消費税増税以外の財政再建策を考える --- 岡本 裕明

アゴラ

日本経済研究センターで財政黒字化のためには消費税を19%に、という記事が少し前の日経電子版に出ていました。非常に詳細に分析しているのですが、このレポートにある空虚感を感じたのは財政バランスを消費税という一手法にのみ頼っていたことではないかと思います。

世の中、文章を精読する人は少なく、この記事にしても「専門家は消費税を19%にしなくてはいけない」という短絡的な見出しで紹介されることになります。国民には「まだまだ上がるのか?」という不安が一気に膨らむし、財務省はそれ、どうみたことか、次の10%に向けたハードルをクリアするのも簡単だ、と思わせることになりやしないでしょうか?


確かにスウェーデンなど欧州の一部の国では消費税が20%を超えているところもあります。だからと言って日本は8%になるところだから上げ余地はまだまだある、と考えていては他人が歩んだ道をただついていくだけで脳がありません。今、日本政府はどうやってこのバランスしない財政をバランスさせるのか、その手法を原点に戻り、真剣に考え、高齢化社会が進む世界の主要国に新たなる財政再建の道筋を作り上げるべきなのです。

財政支出ですが、その抑制が必要なのが社会保障費。そしてその重要な部分を占めるのが医療費かと思います。増大しつつある医療費を抑えるために後期高齢者の負担増などということもありましたが、姥捨て山と批判されました。ではどうするか? 私は二段階医療制度を導入することを提案したいと思います。

基礎部分は国民に広く低負担で国が提供する保険とし、二階部分は民間が保険を付保するというものです。この仕組みは基礎部分は保険で一定の制約を施し、国の負担を低減させるようにします。より高い水準のカバレッジは民間が提供するものとしたらよいかと思います。いわゆる生命保険の内容を大幅に変更するような形で対応できるのではないでしょうか?

あくまでも国民皆保険であるものの一定のハードルを設けることで国民に健康の自己管理を促すとともに医療現場では稼ぐというスタンスを3歩ぐらい下げてもらうことではないかと思います。更にはいわゆるホームドクター制度を拡充し、大病院への直接的なアクセスを減らすことも重要かと思います。以前、新聞に出ていましたが、大学病院で紹介状なしで受診する場合、初診料を1万円とするというのは非常に正しい方向だと思っています。

私は収入が伸びない中でこれ以上の消費税上げは出来ないという議論の中で一つ見落とされているな、と思っているのが給与所得者の控除額。その中で「各種保険料」(=健康保険、厚生年金、失業保険など)は本当に高いのです。あれが仮に3割ぐらい軽減できれば給与が上がらなくても手取り収入は伸びるわけですから結果として消費を押し上げる効果があります。

つまり、私は日本の財政再建のキーは医療と保険制度にあり、と考えています。

俯瞰して考えてみれば日本は世界で三番目の経済大国でありながらその税収が不足しているというのは奇妙さすらあるのです。政治家が当選するためにわが身を守る施策を作り上げたこともあるでしょう。賢い役人が前例を壊すことが出来ず、会計管理すらできないのかもしれません。

一方、税収不足を指摘するならば長引く不景気が価格破壊をもたらしたことで企業も個人も本来の経済のあり方を忘れてしまったともいえるのではないでしょうか? 一度安い経験をすると人は同じ商品を高い金額で支出することができません。牛丼が280円から380円に戻るとなれば消費者は理由がない限り足が向かなくなります。医療もしかりで一度、国が設定した水準はそれを厳しくすることがいかに難しいか、はたまた消費税上げのための議論がどれだけ激しかったかでお分かりいただけるでしょう。

ならば、上げ下げで調整するのではなく、抜本的にシステムを変えてしまうぐらいでないと日本の財政再建は難しいと思います。少なくとも消費税を何%にすればバランスするという議論をだけではこの問題は解決出来ないと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年2月15日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。