ブロードバンドは経済問題である - 池田信夫

池田 信夫

海外の学会で議論すると、”Be provocative!”とよくいわれます。「アゴラ」は論争の場としてつくったので、論争を「心苦しく」思う必要はありません。今回の「アクセス回線会社」案は、政治的には不可能(総務省も1年後に先送りした)ですが、今後の日本のブロードバンドを考える重要な素材を提供したと思います。


まず通信インフラは単なる技術の問題ではなく、第一義的には経済問題であることに注意が必要です。ソフトバンクの孫正義社長は、昨年の決算発表で次のようにのべています:

光ファイバーは必要なのか、むしろ少し遅れた人が光ファイバーを使っているのではないか。iPhone前は、家に帰ると1~2時間もパソコンの前に座っていたが、今は日中に仕事が完了し、寝る前に5分未満確認するだけ。すべての携帯電話がiPhone化し、モバイルインターネットマシン化してくることで、光の必要性がなくなってくる。ソフトバンクの社員はみんなそう思っている。光を利用するのは地デジのアンテナが建てられない地域になるだろう。

私は、この認識が正しいと思います。通信の価値を示す基準は、ビットレートだけではなく、いつでもどこでも使えるという自由度との2次元平面で考える必要があります。経済学に無差別曲線という概念があります。いま数Mbpsの携帯のARPUが数十MbpsのFTTHとほとんど変わらない(無差別である)ことから考えると、大ざっぱに次の図のような関係があると考えられます(距離を自由度の代理変数としました):

indiff
これと予算制約(直線)をあわせ考えると、かつては携帯の料金が非常に高く速度が遅かったため、図のAのような固定ブロードバンド(DSLやFTTH)しか選択肢がなかったと考えることができます。しかし3GやiPhoneによってモバイル・ブロードバンドの利用可能性(予算制約)が広がったため、図のBのように需要が無線にシフトしてきました。

この傾向は、今後も続くでしょう。固定ブロードバンドは頭打ちですが、無線ブロードバンドは、iPadの爆発的な人気に見られるように、さらに需要が大きくなると予想されます。世界的にみても、アメリカのILECは固定回線を売却して無線に特化し、光はバックボーンや業務用に限定する方向です。新興国は、すべて無線です。NTTでさえFTTHは赤字営業で、2000万回線にもならないと見ています。他方で、無線の帯域は絶対的に不足しており、これは今の不合理な電波政策が続くかぎりボトルネックであり続けるでしょう。

つまり固定回線はすでに需要が飽和に近づいており、これ以上ビットレートを上げても大したビジネスにはならない。まして必要もない地域までFTTHを引くのは、ありがた迷惑です。それよりも光は、無線基地局の中継系として重要になると予想されます。これはユーザーを巻き込む必要はなく、キャリアが自分で引けばいい。NTTの経営問題などという泥沼に足を突っ込む必要はありません。

フェムトセルで室内の需要をまかなうという話は、ソフトバンクだけでセルを使えるなら成り立つでしょうが、多くのキャリアのセルが各家庭に散らばった場合、料金はどこが徴収するのでしょうか。国策会社が一括徴収するというのでは、電電公社時代に逆戻りです。ソフトバンクの無線バックボーンのために、NTTにアクセス系の光ファイバーを引かせるというのは邪道であり、NTTも政府も認めないでしょう。

すでに若い世代では、固定電話の存在も知らない人が増えてきました。おそらく今後10年のうちに一般家庭では、アナログ放送を捨てたように固定回線を捨てるときが来ると予想されます。そのとき銅線の代わりに必要なのはFTTHではなく、Wi-Fiのような無線ブロードバンドでしょう。携帯電話も、電話網の遺物にすぎない。このパラダイム・シフトにいち早く気づいていた孫氏が、なぜFTTHというレガシーに回帰したのか、不可解です。

コメント

  1. takarayui より:

