消費増税5%の延命効果は約4年

小黒 一正

現在のところ、アベノミクスに対する市場の期待が先行し、円安株高が継続している。この円安株高のメリットが実態経済にも波及し、デフレ脱却や名目賃金の上昇を含め、経済を活性化する好循環を引き起こすことになれば望ましいが、残念ながら、それで財政問題は解決しない。


これは、日経ビジネスONLINE掲載の「2%インフレ実現でも消費税率32%」で説明した通りである。もし日本経済がデフレを脱却し、2%インフレを実現した場合でも、段階的に増税を消費税で行うケースでは、Braun and Joines (2011)の試算が明らかにするように、財政を安定化させるピーク時の消費税率は32%にも達する可能性が高い。

しかも、この試算では、2%インフレが実現するという前提の下、以下のような相当厳しい「政府支出削減プラン」の実行を前提にしている。


・高齢者の医療費窓口負担を20%とする
・年金給付の現役時年収半額保証をはずす
・政府の経常経費を1%削減する

それでも、ピーク時の消費税率は32%に達するのである。これは、かなり厳しい現実である。しかも、以前のコラムでも指摘したように、改革の1年先送りは、消費税率を1%引上げる(または、消費税1%分に相当する歳出削減を迫る)。これを「ディレイ・コスト」というが、改革が遅れれば、このコストは徐々に増加していってしまう。にもかかわらず、最近は、消費増税を先送りする方がよいとの議論も出てきており、極めて心配である。

では、現在、政府・与党が予定している2014年・15年の消費増税を実施するケース(以下「実施シナリオ」という)は、実施しないケース(以下「先送りシナリオ」という)と比較して、どの程度の延命効果をもつのだろうか。

実は、この延命効果についても、Braun and Joines (2011)は試算している。Braun and Joines (2011)では、「政府債務(対GDP)を発散させないために、消費税率を100%に上げざるを得なくなるまで、「実施シナリオ」では消費税率10%を維持、また、「先送りシナリオ」では消費税率5%を維持する」と想定している。

このような前提に基づく場合、「実施シナリオ」では2032年まで持続可能であるが、「先送りシナリオ」では2028年まで持続可能であるとの推計結果を導いている。これは、今回実施予定の消費増税5%の延命効果は「約4年」に過ぎないことを示唆する。

なお、消費増税5%分の税収増=約12兆円は、毎年1兆円超で膨張する社会保障費や、これから毎年1兆円弱で増加する利払い費(10年間で8兆円増=以前のコラムを参照)の増分合計が約2兆円であるから、その合計で単純計算すると、「約6年」(=12÷2)で食い潰すことになる。「4年」と「6年」では数字が若干異なるが、Braun and Joines (2011)の試算の妥当性が容易に確認できる。

(法政大学経済学部准教授 小黒一正)