消費税を上げる、そのための議論を始めるという話がずいぶん盛んです。日本の財政赤字どころか、財政不足を補うためには、消費税をあげないとやっていけないということが言われています。
しかし、私のような素人から見ても、消費税だけを議論するというのは果たして正しい議論なのかと疑問に思えてなりません。不自然さを感じるのです。
このままでは財政が破綻するために何かの手を打たないといけないということは理解できるにしても、ただ、日本が諸諸国と比較して消費税率が低いから消費税率をあげようというのは、あまりにも乱暴な議論であり、しかもそれは正しくありません。
消費税率だけがクローズアップされ、日本は消費税が低いと、マスコミでもよく紹介されていますが、ほんとうでしょうか。
図は、財務省が発表している2007年度の国税と地方税を合わせた先進6ヵ国の税収の国際比較です。これを見ると、日本よりも、消費税による税収の比率の低い国があります。それはアメリカです。まさか、アメリカが特殊だということにはならないでしょう。そのことはほとんど、伝えられていないのではないかという疑問がまず浮かんできます。
おそらくアメリカは、消費税が州や市で徴収し、税率も異なっているので、伝えられていないのかも知れません。
所得・消費・資産等の税収構成比の国際比較(国税+地方税)【財務省】
このグラフを比較して誰もが分かるのは、日本は法人税が、これらの国と比較してもっとも高く、個人所得課税が、フランスについで低いことです。しかしフランスの場合は、個人所得課税は低いものの、資産課税が高くなっています。日本の税収構造は、このグラフを見る限り、かなり特殊だといえます。
もうすこし詳しく見ると、国民所得に占める個人所得税を比較すると、日本は地方税を合わせ、7.2%です。しかし、アメリカは13.1%、イギリス13.9%、ドイツ12.1%、フランス10.0%と日本は、格別に安いことがわかります。
個人所得課税の国際比較(未定稿)-財務省
税収は、国や地方に個人や企業が支払う直接税と、消費税や、たばこ税、酒税、ガソリン税、自動車重量税などを含めた間接税に分類されます。その直間比率で比べても、日本は、国税と地方税をあわせて、間接税の比率は28%であり、これはイギリスの40%、ドイツの48%、フランスの47%よりは低いことは間違いありません。しかしアメリカは22%と日本よりも低くなっています。しかも、直接税が経済の悪化で減少したことも関係して、間接税の比率が再び上昇してきており、直近では32%を超えようとしています。
問題にしなければならない重要なことは、消費税率をあげるということは、さらに間接税の比率があがるということですが、それは税金を簡単に取りやすいということであって、本当にいいカタチで税収増になるのかということです。
どの政党であっても、成長戦略が必要だというのは一致していると思うのですが、では、確かに消費税をあげると、一時的には税収は増えますが、GDPが伸びたときに、それで税収が増えるのかという疑問が湧いてきます。
おそらく成長戦略が必要だというのは誰でも、またどの政党でもコンセンサスが得られていると思うのですが、間接税の場合は、モノやサービスが購入された分だけ得られるので、GDPが伸び率を超えて増えることは想定できません。経済が伸びても、税収として増加する効果はあまり期待できないのです。
この点も議論しておかないと、経済はよくなった、しかし税収はさほど増えなかったということだってありえるのです。
さらに、視点を変えましょう。なぜ消費税をあげるのかということですが、とくに高齢化の進行で、医療費の増加が問題にされています。しかし、これも変な話で、そもそも、ほんとうに国の経済規模に見合った医療費を負担しているのかということも議論されなければなりません。
医療費のGDPに占める社会負担の比率を見ると、トップはなんとアメリカで、GDP比で16%にもなっています。それと比べると、日本は22位で、8.1%に過ぎず、米国のほぼ半分です。
公的支出のGDP比でも、アメリカは7.4%、日本は6.6%%で、国の医療保障が少ないと言われているアメリカよりも負担率は低いのです。
日本は、先進国ではかなり低く、医療費をさらに抑えてしまったために、医療崩壊が起こってきたのも頷ける状況ではないでしょうか。
医療費の負担が経済規模の割に少なく、それで医療費が問題にされるのは、ちょっと国民の合意を得るのには無理を感じます。
OECD諸国の医療費対GDP比率(2008年)-社会実情データ図録
やはり戻ってくるのは、この国をどうしたいのかという国家ビジョンです。そのもとに財政のあり方、また税収をどうするのかという議論が必要であり、財政がもたないから、医療費や社会福祉費が増えるから、消費税だというのは、あまりにも稚拙な話ではないでしょうか。
菅総理が消費税アップを唐突に持ち出したとたんに、支持率が急下降したようですが、今のままでは、あがっても仕方ないと思っている人が多くとも、しかたないというのと、それが納得できるというのとは大いに違います。
コメント
日本の医療が崩壊とはいつの時代と比べてですか?