    アゴラの記事と、先日の佐々木俊尚さんとソフトバンク孫社長の対談を拝見して、問題点がよりわかりやすくなりました。
    いろいろな方がいろいろな立場にたって議論を交わすことは誠に有益であるとあらためて実感しました。
    今後とも活発なご議論を期待するものであります。

  2. Diamante より:

    WiFiの高速化は見込めても、WANへの接続はまだまだFTTHがベースになるんじゃないでしょうか。無線をゲートウェイとして使うというのは今の状況ではちょっと考えられないです。

    もちろん長期的にはそのような技術が実現されるのかもしれませんが、10年後に登場する技術のために現在を停滞させるというのはISDNと同じ愚を冒しているように見えます。

    現状ではモバイル通信とFTTHは異なる役割を持っているのですから二者択一的に論じる必要は無いのではないでしょうか。

  3. eco_and_sport より:

    “ソフトバンクの無線バックボーンのために、NTTにアクセス系の光ファイバーを引かせるというのは邪道であり、NTTも政府も認めないでしょう。“

    “このパラダイム・シフトにいち早く気づいていた孫氏が、なぜFTTHというレガシーに回帰したのか、不可解です。”

    松本氏と池田氏の論戦では”Be provocative!”と併せて議論の整理も必要ではないかと感じる。

    1.提案の視座
    SBM社の提案は株主利益の追求なのか、公益・国益の追求なのか。私見としては先にコメントさせて頂いた通り、SBM社の提案は株主利益の追求の結果であり、公益・国益の追求の結果ではないと理解している。そうであるなら、公益・国益の追求の結果ではないのだから、NTT東西が分離して設立することを前提にするアクセス回線会社は考慮せず、新たに提案内容を設計し直すべきである。

    提案の実効性の証明として数字の議論をする前に、まずはその論理を再構築するべきではないかと意見したい。

    2.NTTの参戦
    SBM社の提案は株主利益追求案なのだから、NTTがウェブ論争に参戦するべきかどうかはNTTが判断すればいい問題である。NTTの経営も執行部門も時間に限りがあり、他にもやることは山ほどあるはずである。NTTにとって価値ある課題に優先して時間を割くことが望ましい(企業が同時並行できる会議やプロジェクトの数には限りがあり、課題になっている)。

    通信業として、そろそろ、守り(乗り換え需要への期待、足の引っ張り合い)ではなく、攻め(新規需要への期待、市場の創造、制度改革)の活動をする時期ではないかと意見したい。

    ビール業界や牛丼業界の失敗を繰り返す必要は無いように思うのは私だけだろうか。

  4. 松本徹三 より:

    1)孫社長の考えが1年前の決算発表の時点から何故変わったかについては、今度USTRでお二人の討論があるので、その時に直接ご本人の口から説明を聞かれるのがよいでしょう。

    2)池田先生にはまだ通信システムについての誤解があるようなのでもう一度説明します。

    先生のご自宅と外の世界は、「光がつながっている」「銅線がつながっている」「何もつながっていない(無線に頼るしかない)」の三つの可能性しかないのです。レガシーもクソもなく、それしかないのです。

    先生がインターネットで映像サービスなどをガンガン使われる人なら、光がなければ毎日カリカリされるでしょう。銅線でも、無線でも無理なのです。iPhone程度ならまあよいでしょうが、iPadになるともう辛いでしょう。

    それから、WiFiは無線ですが、せいぜい20メートル径程度の場所をカバーするものです。WiFiは、光や銅線に変わるものではなく、光や銅線の先につながるものなのです。光(または銅線)はご飯、WiFiは牛肉で、二つ併せて牛丼になります。牛肉だけで牛丼を作るわけにはいきません。

    無線と有線は、どちらが偉いというものでもないし、何れにせよ組み合わさっていないと何も出来ませんが、どちらがどこまでカバーするかは、「必要」と「環境」によって決めればよいのです。しかし、速度では、無線が光に勝つことは今後とも先ずないでしょう。

  5. hitoshiy19 より:

     おっしゃりたいことに依存はありませんが、ただ一連の議論、二値である必要はあるのでしょうか?

