何年か前から飛行機はできるだけANA/スターアライアンス系に乗っている岩瀬です。いつもお世話になっています。ロイヤルユーザーとして、先週話題になっていた、ANAのテレビCMについて一言。
金髪で鼻が高い白人の変装をした日本人が登場するテレビCMの何が問題だったのか。
「人種差別的」であったということではない。英国メディアの報道でも “racist” とカギカッコ付きで報道されている(つまり、「そう言っている人がいるけど大げさちゃう?」というイギリス人のニュアンスが含まれている)。
問題となったのは、racial discrimination(人種差別) ではなく、racial stereotype(人種ステレオタイプ) であり、それに表象される人権意識、国際感覚の欠如である。この問題は、海外に出かける皆さんは、いわば世界のプロトコールとして知っておいた方がいい。
留学中に経験したのだが、国際社会ではとかくステレオタイプが嫌われる。マーケティングの授業で誰かが「夫が電器屋で買ってきたものを家で奥さんに評価してもらう」といった発言をしたところ、女性から「なぜ妻が家で待っているという専業主婦のステレオタイプを押しつけるの!」と怒っているのを見てから、ずいぶんと気を付けるようになった。FRB 議長になりそびれたラリー・サマーズ氏も、「女性は遺伝子的に数学(科学?)が苦手」といった趣旨の発言をして、ハーバード大学長の地位を追いやられた。
注意すべきは、ステレオタイプがNGとされるのは、「黄色人種は鼻が低い」というネガティブなことだけではないことだ。褒めてるつもりで「インド人は数学が得意」といった発言も、ステレオタイプ=偏見による決めつけということで、不快感を表す人がいるかもしれないので注意を要する。「どのグループにも多様な人間がいて、その多様性を理解し、受容すること」がいわば、人権感覚であり、国際感覚と考えられているからだ。そして、多数の人がどう感じるかではなく、不快に思う少数の人がいるかも知れないことを慮るのが、人権意識だと理解されている。
白人でも鼻が低い人もいるし、インド人にも数学が得意でない人もいる。彼らがどのように感じるだろううか。それゆえ、「白人は金髪で鼻が高い」「インド人は数学が得意」と描写することが、国際社会のプロトコルとしてはNG、あるいは、少なくとも、「ビミョウ」と捉えられるのだ。
日本人にとって金髪と高い鼻が憧れであったところで、その事実に変わりがない。例外があるとしたら、当の本人たちが自分たちを卑下する意味で使う場合だろうか。いや、個人的には、「ジャマイカの人は短距離が早い」というくらいだったら、いいような気もするのですが。足が遅いジャマイカの人も悪い気がしないからでしょうか。
奇しくも、CMの内容が「日本人が世界に出よう!」とグローバル化を志向したテーマであり、放映主が世界を飛び回るエアラインだっただけに、多くの外国人の目には「???(イケテナイ・・・)」と映ったことは、想像がつく。ほとんどの人は、怒っているというより、「え?まじ?」という感覚だったと思う。
「そもそもこんなの問題ないじゃないか」という異なる意見もあるでしょうが、以上が私の感想です。皆さんも安易なステレオタイプを口にすることは気をつけましょう!
【追記】やるんだったら、日本人のポジティブな特性をネタとすべきでしたね。丁寧過ぎて、気を使い過ぎて、お辞儀ばっかりしている相手に、外国人風にファーストネームで呼び、ハンドシェイクとハグをする、など。容姿を風刺したのが問題だったのかも。
編集部より:このブログは岩瀬大輔氏の「生命保険 立ち上げ日誌」2014年1月30日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方は岩瀬氏の公式ブログをご覧ください。