ロビーイング2.0のすすめ(その5完)

城所 岩生

海賊党は(その4)のとおり、発祥の地、スウェーデンだけでなく、州や地方では多くの議席を獲得しているドイツでも、国政には党員を送り込めていない。ところが、同じヨーロッパで海賊党同様、ネットによる直接民主主義の運動手法を取り入れて、創設後、初の国政選挙でいきなりトップの得票率を獲得した市民運動がある。13年2月のイタリア総選挙で議会第3勢力に躍進した「五つ星運動」である


五つ星運動
既成政党を「利権と腐敗まみれ」と批判し、政党の「党規約」に代わる「非規約」で、「政党ではなく、政党となることも目指さない」とうたっている。わずか7条の非規約では、「www.beppegrillo.it というブログが討論のためのプラットフォームで、本部もこのウェブ・サイトである」としている。

サイト名は創設者のベッペ・グリッロ(65)のフルネームで、グリッロは人気コメディアン。辛辣な政治諷刺で80年代に一世を風靡したが、腐敗を暴かれた政治家達の怒りを買い、メディアから追われていた。ところが、05年に上記ブログサイトを立ち上げ、政治家の悪事を攻撃したところ、若者に爆発的な人気を得て、英紙の報道によれば世界のフログランキングでもトップ10入りするまでに躍進。サイトは英語だけでなく、日本語にも翻訳されている(http://www.beppegrillo.it/japanese/)。

09年には「五つ星運動」をスタートさせた。五つ星と名付けたのは、水、環境、エネルギー、環境、発展の五つの課題の解決をめざしているからである。運動への参加は、他の政党や団体に属していない成人であれば、ウェブサイトへ登録するだけで可能。登録者からネットを通じて寄せられた提案をもとに、国と国民、エネルギー、情報、経済、運輸、保健、教育の7つのカテゴリーからなるプログラムを作成し、その実現をめざしている。

12年春の統一地方選で複数の自治体で圧勝したが、初の国政選挙となった上記13年2月の下院選でも、議席をゼロから一挙に108にした。驚異的な躍進ぶりだが、その理由について、13年5月18日付、朝日新聞GLOBE欄の「政党はどこへ行くのか」特集は以下のように分析している。

硬直化した社会から落ちこぼれ、定職に就けない若者や補助金に頼れなくなった地方、主要政党から無視される住民運動。それらを五つ星が引き寄せた。

ネットを利用した選挙戦 ― 都知事選のケース
ネット選挙の解禁が遅れた日本もこうしたヨーロッパの動きと無縁ではなく、その兆しは先の都知事選に見ることができる。まず、ネット保守層に人気の高いタカ派の田母神俊雄さんが61万票余りを獲得した。マスメディアの出口調査によれば、投票した20代の4分の1近くが同氏に投票した。五つ星運動同様、正規雇用につけない若者を引き寄せたとみられる。

票数は10万票に届かなかったが、家入一真さんは海賊党や五つ星運動の運動手法を採用。日本海賊党も綱領に掲げている((その4)参照)ネットを利用した直接民主主義の考え方を採り入れた。政策をツイッターで募集したところ、「数日で3万もの声が集まり、最終的に120の政策に落とし込みました。」(2月15日付、朝日新聞朝刊29面「ネット選挙 どうでしたか 都知事選 家入一真さん(35)に聞く」)。

政治団体「インターネッ党」を立ち上げ、街頭演説はせず、ネット中心の選挙運動を展開した。選挙資金集めにも、ネットを通して小口の資金を集め、起業家の資金調達を助ける「クラウドファンディング」の手法を採り入れ、一口500円から募集、692人から744万円を集めた(同上)。

家入さんの選挙活動を紹介した2月16日付、朝日新聞朝刊2面の「日曜に想う 政党ありき ひっくり返したら」は、次のように指摘する。

欧州で海賊党などが広がる背景には、議会制への不信がある。自分たちを代表しているのか、ほんとうは有力組織の代弁者にすぎないのかわからない政党や政治家、守られないマニフェスト。近代民主主義の骨格のはずなのに投票率の低下傾向が止まらない。家入さんたちの「インターネッ党」が出現したのも、日本だって同じ問題を抱えているからではないか。

記事は最後に、「あなたは政治のお客のままでいいのですか―」と問いかけている。「ロビーイング2.0」は、有力組織の代弁者化しつつある政党や政治家に、われわれ有権者の意見をきちんと伝えるロビー活動たが、ネット選挙解禁によって、家入さんのように、選挙民の意見を吸い上げて、政策に反映させる候補者も現れた。これを機にわれわれも「ロビーイング2.0」を活用して、「政治のお客さま」を卒業しようではないか―。

城所岩生