    ・無線はいい、有線はだめ。
    ・全て無線でインフラを構築すべき、有線は廃棄。

    ・全国をカバーする単一局の集合体はいい、地方局はだめ。
    ・ゆえにCSはいい、地デジは不要。

     技術的な観点から言いますと、現状のケータイでさえも、実際には不感地域(スポットというくらいの大きさ)が都内にも多数あります。電界強度が立っていれば加入者にはわかりませんが、輻輳で呼損になることも多数あります。(オペレータ指定のフィールドテストの場所でさえ、提出に困る程ある時もあります。)
     これは、ケータイでコンテンツを見る、「ゆるい」需要ならば問題ありませんが、そうでない場合、信頼性に問題がありすぎます。(個人でも、例えばデジカメの写真をプリントサービスの業者に送るような需要はありますし、逆に全ての使用者が安定的な広帯域を必要としてもいません。)

     つまり、有線と無線がそれぞれ競争しつつサービスを向上させる、これでいいのではありませんか?

     先生はオークションを非常に押しておられますが、オークションは持続的な競争を維持しません。(最初だけです。)かつての高額な携帯電話に対するPHS、データ通信での低額PHSやWIFIのように、利用形態が「近いが異なる」サービスが併存する形でしか、持続的な価格競争は起こらないのではないでしょうか?(露骨に言うと、競合技術が出るとケータイは急に本気を出すので、ほとんど当て馬で終わりますが。)

  6. nexenta より:

    孫さんの考えはいつものポジショントークですね。

    SB系の固定通信YahooBB!のADSL、特に8Mは
    コストパフォーマンスが素晴らしいのですがすべての
    交換局に設備が入っている訳ではありません。

    民間企業なわけですからペイしないところでサービスを
    するわけにはいかないのは当然です。
    NTTには国益とかいいますがさすがに龍馬のような
    酔狂なことはしていないですね。

    NTTもゆるくてでかいだけのウスノロとはいえ
    民営化はしてますからそうそう無茶もできない。

    メタルと同様に全国津々浦々、山の上まで光はひとつの
    理想でしょうがペイしない分を税金を投入するかサービスの
    料金を上げてみんなで負担みたいな話になってくればまた事情は
    かわってくるかと思います。

    iPhoneでFTTHやADSLにつながったWi-FiだとWEBアクセスは
    快適ですが3Gではやはり遅いし時間帯によってはSBの3G網に
    ガラケーどころではない負荷がかかっていることは想像に
    難くありません。

    またほとんど使わなくてもアプリのアップデートの
    確認にいってますのでパケ代は毎月上限料金に達します。

    津々浦々に安価な光回線がめぐらされるとその上に構築された
    Wi-Fi網でSBの3G網に負荷をかけないですむということ
    でしょうしフェムトもFTTHに載せれば安価で安定した
    ものが構築できるでしょう。

    ただそのために高齢者の遠隔診療や国益みたいなものを
    持ち出すのはいかがなものかとも思うのです。
    FTTHになったとたんに高齢者が遠隔診療を
    うけだしたという話もきかないですから。

  7. takahiro0157 より:

    こんにちは。池田さん。
    いつも更新楽しみにさせて頂いております。最近の光の道議論で一点解せない点がございまして、本日は伺わせて頂きたく存じます。

    池田さんは孫さんの仰るトラフィックの問題については如何様にお考えでしょうか?無線でもカヴァー出来るとお考えなのか、それともFTTHの家庭への普及率を30%→90%に高めた上で、無線との共生を図る必要があるとお思いなのか。

    この様に意見が対立してしまうのは、池田さん等「電波の道」を提唱される方々から、「いくらでどう」それを実行されるか聞こえて来ない事と思います。私はそこまでは今求めておりませんが、上の質問には出来ればお応え頂ければと思います。

