サン・ピエトロ大聖堂(写真ACより:編集部)

バチカン放送(独語版)が21日報じたところによると、イタリアの映画制作会社がこのほどバチカン法王庁内の機密文書を暴露したイタリア人ジャーナリスト、ジャンルイジ・ヌッツィ氏(Gianluigi Nuzzi)の本のTV映画化の権利を獲得したという。制作会社によると、ヌッツィ氏はバチカンの機密流出事件(通称 Vatileaks、バチリークス)のTV番組制作のため米国の脚本家と既に準備に入っているという。

世界に12億人以上の信者を有するローマ・カトリック教会の総本山バチカン法王庁で機密情報が外部に流れるという不祥事が過去、報道されただけで2回発生している。

①前法王べネディクト16世在位中の2012年、機密文書の流出事件が生じた。当時、法王の執事をしていたパオロ・ガブリエレ被告(当時46)がべネディクト16世の執務室や法王の私設秘書、ゲオルグ・ゲンスヴァイン氏の部屋から法王宛の個人書簡や内部文書などを盗み出し、イタリアの暴露ジャーナリストのヌッツィ氏に流した事件だ。

ガブリエレ被告は2012年10月6日、窃盗罪として禁固1年半の有罪判決を受けたが、べネディクト16世は判決後、ガブリエレ氏に恩赦を与えた。

②バチカン法王庁の司法当局は2015年11月2日、バチカン関係者の2人を機密文書を盗み、漏えいした容疑で逮捕したと発表した。一人はスペイン教会神父のルシオ・アンヘル・バジェホ・バルダ神父(54)だ。もう1人はイタリア・モロッコ出身のソーシャル・メディア専門家のフランチェスカ・シャウキ女史(33)だ。2人は解散されたバチカン経済部門機構改革委員会(COSEA)に従事していた。バルダ神父は法王庁諸行政部門およびその財務を管理する「聖座財務部」の次長で、カトリック教会の根本主義グループ「オプス・デイ」(神の業)と繋がりがあった。同神父は有罪判決を受けたが、フランシスコ法王に恩赦を受けている。

イタリアのメディアによると、バルダ神父が流した情報には、タルチジオ・ベルトーネ枢機卿(前国務長官)の腐敗(巨額な住居費など)、宗教事業協会(バチカン銀行、IOR)の疑惑口座、バチカンが運営する小児病院「バンビーノ・ジェズ」の不正運営などが含まれているという。

バチカンは昔から“秘密の宝庫”と呼ばれてきたが、その宝庫に近づき、宝を手に入れようとする人が絶えない。バチカンは必死に機密を守るために腐心してきた。南米出身のローマ法王フランシスコが登場し、バチカン機構の刷新に乗り出して以来、その宝物を守ろうとする一部の高官(枢機卿を含む)と改革派聖職者の間で情報戦が激化してきている。バチカンでは今後、“第3、第4のバチリークス”が生じたとしても不思議ではない。

ちなみに、イエスの生涯の謎を描いたダン・ブラウンの小説の映画化「ダ・ヴィンチ・コード」(2006年)は大きな話題を呼んだ。最近では、ボストンのローマ・カトリック教会聖職者による未成年者性的虐待の実態を暴露した米紙ボストン・グローブの取材実話を描いた映画「スポットライト」(トム・マッカーシー監督)は2016年第88回アカデミー賞作品賞、脚本賞を受賞した。バチカン内部の機密や赤裸々な人間関係を扱った映画やTV番組は成功するといわれている。人は秘密が好きだ。バチリークをテーマとしたTV番組制作に期待したい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年4月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。