの目標は完璧に達成されたが、そのせいで残りの目標は放りっぱなしになったか、むしろ前より後退した」というよりましなのである。(p.97)

2%のインフレを実現するだけなら簡単だ。インフレ目標なんて面倒なことをしなくても、日銀がヘリコプターから無限に金をばらまけば、インフレは必ず起こる。あるいは麻生氏の好きな公共事業を無限に発注すれば、必ずインフレになる。

しかし、それが2%で止まって長期にわたって持続する保証はない。安倍氏の期待するように2%でコントロールできるかもしれないし、できないかもしれない。できなかったら国債も円も暴落して、日本経済は崩壊する。これは土居丈朗氏も含めて多くの専門家が警告しているが、安倍氏はそういうリスクには無頓着に「無制限の金融緩和」を主張している。

要するに安倍氏の主張しているのは保守主義ではなく、国家が最高の正義であり万能の司令塔だと考える国家主義なのだ。これは彼の祖父が北一輝から学んだ国家社会主義であり、日本には本来の意味での自由主義も保守主義も存在しない。1月からのアゴラ読書塾では、バークなどの古典に学んで真の自由主義とは何かを考えたい。