    今までの議論を追ってみると、トラフィックの問題は明らかに「電波の道」の決定的欠点ですので、それについて皆さんももどかしい想いをされている事と思います。

  8. 池田信夫 より:

    まだ「経済問題」の意味を理解していない人が多いようですが、光のほうが無線より速いかどうかなんて問題じゃない。ユーザーが何を選ぶかが問題で、すべてはそれに従属するのです。

    いくらGbpsのインフラがあっても、それに金を出すユーザーがいなければ役に立たない。それを無視して全世帯に特定のインフラを全国民に強要するのは、政府が国民より絶対に正しいという社会主義の思想です。その見通しが間違っていたらどうするのかというcontingency planもない。

  9. bobby2009 より:

    >ユーザーが何を選ぶかが問題で、

    いまの議論の中にはユーザーが入っていないように感じられます。どんなハイテクもユーザーに指示されなければ廃れます。「光の道」を全国津々浦々に引くといいますが、ユーザーのニーズを無視していないでしょうか?

    1)光ファイバが未達の弩田舎の人口分布は中学生以下と高齢者に偏っており、テレビを見る人は多いが常時ネットにつながる人は極めて少なく、「光の道」を田舎へ引いても無駄になるだけ。加入者数が少ないのでADSLでも十分に高速。

    2)都会でネットに常時接続する人は、光ファイバでハイビジョン画質を40インチのテレビで見るより、Youtubeやニコ動をパソコン画面で見るニーズが主なので、最大で1Mbpsのダウンロード速度が出れば十分。iPhone画面なら600Kbpsもあれば実用上十分。(経験談)

    以上を考えれば、無線の速度でも実用上問題ない。故に光と無線の速度比較の議論には現実的な意味は無いと考えます。

  10. 松本徹三 より:

    これまでにも何度か申し上げたことですが、もう一度問題点を整理させてください。「光の道」をソフトバンクが熱烈に支持しているのは下記の理由によります。

    1.「光の道}は国の通信網の理想的なグランドデザインの重要なファクターとなる。
    ‐ 国のグランドデザインがしっかりしていないと、その上でビジネスを行う個々の事業者も社業を発展させられない。
    ‐ 個々の事業者は、常に国のグランドデザインと整合性の取れたネットワーク構築を心がけないと、無駄な投資をすることになる故、これに関心を持つのは当然。

    2.「国家レベルでの生産性の向上」「教育の高度化」「地域住民の福祉向上」等、国家目標と合致したプロジェクト故、抵抗勢力の反対を押し切って実現する可能性が高い。実現すれば、個々の事業者もメリットが取れる。

    3.NTTに任せておいては、「『完全な公正競争の実現』と引き換えに『メタル回線の全廃』を実現して、オール光化で収益性が確保できる(税負担ナシ)構造をつくる」といったドラスティックなアイデアもでこないし、従って「公正競争の実現」も何時までたっても実現しそうにないが、政治主導なら実現の可能性が高まる。

  11. bobby2009 より:

    >国のグランドデザインがしっかりしていないと、その上でビジネスを行う個々の事業者も社業を発展させられない。

    同意します。ネットユーザーのニーズは、家庭の居間からどんどん遠ざかっています。孫さんがiPhone/iPadにSIMロックをかけているのも、これが戦略商品だからでしょう?これから事業を発展するべきなのは土管屋である通信事業者ではなく、アプリケーションを提供する事業者であるべきです。そして個人消費者のアプリのニーズの中心はiPhone/iPad/android端末といった無線端末へ移ります。

    iPhoneが成功しているのは何故ですか?

