現在、為替レートは85円/ドル台の水準で高止まりしています。この水準に至るスピードが速すぎたため、輸出企業を中心に対応が難しくなっているようです。それを反映して、株式相場も低迷したままの状態が続いています。
そもそも先週の日銀の金融政策会合における「何もなし」の発表が原因であり、その後の政府、特に菅首相の対応の不味さが、このような円高を招いたと思われます(*)
*これについては、先週、投稿したコラムを参照!
その後、円は高いものの大きな変動がなく高値水準に留まっているのは、来週(23日)の菅・白川会談を市場が注目しているからであり、決して、円のボラティリティが低くなったわけではありません。つまり、この会談の内容如何によっては、大きく「円安」にも「円高」にも振れる可能性があるということです。
とはいえ市場としても、この会談で「大きな何かが出る」とは考えていないので、予想通り「大したことがない」という場合には、急速な円高になると思われます。しかも、会談が終わってしまった後の円高に対しては、日本政府による単独円売り介入も効果がないでしょう。
ここで「単独円売り介入」ですが・・・
そもそもこの政策には意味がありません。為替レートは市場が決めるものであり、日本政府が介入をしたからと言って、市場が、そこに何らかの“権威”を感じて、その意向に従うようなものではないからです。つまり、介入と言っても、政府が一投資家として市場に参加するだけのことですから、経済ファンダメンタルズから「円高が正しい」と市場が判断すれば、政府の意向は無視されます。
したがって、「円高だから為替介入」という単純な話ではなく、如何にタイミング良く手掛けるかがポイントなわけで、それは一種の“相場観”に係ってくるのです。「政府が相場観」というのもおかしなものですが、要はタイミングを見計らって、うまく立ち回ることにより、政府が伝えたいことを市場に示すことも、政府の大きな仕事であり、大切なことなのです。その道具の一つが「為替介入」なのですから、うまく使いこなせれば、効果はあると言えます。
とはいえ、欧米は「介入」という手段で自国通貨安に導いたのではなく、あくまでも金融政策の違いが市場によって受け止められ、それによって今の「円高」があるわけですから、日本だけが自国の都合による「為替介入」、特に自国通貨安に導くような介入を行えば、他国からの批判は免れないでしょうね。
しかも、日本政府だけで介入を行ったとしても、今、市場では「日銀の金融政策が上手くない」とみているわけであり、この部分が変わらないのであれば、介入をしてもまた円高に戻ることになるでしょう。
その辺りの「本気度」が問われているので、来週の菅・白川会談は重要ですし、白川総裁が「どこまで譲歩できるか」がポイントになってきます。
ところがここで日銀としては、量的緩和を打ち出しても、経済効果はあまりない上に、経済に対する悪影響も考えられるため、本当の意味での「量的緩和」を行うつもりはサラサラないでしょうね。そのつもりが少しでもあれば、先週、何らかの対策を打ち出していたはずです。ここが日銀の“真面目”なところであり、逆に言えば、「市場を知らない」ということなのでしょう。原理的に行って「意味がない」のに「やっても仕方ないでしょう」と考えていると思われます。
しかし、もうそのようなことを言っている状態ではありません。この会合前後に何らかの追加的緩和政策、というよりも、少なくとも定義を広くした場合に「量的緩和と考えても差し支えない」というくらいの政策を打ち出さない限り、失望感からの円買いが増加することになるでしょう。
これだけ高いハードルになってしまったのは、先週に「何もなし」という決定を打ち出してしまった日銀の責任であり、ある程度、致し方ない。いずれにしても、意味が「ある」/「ない」に関係なく、(この際、マネーストックに波及しないハイパワードマネー・ベースでも良く、時限でも結構だけれども)円通貨の量が増加し、世界的にみて「円通貨が減価する」と市場が感じるような「何か」を打ち出さないと、市場は為替相場、および、株式相場をおもちゃにする可能性が高いと思われます。
なお、菅・白川会談で政策が出たにもかかわらず、それでも「円高が続く」という場合、それは当該政策が「甘い」と市場が感じたわけなので、そこで政府は実弾による為替介入をしても、上述の通り、それは一切効かないでしょう。根本の問題が「欧米と日本の金融政策のスタンスの違い」と市場はみているわけですから、その政策が「まだ甘い」と判断させれば、政府がいくら介入をしても無駄になります。
今、市場は政府・日銀の「本気度」を見極めようとしているのですから、かなり大胆な政策を打ち出さない限り、この円高を乗り切ることはできないでしょうね。
逆に・・・
市場が本気度を認めれば、すんなりと90円/ドルくらいまでは戻すでしょうから、チャンスはチャンスとみることも可能です。
