経世会的なるものの終焉 - 池田信夫

池田 信夫

民主党の小沢幹事長の元秘書などが逮捕されたニュースは、いったん落ち着いたと思われていた問題にあらためて火をつけました。まだ事実関係がはっきりしませんが、これまで報道されただけでも驚くべき事実が含まれています。それは小沢氏の裏金(?)4億円が鹿島などのゼネコンから提供されていた疑いが強いことです。


小沢氏は田中角栄直系の経世会の中心人物でしたが、田中と金丸信がカネの問題で失脚した経験に学び、政治資金については人一倍厳重に管理し、カネの出入りを公開していると思われていました。それが裏金という明白な違法行為に手を染めていたというのは信じられない。今どき自民党の政治家でも、こんな賄賂性の強い巨額のカネを受け取っている人はいないでしょう。

他方で「ああやっぱりな」という感じもあります。小沢氏は、自民党の中でもっとも自民党的な経世会の嫡子であり、利益誘導型政治のエキスパートです。それは高度成長の果実を地方に還元する自民党政治の中核的な機能でもありました。しかしその機能は90年代に崩壊してしまい、小沢氏はサッチャー=レーガン的な『日本改造計画』を掲げ、そういう古い自民党に決別した・・・はずでした。

ところが自由党を解党して民主党に合流してからの小沢氏は、以前の新保守主義的な主張とは逆に、農業所得補償や子ども手当などのバラマキ福祉に転換し、持論だった改憲論も封印してインド洋の給油に反対し、沖縄の基地問題でもかつての親米的な姿勢はみえない。かろうじて親中的な面だけが田中角栄に似ているぐらいです。

なぜこんなに変わってしまったのか――という私の質問に、『改造計画』のころ小沢氏と仕事をした大蔵省のOBは「小沢さんは昔とまったく変わっていない」といいました。彼によれば『改造計画』のほとんどは大蔵官僚が書いたもので、小沢氏が書いたのは有名な序文の「グランドキャニオンの柵」の話とイギリスの議会の部分だけだったとか。小沢氏は昔から権力を取ることにしか関心がなく、政策はそのための手段なのだ、というのが彼の解説でした。

そう考えると、小沢氏のこの20年の行動は一貫したものと解釈できます。彼にとっては、かつての新保守主義が自民党で権力を取る(それに失敗すると党を割る)ための理論武装だったのと同様、今の社民主義も自民党をつぶすための手段に過ぎないのでしょう。「政策より政局」というマキャベリズムは、田中角栄以来の伝統でもあります。田中の政策は、自民党としては社民的で一貫性がなく、利権の拡大のほうが目的でした。

こういうマキャベリズムが魑魅魍魎の跋扈する政界を生き抜くのに必要であることは確かでしょうが、いうまでもなく本末転倒です。小沢氏の側近が次々に離れてゆくのも、このような彼の冷酷な面をきらったケースが多い。「彼の社民的な顔は参院選までの仮面で、それから本性をあらわす」という推測もありますが、残念ながらその当否を確かめることは不可能になりそうです。

かつてはきわめて論理的でスケールの大きい政治哲学をもった政治家として海外からも評価の高かった小沢氏が、こんな汚職事件によって政界から姿を消すとすれば、日本の政治は田中角栄の時代から何も進歩していなかったことになります。政界の「失われた15年」は終わったように見えましたが、有権者が失った歳月を取り戻すには、また10年ぐらいかかるのでしょうか。

コメント

  1. https://me.yahoo.co.jp/a/u540mrdbVIb5etvNTFCFUJ40iuo-#576de より:

     全く同感です。
     小沢さんの日本改造計画は読まなくてはいけないと思い、amazonのマーケットプレイスで購入しました。価格は1円でした。(送料340円で元を取ってる模様)
     御説のとおり、「グランドキャニオンの柵」を見ただけで、他は陳腐なタイトルだったので読むに値しないと思い読んでいません。結果的に正しかったですね。
     「グランドキャニオンの柵」は大変素晴らしい論旨だったのですが、その後の小沢さんを見ていると、やはり権力だけが欲しかったのだと思わざるを得ません。
     しかもその権力を使って私腹を肥やしてる可能性まで出てきているわけですね。
     小沢さんの逮捕も時間の問題と思われますが、できれば国会開催中に実施して欲しいですね。
     民主党の皆さんに、逮捕許諾請求の踏み絵を踏むかどうか見てみたい。
     青木愛さん向けに一言、参院のとき投票したものですが、あなたも小池百合子さんになることを期待します。

  2. sil より:

    不完全な政治資金規正法って、国会議員にとっては諸刃の剣ですよね。グレーな部分が多いと裏金を作るには都合いいかもしれませんが、その資金に問題があるかどうかに関する線引きは検察の解釈にまかされるわけです。
    おそらくある程度権力のある国会議員にたたけばホコリが出ない人なんていないだろうから、検察の解釈しだいでいつでも逮捕される可能性が出てきます。1円でも違反した人は全員ペナルティ、というのなら話はわかりますが、今回のように突出した人だけ懲罰的に逮捕追求するというのは、国政に対する強力な権力を検察が手にすることになります。
    もちろん現在の検察機構が第三者の意図によって動いているなどという可能性はありませんが、今後何十年の間にそういう動きは出てくるかもしれません。
    国会議員にかたがたは、自らの身を守るために政治資金の透明化をはかられてはいかがでしょう?具体的には一議員一口座にまとめて、履歴を毎月報告する、それ以外の資金で政治活動を行った場合はペナルティ、ぐらいにすれば風通しもずいぶんよくなるのでは。

  3. somuoyaji より:

    検察機構は第三者の意図ではなく検察自身の保身のために動いていると考えます。自民党は目こぼししてもらっている間に検察に懐柔されることになりました。検察への風当たりが各方面で強くなっているのに対して、反省して立て直すという発想はどうやらないようで、逆に中央突破を図ろうとしているように見えます。

  4. edogawadamo より:

    結局そういう事ですか・・・それで合点がいきました。

    「大物、大物」と言われ続けて何十年、民主党を隠れ蓑にして政権を取った後は、ついに宿願叶って新保守主義政権実現という淡い期待は単なる夢想でしたか。対忠誠を誓う手下を沢山引き連れて権力を誇示するのも全て手段に過ぎない・・・のではなく、それ自体が彼の目的で政策こそ手段に過ぎなかったと。

    そもそも、「主義主張先ずありき」という政治家が存在するのでしょうか?彼らの関心事は先ず目先の選挙で当選する事、そして権力基盤を強固にして出来るだけ長く議員でい続ける事、それが生きていく為の手段だから。よって政治家にとって、この先天下国家がどうなるかというのは、実にどうでも良い事なのかも知れません。