  12. hitoshiy19 より:

    > NTTに任せておいては
     松本さんのここだけには同意できません。

     まず大~小都市、ここではNTT東・西日本が、かなり熱心にフレッツ光を推進している事は御承知のことと思います。集合住宅には、マンションまで光を引いて、その先を分配させる安価なフレッツまで作って、セールスをかけまくっています。彼らは電話線を引くのと同じ感覚で、他の業者が断る所にも必死に線を引っ張ってきます。

     一方過疎地域では、かつて「格差是正」の名の下に携帯電話の無線基地局が国費で多数建設されたのと同様、自治体が光網の普及に熱心です。(これは当然、いまからメタル網を引いても仕方がないので、自然と光になるだけですよね。)

     つまり、ラスト1マイルの光の普及に関して遅れがあるならば、これは現状需要がそこまでしかないことだと思います。
     反面、それだけの需要はあるわけですから、有線はやめて無線にするという池田先生の話には与しません。

     なお、既に始まっていますがVOD・CATV他、光でないと利用できないサービスの訴求により、光の普及が再度加速する可能性もありますが、bobby2009さんの言われる
    > これから事業を発展するべきなのは
    > 土管屋である通信事業者ではなく、
    > アプリケーションを提供する事業者で
    > あるべき
    アプリと言うより、放送・映像メディアだと思います。その場合、これは限られた企業体が行う話で、当然電気通信業者が配信の実業務を担当するという、お互いに利益を折半する形になるのでと思います。
     もっとはっきり言うと、オープンな世界でないというか。

  13. bobby2009 より:

    hitoshiy19さん、

    >これは限られた企業体が行う話で、

    Apple Storeにアプリを提供している圧倒的多数は個人や零細企業です。ustreamにより、インターネット生中継は大資本から開放されつつあります。池田氏は電子書籍のサービス提供するアゴラブックスを起業されました。

    オープン化された通信端末の世界のアプリ(サービス)提供では、個人や零細企業も大企業に混じって頑張れる時代になります。そういう時代をhitoshiy19さんも望んでおられるのではないでしょうか?

  14. bobby2009 より:

    >有線はやめて無線にするという池田先生の話には与しません。

    光ファイバが届いていない田舎で、数少ないネットユーザーの最大公約数的なニーズを吸収するだけなら、600K-1Mbpsの実効速度があれば十分ですから、無線(今ならドコモの3G電波+HSDPAモデム/Wifiのアダプタ)による家庭内ネット共有を、ドコモがADSL並の価格で提供するのが経済効率の高いソリューションだと思われます。

    >既に始まっていますがVOD・CATV他、光でないと利用できないサービス

    既に始まっている都市部はそのまま続ければ良いと思います。いまある90%のエリアの光ファイバを撤去せよと言っている訳では有りません。ちなみにVODの需要がどれだけあるのかは疑問と言わざるを得ません。youtubeやニコ動なら、光ファイバを家庭へ引き込む必要ありません。

  15. nexenta より:

    最大公約数的なニーズはギガではなくて
    10Mでいいから安くとかネットは使わないけどひかり電話を
    加入電話と同等の基本料金で使いたいということなんだと
    思います。

    100Mの光を導入しても端末(デスクトップPC)をルーターに
    実効速度20Mbps程度の11gで何台もつないでいるユーザーが
    けっこういます。LANケーブルで直につないだほうが早いけど
    見苦しいし宅内LAN配線工事は面倒だというわけです。

    SBMで圏外になるようなエリアは光が来てないことも
    多いですがバックボーンに使いたいから国益と称して
    引かせるのもなんだかなと思います。

    CATVや有線なんかは山の中のようなとこでも
    回線引いたりしてますから自前で引けばいいじゃんと
    思います。昔でいう二種事業者ではなく日本テレコムの
    流れをくむキャリアなわけですから。

  16. hitoshiy19 より:

    bobby2009さん、

     自分の予想は単なる思い込みですので、bobby2009さんとは単に、普及を牽引するものが何かという考えが違うということかと。

     bobby2009さんはバラエティのあるアプリというお考えで、自分はむしろ受け身のコンテンツということかと。これはinteraction(使用者の操作)のある・なしだけでなく、視聴者が積極的にコンテンツを探すのか、あるいは評判の高いものを受動的に選択するかという意味でも全く違うのではないかと。

