FRBが今年は年内複数回の利上げを見込み、イングランド銀行も英国のEU離脱というショックがあったものの今後の方向性としては利上げが視野に入り、ECBはデフレ脱却を表明し緩和に傾倒していた姿勢にブレーキを掛け始めた。
欧米の物価は2%近傍となり、物価目標という意味合いからも世界的なリスク発生による異常な緩和政策からの出口を探る方向に舵を切るなか、日銀だけが異常な金融緩和政策からの脱却の道筋が描けずにいる。
この要因としては、安倍首相の登場で日銀法改正までちらつかせながらリフレ的な政策を日銀に要求し、欧州の信用不安が後退しつつあるタイミングで、日銀がそれを行わざるを得なくなったことにある。しかもインフレターゲット政策として2%の物価目標を掲げ、それを金融政策で達成しようとしたことに無理があった。
日本の消費者物価がなぜ2%にならないのか。それは日銀の緩和が足りなかったわけではないことを理解するのに4年以上の時間をかけた壮大な実験を行ってしまったのが日銀である。しかも、その間に異次元緩和の拡大やらマイナス金利政策まで導入してしまった。量的緩和とマイナス金利という相反する政策が矛盾を来たし、その結果、今度はそこに長期金利まで操作対象にするという、なんでもござれの政策を実施している。シン・ゴジラは第四形態となってより強力な存在となったが、日銀の金融緩和の第四形態(QQE、QQE拡大、マイナス金利、長短金利操作付き)は無理に増築に増築を重ねた巨大で歪な構造物となりつつある。
ただし、日銀は出口政策にまったく目を向けていないわけではない。金利を下げることが金融緩和であるが、マイナス金利政策によって金融機関の運用に支障を来してしまった。このため長短金利操作という手段を導入したが、これは長い期間の金利を「上げる」政策となっていた(イールドカーブのスティープ化)。
また、国債の買い入れはいくらでもできると豪語しながら、現実には年間の国債発行額のほぼ全額を買わざるを得ない状況となってしまっている。来年度の国債発行額の減額もあり、日銀の国債買入は減額せざるを得ない。それが1月の日銀の国債買入のスキップであったが、市場との阿吽の呼吸ができずに市場を混乱させた。しかし、国債の日程を事前公表するなどして、市場にそれとなくステルステーパリングを認識させた。80兆円という買入の数字はすでに目標ではないし、現実にはそれを下回る国債買入となることが予想される。目標でなければテーパリングという表現はあてはまらないかもしれないが、現実には国債の需給を睨んだステルス的なテーパリングを行っているのが現状である。
日銀は表面上は緩和姿勢を維持させているように見せながら、これ以上の金利低下や国債買入の増額を模索しているというよりも、いかにして長期金利を現在の政策金利に抑え込めるのか、いかにして国債買入の減少をうまく実施させていくのかが、いまの日銀の課題になっているように思われる。
27日に公表された3月15、16日開催の金融政策決定会合における主な意見では、「本行の金融政策が注目されている中では、市場の状況次第で、我々の情報発信が、意図と異なった受け止め方をされ得る。情報発信にあたっては、その時々の状況を踏まえることが肝要である。」との意見があった。この日銀の意図とは何なのか。本当のところの意図が言いたくても言えないところから市場の誤解を招くといったリスクもあるのではなかろうか。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年3月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。