そしてどこの国と比べてですか?
何をもって医療崩壊と定義しているのでしょうか?
私には日本の医療が崩壊しているとは到底思えません。
100あるうちの1だけの現象を取り上げて、それだけをもってマスコミが大げさに勝手に騒いでいるだけだと思います。
アメリカの医療費は日本の10倍と言われているので比べるのもどうかと思います。
日本の国民一人当たりの年間受診回数13.8回。
アメリカ3.8回、イギリス5.1回、フランス6.6回、ドイツ7.0回、スウェーデン2.8回。
http://blog.goo.ne.jp/dennzou_2007/e/9f00161c553d6b8007b0f83758b2516e
これを見ても日本の医療は崩壊していると言えるでしょうか?
むしろモラルハザードが発生しているようにも見えます。
>消費税率だけがクローズアップされ、日本は消費税が低いと、マスコミでもよく紹介されていますが、ほんとうでしょうか。
民主党は消費税だけ議論するというわけではないようです。所得税や資産課税も議論すると党首討論でも述べていました。
ではなぜ消費税率だけがクローズアップされるのかというと、ここ10年来ずっとマスコミが消費税増税キャンペーンをやってきており、それがマスコミの悲願だからだと思います。
私は読売ですが、ずーっと一貫して社説やコラム、解説記事で消費税増税の必要性を論じ、その論者の意見ばかり掲載してきました。他の増税はほとんど触れず、触れてもネガティブな論者の意見を掲載していました。他の手段(広告税や電波オークション・所得税増税・資産課税)だと高給取りのマスコミ職員がモロに負担直撃となるからでしょう。
さらに不思議、というか、意図的なものを感じるのは、住民税です。アメリカって住民税がなくて、その代わりが州ごとの消費税ですよね。
ということは、住民税10%+消費税5%で、十分高い税金を払っていますが、財務省の税金国際比較ではいつも住民税が含まれていません。社会保険だって会社負担分と合わせれば15%くらいありますが、これも含まれていません。
それで「日本は税金が安い」って言われても、お金を集めて好きに使いたいだけの嘘だという気がします。
>アメリカって住民税がなくて、その代わりが州ごとの消費税ですよね。
いいえ。州税という形で住民税があります。州によって違います。
本稿へのコメントは特に無いのですが、コメントに対するコメントは有ります。w
まず、ここはアゴラという場所なんだから「モラルハザード」という用語は正しく理解して使って欲しいのですが、これは「こだわりの料理」的な用法として、もはや戻れないのかもしれません。
次にアメリカの住民税ですが、地方所得税という意味なら公共団体や州にもあるみたいですよ。
ちょっと検索しただけで以下の文を見つけました。
http://www.rikkyo.ne.jp/grp/eco/paper/images/60_4_9.pdf
医療に関する日本とアメリカの相違については、私が調べた範囲において渡辺千賀さんのブログがもっとも参考になりました。
まぁ、日本ではまだ医療崩壊というほどでは無いのかもしれませんが、医療費が払えないため自分でケガの手術を行っているyoutubeの映像を見たとき、日本では医療のDIYが行えないので羨ましく思った次第です。キシロカインや抗生剤を(処方箋無しで)売ってくれるところって日本に有るのかな?