     自分のイメージは、大多数の人は、人気のドラクエができる「らしい」からDSを買うし、ドラクエを解いたら机にしまいっぱなし、というものです。bobby2009さんのように、iPad(他の機器でもかまいませんが)を大多数が持つ近未来では、大多数の人は、そのように受動的な選択行動を取らないという考えもあると思います。

     その場合、では情報の海の中で、各消費者はブランドに頼らず、どうやって品質が担保された(いわゆるクソゲーではない)ものを安心して買うのか。結局信頼のおけるメディアが選択に必要としたならば、やはり大規模メディアは不可避ではないかと。

     こういう屁理屈のような話、90年代のマルチメディアブームの時はよく議論されましたが、自分にとってはなつかしいです。

  17. 松本徹三 より:

    「光でサポートしなければならないほどの高速通信の需要はない。需要のない人に押し付けるのはよくない」という意見が相変わらず多いようなので、もう一度繰り返します。

    1)需要と言うものは必ずしも見えているものではありません。今見えている需要だけに対応しているようでは、競争環境にある企業なら必ず脱落します。最初に電力線を各家庭に引き込んだときに、これで将来洗濯機や冷蔵庫が動くと誰が想像したでしょうか? もしその時に電灯ぐらいなら行灯とあまり変わらないから電気などを引く必要はないと言っていたら、すべたが遅れていたでしょう。必要なのは将来を予測する洞察力です。

    2)すぐに「押し付ける」と言う言葉を使う人がいますが、「必要なときにエクストラの金を払えばよい」と言うことなら、押し付けたことにはなりません。関心のない人にとっては、メタルを光に変えることは、水道局が来て「水道管を新しいものに変えておきましたからね」と言われるのに等しいことです。なんら失うものはないのですから、抵抗もないでしょう。

  18. satahiro1 より:

    5. eco_and_sport 2010年05月14日 16:03
    >“いま起こっているのは固定回線から無線への需要のシフト”
    >回線速度は実行速度が1から2Mbps程度で、それ以上の回線速度よりも利用場所の制限がないことのほうに価値を感じている利用者が多くを占めています。
    9. bobby2009 2010年05月18日 11:44
    >いまの議論の中にはユーザーが入っていないように感じられます。…ユーザーのニーズを無視していないでしょうか?
    >1)光ファイバが未達の(地域は)テレビを見る人は多いが常時ネットにつながる人は極めて少なく、「光の道」を田舎へ引いても無駄になるだけ。加入者数が少ないのでADSLでも十分に高速。
    >2)都会でネットに常時接続する人は、光ファイバでハイビジョン画質を40インチのテレビで見るより、Youtubeやニコ動をパソコン画面で見るニーズが主なので、最大で1Mbpsのダウンロード速度が出れば十分。iPhone画面なら600Kbpsもあれば実用上十分。(経験談)

    eco_and_sportさん、bobby2009の意見に賛成です。
    光が来ず、ど田舎に住む私は某YAHOO!BBの入っていますが、50Mから12Mに変えても問題ありません(基地局から5.8?)。
    確かにお二人が言われるように>1Mbpsが出れば十分。

    今はEMやFOMAが1Mbps出るようになれば、乗り換えようと思っています(現在ここでは384Kが最高)。
    私にとり光ファイバもADSLもどちらもユウセンであり、それに束縛されることは「イノベーション」とは思えません。
    ましてや、新興国・発展途上国においてムセンが主流となっている今、どうしてサカモトリョウマ氏は私たちに二世代も三世代も前のユウセンのコンセプトを提案されるのでしょうか?

