GW中にギリシャ問題が顕在化したため、ユーロはドルや円に対して大きく売られ、NYダウも1日で1000ドル弱の下げを演じるなど「第2のリーマンショックか」と思わせる状態になりました。しかしその後、EU緊急理事会が開催されユーロ基金が創設されたことによって事態は収拾に向かい、現在では一時に比べれば、株式相場および為替相場は、幾分、落ち着いた動きになっています。
とはいえ、ユーロ圏諸国ではギリシャも含めてPIIGSと呼ばれる国々の財政問題が今もなお深刻であり、今後さらに格下げの予測などが出るようであれば国債価格が大きく下落するなどによって、欧米を中心とする金融機関の資産内容が悪化する可能性があり、まだ「予断を許さない状態」と考えた方が良いかもしれません。
このような財政的な危機は、日本でも起こり得ることであり、決して「対岸の火事」ではありません。今回はこの点をみていきたいと思います。
現時点では確かに「日本の金利は低い」「円は高い」状態であり、「危ない」という兆候はみられません。しかし、その主な要因は日本国民の金融リテラシーが低いからであり、褒められたものではないでしょう。
日本の家計金融資産は1456兆円(2009年12月末現在、資金循環統計、日銀調べ)なのですが、その55%(約800兆円)が、確定利付きだけれども超低金利の預貯金であり、また、27.3%(400兆円弱)が保険や年金になっています。つまり、運用など全くせずに単に「預けている」という状態の金融資産が8割強に達しているということになります(米国のこのような金融資産の割合は4割ほど)。そして、預けられたおカネは、預金取扱金融機関や保険・年金などによって約550兆円弱が債券に流れています。その「すべて」ではないにしても、かなりの部分が日本国債で運用されていると思われます。
このように日本国民が、運用をしないで効率の悪い預金等に預け続けているからこそ、金融機関を通じて、日本政府は国債をドンドン発行できるわけであり、その結果、税収入が40兆円弱なのに、800兆円を遥かに超える政府債務を積み上げてしまったというわけです(さらに増やそうとしている)。
この巨額の負債を前にしても「政府にも資産があるので、純資産にすればそれほどでもない」という楽観した意見があるようですが、政府の資産である道路などは簡単に換金できるわけがありませんし、年金資産などはそもそも国民のおカネであり、それを政府債務の返済に充てることはできません。
政府債務は、政府の収入により支払わないといけないわけですから、結局、将来の国民からの税金等で返済するしかないのです。とはいえ、将来的には必ず「返済しないといけない」としても「(返済に対しては)見通しがある」と考えている貸し手がいる限り、返済を先延ばしにし、しかも、借金を増やしていくことは可能なのです。
まさに今の日本の政府債務はこのような状態なのです。
つまり、日本はカネ持ちの国だし、消費税も5%と低いので引き上げ余地もかなりあり、国民も大人しいから、いざとなれば「増税」によって返済は可能だろうと考えることができます。したがって、現状、ギリシャよりも財政的な状況が悪い状態であっても、日本国債がデフォルトされることはないと考える投資家が多いわけです。そういうことから、特に日本の金融機関は国債を好んで購入するので、政府が追加で国債を発行しても、問題なく消化されているのです(景気も悪いし、貸出リスクを考慮すれば、国債の方が効率的であると考えている)。
逆に、ギリシャでは増税や公務員改革を打ち出したところ、過激なデモが起こり、死者まで出る事態になったことから、一気に不安心理が高まり、デフォルト・リスクが顕在化してしまったのです。つまり、ギリシャの大規模なデモによって、内外の投資家は「ギリシャは返済の見通しが立たない」と判断したことから、借り換えが困難となり、同時に、債券は市場で売られ、利回りは高くなるとともに、このような国を抱えているユーロ圏は、通貨価値が毀損する可能性が高まることから、ユーロも大きく売られることになったわけです。
これが現状のユーロの状態です。
では、日本は「ユーロ圏のようにはならないか?」ということですが、おそらく、すぐにはユーロ圏のような事態にはならないでしょう。といっても、決して「対岸の火事」ではありません。
例えば、日本の家計が預金を減らすようなことがあれば、マクロ的な「本源的預金」が減少することになるので、金融機関は国債運用を絞り込む可能性があります。そうなると、たちまち国内での運用が難しくなるでしょう。
このような話をすると、このような事態になれば日銀がマネーを増発して、市中にある、または、直接に「国債を購入すればよい」と考える人もいるかもしれません。確かに日銀引き受けによってある程度は対応できるかもしれませんが、このやり方では円の価値を毀損させるだけであり、根本的な対策にはなりません。例えば、ギリシャ問題でユーロ基金設立の話しが出る前に、ECBがギリシャ国債を購入したり、ギリシャへ融資をしたとしても、単にECBの資産を劣化させるだけなので、ユーロはもっと激しく売られていたと推測されます。
つまり、債務超過に陥っている会社と同じですから、リスクマネーの供給が必要なのであり、中央銀行からの資金では駄目なのです(通貨が急速に下落するとともに、債券価格も下落するため、市場金利が高騰するだけです)。このような際にはIMFや、今回設立したユーロ基金のような機関等からの資金でないとうまくいかないのです。
話を戻して・・・
マクロ的な「本源的預金」が減少するとは、家計がタンス預金の割合を高めたり、海外へ資金を流すなどによって、預貯金残高が今よりも減少するような場合を指します。そのようなことが起これば、銀行等の金融機関は日本国債の保有を減らすかもしれません。そしてこの傾向が強くなれば、国内には国債を引き受ける主体がいなくなるので、海外投資家から資金を調達せざるを得なくなるのですが、といっても、すでに日本はギリシャ以上に悪い状態なのですから、国内が駄目だから海外からとは行きません。つまり、借金を積み重ねていくことが不可能になってしまうわけです。
他から借りることができない場合には、日本でも、強制的に増税や財政圧縮をせざるを得なくなります。そのようなことになれば、経済自体が破壊されるような状態になると予想されても、景気状態や福祉状態に関係なく、財政再建を図らなければならないので、日本でもギリシャのような状態になる可能性は十分に考えられるのです(ギリシャのような状態ではなく、日銀引き受けによって事態を収拾した場合、円は大きく売られ、暴落することによって、日本経済にダメージを与える可能性もあります)。
今回のギリシャ危機を受け、このようなことが政府でも、漸く、理解し始めたものと思われ、財政に対して慎重な話が出始めてきています。
菅財務相からは「44兆円を超えないようにしなければならない」という発言があり、仙谷大臣からも「次回の衆議院選挙後には消費税増税をする旨を参議院選挙で掲げる」という話がありました。些か気づくのが遅いようにも思いますが、このままズルズルと「悪夢のシナリオ」を続けられるよりはマシですから、まだ、時間がある今の段階で、しっかりと議論をしていただきたいものです。