もっともドクターショッピングし放題なのが日本なわけで、健康保険が破綻にまっしぐらなのは当たり前のような気がしないでもないです。
民主や自民の財政再建や医療費、社会保障のために増税が必要というのは議論の出発点がそもそも間違っている。例えば、イギリスでは増税と行政改革がセットだし、アメリカでは増税議論よりも前に、公務員数削減、行政サービスの縮小ならびに有料化を行っている。行政改革をなにもしないうちから増税の議論を始めるなんてありえない。効率的な税金の使い方の議論が真っ先に必要なのであって増税ではない。支出がだだ漏れではそれをカバーするために際限のない増税を行って公務員の焼け太りを助長するだけだ。
事実認識に幾つか疑問があるので、指摘させてください。
> 消費税だけを議論するというのは果たして正しい議論なのかと疑問に思えてなりません。
菅氏のブレインと言われている小野教授は所得税の強化を推奨されています。また、枝野幹事長は所得税見直しの検討を示唆されたそうですし、民主党のビラにも「消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始」とあるので、特に消費税だけに注目しているわけではないようです。
> 日本は、先進国ではかなり低く、医療費をさらに抑えてしまったために、医療崩壊が起こってきたのも頷ける状況ではないでしょうか。
既に指摘がありますが、何をもって医療崩壊と言うかは疑問です。
医療関係者が不足している状況は問題ですが、医療費が高い米国ですが、国民皆保険制度が無いため中・低所得者が十分に医療を受けられない問題が出ていましたね。
> 成長戦略が必要だというのは一致していると思うのですが、
成長戦略はありますよ。
賛否は別れると思いますが、民主党の成長戦略は、所得再配分を進めることで、消費性向の低い金持ちから、消費性向の高い貧乏人に所得を移転させ、国全体の消費を向上させて景気を拡大する作戦のようですよ。しかも、介護サービス分野で雇用を創出することで、強い福祉を実現し、労働市場のギャップも同時に解消する気のようです。
横槍ですが、元のコメントも「他国と比べて日本の医療機関が過剰なまでにサービスを提供している」を意図しているのではないでしょうか。であればモラルハザードと云う言葉の用法も間違っていないと思います。
uncorrelated様
最後の一節ですが、私は皮肉と解釈しておりますけど、支持と受け止められる可能性がある文章ですね。釣りとは思いたくないですが…
forcasa3様
用語の定義は時代と共に変化することを否定しませんので反論する気はさらさら有りませんが、wikipediaなどでお調べになることをお勧めしたい。池田ブログで検索すると更に良いかも知れません。本来の意味を知りつつ、あえて使っているのであれば、それはそれで宜しいんじゃないでしょうか。
wikipediaではモラルハザードには3つの異なる意味があるとしており、その一つにプリンシパル=エージェント問題が挙げられております。
一方、日本の医療サービスはしばしば3時間待ち3分診療と揶揄されますが、その一因として治療よりも保険点数稼ぎを優先させようとする医療機関や、自己負担が少ない為に必要以上に医療サービスを受診したがる保険加入者の存在(=モラルハザード)があると思います。そしてその事がnnnhhhkkkさんの指摘されている日本の突出した国民一人あたりの年間受診回数に顕れているのではないか、と読み込んだ次第です。このような意図であれば、「敢えて」ではなく単なる「適切な」用法になりませんか?
勿論真意の程はnnnhhhkkkさんにしか分かりませんが。
いやぁ、びっくりしました。wikipediaでは「倫理の欠如」を認める記述に変わっていたので唖然としました。少し前はもっと長文の細かい説明が有ったんですけどね。もちろん最初の二つが正しい意味です。まぁ、言葉は進化するので…
でも、医療機関が患者の無知につけ込むのはプリンシパル=エイジェント問題のモラルハザードと言えるかも知れないけど、患者側の方は倫理の欠如としか説明できないですね。患者は依頼人であって受任者(請負人と書くと法律上の請負契約を連想するので不適切)ではないので…
モラルハザードの意味に「倫理の欠如」が社会的に認められるのであれば、私の意見は意味不明なので無視してくださって結構です。