  19. pacta より:

    >松本さん
    全戸にこだわる理由は何ですか?
    全戸に光をひかなくてもサービスの実施は可能なはずです。
    下水道だって徐々に普及したのだから、いきなり全戸に光をひかなくもよいのでは?
    人口は減少傾向なのだから、全戸にひいてしまうと誰も使わないまま廃墟になる家も出てくるでしょう。
    仮に税金を使わないとしても資源は無駄です。
    IT業界の人にどんな未来が見えているか知りませんが、一般国民には光の道の必要性も税金は絶対に使わないということへの信頼性も現時点では低いと思います。
    ソフトバンクが独自にやるぶんには誰も反対しないでしょうけど。

  20. hitoeyama より:

    あまり本質的ではないですが、ひとこと。

    >もしその時に電灯ぐらいなら行灯とあまり変わらないから電気などを引く必要はないと言っていたら、すべたが遅れていたでしょう。

    電灯と行灯では大違いと思います。電灯を一目みれば、その便利さを子供もお年寄りもすぐ理解して欲しがると思いますけど。

    >水道局が来て「水道管を新しいものに変えておきましたからね」と言われるのに等しいことです。なんら失うものはないのですから、抵抗もないでしょう。

    今の水道管で支障ないのに、勝手に庭を掘り返して壁壊して工事されたら怒ると思いますよ。

  21. hitoshiy19 より:

     松本さんの、真っ正面から論争をされる姿勢には敬服している点を、若輩の身で生意気ですが、最初に申し上げさせて頂きます。

     自分は別に、全世帯に光ファイバーが国費で引かれるアイデアでも、それで直ちに反対するものではありません。

     自分の考える理想的な状況は、有線と無線が価格競争をすることであり、ある種の緊張状態が価格低下だけでなく、新しいイノベーションを産み出す源泉にもなり得ると思っております。

     しかし、松本さんが明確におっしゃらない点が一点あります。現在のYahoo BB!の事業はどうされるんですか?今や微妙になったADSLが主流、そのモデムのレンタル代を長期に証券化までしている。
     当然、国が介入するのだから、相当な補償を要求する。そういうことではありませんか?

     はっきりさせておきたいのは、光の競争は既に始まっており、ソフトバンクがボロ負けなのは、ソフトバンクの問題です。なので、光の道でのメタルの道でもかまいませんが、ソフトバンクには直接的にも間接的にも国費が流れない、その事に対して明快な保証が必要です。なぜなら、ソフトバンクは「もう負けている」のであって、国の事業で負けるわけではないからです。

     それがないからこそ、ソフトバンクの提案が、どんな形であれ非難されるのです。かつて、長期保有するとの約束を平気で反故にして、あおぞら銀行株を短期で外資に売り抜けた企業グループに、自分を信じろなどということを言う資格はありません。

  22. bobby2009 より:

    >需要と言うものは必ずしも見えているものではありません。

    仰る通りです。イノベーションは予知できないと、池田氏も指摘しています。私も原則として、それに同意します。

    しかしながら、日本が光ファイバのインフラの最先端を走っている間は、真なる需要は生まれないので、需要の期待をする必要はありません。

    我々は欧米で光の道が普及するその時が来るまで、欧米と同期した無線端末のサービスコンテンツ需要の拡大を行う事で十分かと考えます。(大変残念ではありますが、日本人のメンタリティーで真に革新的なサービス生み出すのは困難と考えます。)

  23. bobby2009 より:

    >「必要なときにエクストラの金を払えばよい」と言うことなら、押し付けたことにはなりません。

    これは、光の道を必要とするキラーアプリ(サービス)が生まれた後で考えれば良い事ではないでしょうか。現在のところは都市部ですら、光ファイバでネット接続している家庭は100%には到達していません。

    田舎ですら4割とか5割の需要が生じるようなキラーアプリが生まれれば、経済原則に従って、光の道がどんどん延長される事になるでしょう。

  24. akiteru2716 より:

    現況で考えれば、日本津々浦々で無線で数Mbpsの通信ができる方が最大公約数的ユーザーには便利だというのは同意できます。現ユーザ的には有線より無線でしょうね。どこでもサクサクWebできて欲しい。

