正社員と非正社員の賃金を同じには語れない --- 太田 哲郎

アゴラ

同一(価値)労働同一賃金は、同じように努力をした人は同じように報われる、同じ結果を残した人は同じように報われる、という考えに基づいている。それは、一見理にかなっているように思える。

現行法では、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律に規定があり、職務内容が「通常の労働者(正社員)と同視すべき労働者」で、契約期間が無期ないし無期と同視できる短時間労働者については、「賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について」均等な取り扱いが(均等待遇)使用者に義務付けられている(8条)。


上記には当てはまらない「職務内容同一短時間労働者」及びその他の短時間労働者には、正社員との「均衡」を考慮しつつ賃金を決定する(均衡待遇)努力義務が使用者に課されている(9条)。また、労働契約法3条2項にも、労働契約は「均衡」を考慮しつつ締結するものと規定されている。

「均等」は同等の取り扱いを求めるもので、「均衡」は一定の格差を容認している。職務内容が同一だとしても、正社員と非正社員では、責任の重さ、ストレス、配転・出向の可能性、残業の有無等、様々な違いがあるため、それらを考えた上で均衡が取れる賃金とするのは当然の帰結といえる。

EUではEC指令により同一(価値)労働同一賃金が確立した原則としてあるが、賃金が仕事に値段の付けられる職務給がベースとなっている。

日本の正社員については、終身雇用の慣行の下で内部労働市場が形成されており、賃金制度は職能給ないし職能資格等級が主であり、社員に能力の等級が設定され、それに応じた賃金が定められている。

一方、非正社員は、外部労働市場であり、労働の需給によって賃金が定められ、職務給となっている。

このように正社員と非正社員では、労働市場と賃金決定法が異なるため、単純比較などできない。

非正社員には、扶養の範囲内で働く主婦(主夫)や学生なども含まれているのであるし、一律に賃上げを求めるのでなく、賃金が低いと生活が困窮する者に対する社会保障制度を設計する方が妥当ではないだろうか。

太田 哲郎