改革の1年先送りは消費税率を1%引上げる

小黒 一正

現在、民主党執行部は2015年に消費税率を10%に引き上げた後の追加増税を巡って、2016年度を目途に法制化するとした規定の取扱いを検討している。

追加増税に関する議論が出てくる背景は、非常に単純である。

というのは、内閣府が推計した「経済財政に関する中長期試算」によると、消費税を10%に引上げても、2020年度には基礎的財政収支が再び約18兆円の赤字になる。

「消費税1%=2.5兆円」とする場合、この赤字の解消には、さらに消費税7%分の引き上げが不可欠であり、消費税を17%にする必要があるからである。


また、拙著『2020年、日本が破綻する日』(日経プレミアシリーズ)では、財政・社会保障の持続可能性を維持するために必要な最終的な消費税率は25%と試算しているが、最近、海外でも日本財政の持続可能性に関する研究が増えてきている。

例えば、アトランタ連銀のブラウン氏と南カルフォルニア大学のジョーンズ教授の研究では、財政を安定化させるために2017年に一気に消費税率を引き上げるとすれば、税率を33%にする必要があると推計している。

なお、この研究では、消費税の引き上げを2017年から22年度に5年遅らせる場合、必要な消費税率は37.5%に上昇すると推計している。

33%と37.5%の差は4.5%であるから、1年間の改革の先送りで、財政を安定化するために必要な税率は約1%上昇する。

これは「ディレイ・コスト」と呼ばれているもので、引上げの時期を遅らせれば遅らせるほど、最終税率が高くなることを意味する。

こうした研究で示される数字は、金利や経済成長がどうなるか、という想定によって大きく変化するので、幅をもってみる必要があるが、これらの研究に共通するコンセンサスは、消費税20%では不十分であり、少なくともそれ以上の税率に増税しないと、財政を持続可能にすることはできないということである。

その際、メディア等では税率に関心が集まる傾向があるが、「1年間の改革の先送りで、財政を安定化するために必要な税率は約1%上昇する」という「ディレイ・コスト」の存在も強く認識しておく必要があろう。

「ディレイ・コスト」の上昇が若い世代や将来世代の負担を高めることは明らかであり、世代間の公平性を考慮するならば、できる限り早い改革が望まれる。

(一橋大学経済研究所准教授 小黒一正)