    ただ、この程度の帯域でできるサービスはすでにビジネスチャンスとしての魅力には欠けそうです。ゲーム盤の変更を図りたいSBの主張はビジネス的には理解できます。
     次のフロンティアとして、100Mbps超の通信が全戸に行き渡ったあとに何が出来るようになるのか。ここの部分が「洞察力」に訴えるだけで、現ユーザーを誘惑しきれていない感が。

    ヒトラーとアウトバーン、自動車政策のようなものと理解すれば、確かに国策で光化するのは社会主義そのものでしょうが、結果で正当化できればそれもアリというのが正直なところ。個人的にはストレージが完全にクラウド化できて、他人が録画したハイビジョン映像を自由にDLできるようなP2P以上の共有環境でもできれば社会主義でも超OKです。
    (これにはインフラ以上の壁のほうが大きいですが)

  25. bobby2009 より:

    >ゲーム盤の変更を図りたいSBの主張はビジネス的には理解できます。

    孫さんは心の底から、このアクセス会社を経営したいと熱望しているのではないでしょうか。それにより、

    1)通信インフラでNTTより高い位置に立つ。
    2)機動力と柔軟性に優れたソフトバンクが、アクセス会社のメリットをフルに使って、宿敵NTTを追い越す。
    3)日本最大の通信企業として、グローバル市場へ参入し、ソフトバンクを世界的通信企業へ成長させる。

    稀代の起業家として、こんな野望を描いてるのではないかと想像しました。

    今まではユーザー視点からの合理性を考えてきましたが、より多きな視点から日本の将来を考えた時、孫さんがアクセス会社で日本の通信業界をガラガラポンして、グローバル時代の経済成長の大きな翼になってくれるのであれば、そういう未来を見てみたいかもしれません。

  26. hitoshiy19 より:

    bobby2009さん、

    > 孫さんは心の底から、このアクセス会社を経営
    > したいと熱望しているのではないでしょうか。

     そういう事業家としての野望もお持ちかと思いますが(ある意味素晴らしいですね)、それ以前に、棄損したADSL事業をどうにかしたいのだと思いますが。

     これは、単に巨額の有利子負債を抱えるという事情だけでなく、Vodafone KK買収時の融資でのcovenants(融資実行に当たっての将来の健全経営の約束、通常非公開)からも、大きな事業の棄損を処理する必要があるのだと思います。

     ソフトバンクはこれまでずっと、ADSL事業の将来に関するコメントを避けていますし、松本さんもおっしゃりません。そしていきなり「光の道」という公共財理論の登場です。

  27. satahiro1 より:

     
    >>ゲーム盤の変更を図りたいSBの主張はビジネス的には理解できます。
    >孫さんは心の底から、このアクセス会社を経営したいと熱望しているのではないでしょうか。…稀代の起業家として、こんな野望を描いてるのではないかと想像しました。

    2011年の新卒採用説明会で行った、ソフトバンク孫正義氏のスピーチ要約(http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20100403 2010-04-03 宝のスピーチ)を読むとbobby2009さんと同じような感慨を持ちます。

    私たちの多くは湧き上がる孫正義氏のアニマルスピリットから多大の益を得て、人生において様々な幸福を噛み締めることができている、と私は考えています。

    >より多きな視点から日本の将来を考えた時、孫さんがアクセス会社で日本の通信業界をガラガラポンして、グローバル時代の経済成長の大きな翼になってくれるのであれば、そういう未来を見てみたいかもしれません

    しかし、稀代の起業家(イノベーター)としての”大義”を、これまでのように、そしてこれからも私たちの前に提示し続けて、いただきたい。
     

  28. bobby2009 より:

    >ADSL事業の将来に関するコメントを避けていますし、

    短期で収穫期間へ移行する商売もあれば、収穫期間への移行に時間のかかる商売もあります。いづれにせよ、経営陣が「短期でもうかりそうなところ」と、「戦略的に重要なところ」へ資源を集中するのは、上場企業にとっては必要な事かもしれません。孫さんにとっては、「短期」ではiPaが、「長期的戦略」としてはアクセス会社が、いまは「旬」なのでしょうね。