今日はアウディの比較広告について論じさせてもらおうと思います。アウディはVWグループに属し、トヨタにおけるレクサスと同じポジショニングのブランドです。その彼らの比較広告とは、アウディ以外の商品に抱いている幻想と言うか、押し付けられた呪縛を解くのはアウディだ、という内容です。
比較広告になじみが薄い日本では非常に過激に映るかもしれませんが欧米では当たり前の広告です。
僕はマーケティングとは利害衝突する企業間の戦争に勝つための戦略と戦術であると考えます。
それがいいとか悪いとかではなくて、事実そうだと言っているだけです。
マーケティングはいわゆる4P(Price Product Place Promotion)が大事とか、顧客志向が大事などと言われますが、それら自体は100%同意します。しかし、それらは手法であり、本質は競合他社に勝つための戦略と戦術というべきでしょう。だって企業は商品を売ってナンボなのですから。
ソーシャルメディアが普及した現在では消費者同士が情報をWebにアップし、即座に共有します。だから顧客の心をつかむために企業はありとあらゆることをしなければなりません。しかし、それもまた21世紀のマーケティングのルールであってもゲームとしての本質ではありません。マーケティングは競合他社ではなく、自社の製品を顧客に選んでいただくための競争に勝つことであり、そのための戦略と戦術です。
狭い市場、商品がハードウェアかソフトウェアかは関係なくパッケージ化された市場では、この競合状態がよく分かります。車のように、参入障壁が比較的高く、歴史が長い業界では、競合状態が非常に分かりやすいのです。(逆にネットサービスやコンサルティングのような業務だとなかなか明確になりづらい)
アウディUSのマーケティング責任者は「アウディは米国において、メルセデス、BMW、レクサスよりも短期間で、認知度をアップさせてきた」と豪語したそうですが
(http://bit.ly/b2wKRy)、同時に放映し始めたCM「Spell」においても、同じことをはっきりと述べています。Spellとは呪文のことです。
|| テレビCMはこちら :http://bit.ly/bjnNtx
このCMの作りはシンプルです。
まずスーパーカー(フェラーリ)を夢見る子どもが登場します。
そして、レクサスの四駆を前に誇らしげなキャリアウーマン。
メルセデスを前に誇らしげなビジネスマンたち。
BMWを前に誇らしげな夫婦。
しかし、そこに現れるアウディに夫婦は興味を引かれます。そしてキャリアウーマンはアウディの四駆に瞳を奪われ、アウディのオープンカーにビジネスマン達はあっけにとられます。
そして。最後にゆっくりと現れたアウディのスーパーカーR8に、子どもの顔に喜色と憧れの表情が浮かぶのです。
メッセージは二つ。
まずはユーザーの心を縛ってきた呪文はアウディによって解かれた。
そしてアウディはレクサスよりもメルセデスよりもBMWよりも早くシェアを伸ばしている、というものです。
僕の考えでは、マーケティングとはまずどの市場でのシェアをとりにいくのかを決めなくてはなりません。そのうえで、戦うべき敵が誰かを認識します。そして、その敵に勝つためのプランを策定し、実行します。それがマーケティングです。
アウディのCMは、まさしくこのプロセスを体現しています。欧米型のマーケティング戦略によるCMの見本のような攻撃的なCMと言えるでしょう。
欧米企業はマーケティングを市場競争における戦略と戦術であることを理解しています。現代のマーケティングは消費者との対話が不可欠ですが、それはライバルに勝つという目的があるからです。そこを抑えない限り、アウディのようなCMは作ることができないのです。