アベノミクスには、生産性をあげる構造改革が誘発される政策を期待したい

大西 宏

池田信夫さんが明確に示したように、日本の経済再生は労働人口の減少にいかに歯止めをかけ、また逆転するかという問題と生産性をどうあげていくのかが本質的な解決の鍵を握っています。アベノミクスは、まだ金融政策以外が明らかになるのはこれからですが、どのようにその本質に向かった解決策を示せるのかが試金石となってくると思います。
池田信夫 blog : 老いてゆく日本で格差は拡大する – ライブドアブログ :


日本はもはや公共事業というカンフル注射で経済を再生することはできません。マスコミに登場してくる公共事業投資を支持するコメンテーターの多くの人たちがこの間語っているのは、公共事業の投資によって、雇用が増え、所得があがるので、消費も増える、それで企業の投資に弾みがつくという楽観論です。
しかし、歴史的事実はそうならなかったのです。見せかけの経済好転が逆に、本来は市場から退場すべき産業が延命し、産業の新陳代謝を遅らせてしまいました。だから投資が起こるどころか、結果として逆に長期の経済停滞を起こしてしまったのです。労働人口問題と生産性での慢性病を抱えている患者である日本の経済にいかにカンフル剤を打っても、短期的で見せかけの経済効果しか得られません。経済政策といえば難しそうですが、課題の本質が労働人口問題と生産性だという認識があれば、政策が適切なものか否かのチェックもできると思います。

まずは、労働人口問題、つまり働く担い手となっている人たちが減ってきていることは深刻な問題を起こしてきます。働く担い手が減少すれば、飛躍的に生産性を上げない限り当然経済も縮小していきます。しかも働く担い手となる世代は消費の担い手でもあるのです。

それだけではありません。重要なことは池田さんが指摘されているように、働く担い手が減れば、その稼ぎで支えられる従属人口が増えてくることで、「2030年には労働人口の7割に達し、2050年には9割を超える。ほぼ働く人ひとりで働かない人ひとりを養うことになる」社会が成り立つわけがありません。

本来ならば、移民政策が求められるのですが、移民政策にはアレルギーを持つ人がいて、国民のコンセンサスを得ることは容易ではありません。少子化対策は、極めて長期の対策が必要で、短期的な成果とならないために、票につながらず、政策としては語られても本気では実行されないということになりかねません。

国民のコンセンサスが得やすい政策となると、女性の労働力をいかに生かすかになってきます。日本はそれが遅れてきたのでまだ改善余地が残っています。女性が継続して働ける環境を整えることは長期的には少子化対策にもつながってくるものと思います。それと、定年退職後の人たちが働く環境をつくることです。ただ定年年齢の引き上げなどは産業の活力を削ぐ結果にもなりかねないので、高齢者の創業支援や地方の行政サービス部門の充実などに向けるべきでしょう。

10もうひとつの生産性の問題ですが、日本の労働生産性はどの程度だと思われますか。日本生産性本部の試算によると、2010年で、OECD加盟国34カ国中20位となっていますが、日本に続いているのがギリシャです。ギリシャといえば、公務員が多く、働かないというイメージを持っている人が多いと思いますが、日本は、68,764 ドルで、ギリシャの66,349ドルと似たり寄ったりという程度に過ぎません。生産性でトップのルクセンブルグやノルウェイは出稼ぎ労働者が入っていないことなどがあり特殊だと思いますが、第三位のアメリカの102,903ドルと比べても日本の労働生産性は2/3程度(66.8%)でしかないのです。

日本人は勤勉でよく働くにもかかわらず、稼ぎが悪いというのが現実なのです。製造業は生産性が高く、1995年には世界でトップにまで登りつめていたのですが、その製造業ですら、労働生産性は米国水準の63%、OECD加盟主要21カ国中第10位にまでランクダウンしてしまっています。
国民ひとりあたりのGDPのランキングの推移を見れば、いかに日本の経済力が落ちてきたかの現実がよく分かるものと思います。
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労働生産性の国際比較2011年版より引用

労働人口が減少してきてくると、生産性を上げていかなければ、経済は縮小していくのは当然ですが、生産性のなぜ低くなっているのかから紐解いていかなければ、日本の経済の再生はありません。
考えることのできる最大の理由は、日本がデジタル革命やグローバリゼーションによって生まれた時代の変化への対応に遅れたことだと思います。より効率性が高い分野に投資が行われず、むしろ途上国と競合する分野に投資を行なってしまい、投資効率を落としてしまったのです。工業化で成功してしまったために、脱工業化の時代の流れに向かうのが遅れてしまったのです。

しかし、ご紹介する日経ビジネスの記事は、資本と労働の双方で見た生産性が上昇してきたことを紹介し、その解明が必要だとしていますが、それは投資を抑え、リストラを行ったことでしかなかったのではないでしょうか。産業が世代交代した結果とは到底思えません。
失われた20年、実は日本の生産性は成長していた:日経ビジネスオンライン :

より付加価値を生み出すこと、古い生産性の低い産業救済に向けた政策ではなく、新しいより付加価値を生み出せる産業を育てることに向けて何をすべきかを解明し、そこに知恵と人材と資本を集めてこそ、日本の生産性向上もはかれます。

ぶれない政治とは目標が明確だということです。日本が求められているのは労働人口問題を解決し、生産性をいかにあげていくかであって、それから外れた政策では日本の経済の閉塞状況を打破できるとはとうてい思えません。
若くて、野心や情熱を持ち、勢いのある企業がどんどん生まれ、活躍できる環境を整えていくことが日本の経済の最大の課題なのではないでしょうか。