ローカル番組を全国で見られるように - 山田肇

山田 肇

6月5日付けの朝日新聞に「iPadにドラマ配信 毎日放送、放送と同時に」という小さな記事が出ていた。7月から放送する深夜のテレビドラマをネットで同時視聴できるようにするそうだ。

「ローカル番組を全国どこでも見られるようにする試み」と記事にある。ネットに県境はないのに、今までのネット配信は県域に縛られていた。それを破って全国に流そうというこの試みは、放送業界としては画期的だと評価できる。


インターネットを使えば世界中どこにでもコンテンツを流せる。インターネットTVにはそういうユビキタス性が期待されたはずだった。しかし今のところ、インターネットTVは難視聴地域向けの補完的手段に位置づけられており、県域を越えられない制度になっている。

視聴者の立場でいえば「他県の放送は視聴できない」のである。深夜ドラマといえども県域を破ったのはよいことだが、本命は情報番組ではないだろうか。東京近郊には各県出身者が大勢住んでいるが、これらの人々は郷土の情報に飢えているからだ。阪神タイガースの試合をテレビ観戦したいという例は有名だが、ニーズはこれに限られるわけではない。宮崎県の出身者は口蹄疫の蔓延を心から心配しているだろうが、くわしく放送しているはずの宮崎ローカルの番組は視聴できないのである。

東京近郊でなくても状況は同じである。1000円高速は当面維持されるそうだが、週末に遊びに行こうと隣の県のイベントを知ろうとしても、テレビからは情報がほとんど取れない。地方局が流すのは90%がキー局の番組で、残りはその県を対象とした番組である。「90%キー局+10%岡山」とか「90%キー局+10%広島」といったセットになっていて、「80%キー局+10%岡山+10%広島」という組み合わせは民間放送には存在しないからだ。

現状の欠点を補い視聴者のニーズに応えるため、インターネットTVがその役割を果たすべきだ。地方局は自主制作の番組をどんどんインターネットに配信すればよい。隣接県や東京近郊で思わぬ数の視聴者を獲得できる可能性があるだろう。仮に獲得できなかったとしても、自らの放送区域内の視聴者に影響を与えるわけではないのだから、トライするに越したことはない。

要は、今までの県域放送という制度を時代にあわせて見直すことだ。地方局設置の根拠と位置付けられるマスメディアの集中排除原則も再検討すべきだ。実態は「90%キー局+10%ローカル」なのに、あたかも地方局は独立した存在であるとみなす建前論は無意味である。

この数カ月、有志が集まって『電波・メディア・コンテンツ勉強会』を組織し、電波政策とメディアコンテンツ政策について議論を重ねてきた。その報告書と六つの提言がアップされている。その中では「マスメディア集中排除原則を緩和する一方で、クロスメディアの資本参加については規制強化」という方針も提案した。周波数オークションについても実施可能な提言を書いた。あわせてお読みいただければ幸いである。

山田肇 - 東洋大学経済学部