何事も同じですが、タイミング良く政策を打ち出すことこそが「市場との対話」であり、それをうまくやるのも政治の仕事です。マスコミとの対話や支持率ばかりを考えるのではなく、市場をみて、政権運営をして欲しいものです。
なお、オバマ政権としては輸出振興策を打ち出していますし、米国、および、日本の対外資産負債状況より中長期的にみた場合、円は対ドルでは強い状態が続くと思われます(資源国や途上国通貨に対しては安くなる可能性はあると思います)。なので、ここで円高を食い止めても、今後も円高対策には苦しめられるでしょう。しかし、レベルとしての為替レートは「安定」が重要であり、急激な変動に対しては、今後もイチイチ対応をしていかざるを得ないと考えています。
コメント
日本の金利が低く誘導されている、極めて緩和的にあるから現在の水準にあるのであって、むしろ、現在は日本と諸外国との金融政策のスタンスの違いは縮まってきている状況にあるように思います。
ベクトルで見れば違うんでしょうけど、水準で見れば、量的にも質的にも、極めて似通ってきているというのが現状ではないかと思います。
仮に、日銀が新しい金融緩和を行っても、欧米に真似をされるのがオチですよ。しかも、欧米は新しい金融緩和の未知のリスクを負担せずにです。
disequilibriumさん、いつもありがとうございます。
おっしゃっていることは理解できます。その通りですね。
とはいえ、「今の為替」という点だけでみた場合、ここは「容認できる範囲を超えている」という意味で何らかの手を打つべき時と考えています。
それだけです。
政策でいえば「戦略」の部分であり、本気で「量的緩和すべき」と私自身が思っているわけでもありません。むしろ、そのようなことをしても無駄だろうなとは思っています。しかし、それを正直に「何をしても仕方ないから」ということで「何もしません」では、市場はおもちゃにされるだけです。
ここは市場と政府・日銀等の金融当局との戦いですから、手の内をさらす真似をしては勝てません。それをお話ししただけです。
欧米の意向を無視して為替操作を行えば、欧米との戦いに発展してしまいます。
今できることは本当に少ないと思うのですけど、例えば、アメリカ製品や農作物にかかっている関税を無くせば、ドルが買われて円安になると思います。
もっと積極的に、アメリカ製品に対する減税を行えば、さらなる効果が期待できると思います。
首相と日銀総裁が資産をドル建てにして「安全宣言」をするのも効果があるかもしれません。
日銀と政府(+財務省?)の責任分野がわからないので、暴論かもしれませんが、政府が
(1) ドル・ユーロの国内での流通を容認する(換金レート分は国が補助する)
(2) 公務員給与・年金・生活保護費など政府支出の1割は外資(とりあえずはドル)で支払う
と決めれば如何でしょう。
今まで為替介入したドルがもし眠っているのであれば有効利用ですし、新しいビジネスチャンスもでます。何より国民が嫌でも国際的になるメリットがあります。
国内通貨としての円にプライドがなくなるくらい小さいことです。
まぁ、「輸入関税の撤廃」で経常収支の黒字減らしを通じて、円高是正を狙うという手はあるかもしれませんね。
ただ、私的には「円高阻止」というよりも「急激な為替変動に対する適切な誘導が大切」というスタンスなので、今の状況においては、政府としてどのくらいの水準が「適切」と考えているのかを示すということが大切だと思っています。
つまり、急激な為替変動は上でも下でも経済主体(企業)に影響を与えるので、ボラティリティが大きい時には臨機応変に金融当局は動かないといけないということを示したかったわけです。
そもそも円相場にとって日本の金融当局の行動とは、自己株の売買をする企業と同じと考えられます。
当該企業が自己株取得(売却)する場合、市場としては「高くなる(安くなる)」と思うはずです。それは真の価値とは関係なく、市場がそう思うだけですが、これは合理的な行動です。そのようなメカニズムを活かした政策を戦略的に使うべきだという話を述べたまでです。
haha8haさん、コメントありがとうございます。
「外貨の国内流通を促進させることで円高の痛みを和らげる」という話のようですね。まぁ、それも手ではありますが、私的には現状の問題は「円の適正な値」が市場と企業の想定レートとの間にずれがあるという点だと思っています。
その部分は本来、企業が自助努力で解決すべきなのですが、急激すぎる場合、自助努力では何ともならないことがあります。それは政府・日銀が対処すべきなのです。
当然、目先の件ではなく、長期的な問題として、今後も、少なくとも対ドルで円高は続くでしょう。それを「どうするのか」となった場合には、haha8haさんの案も考えるべきなのかもしれないと思っています。
ただその場合、「通貨」って何?という部分も考える必要があり、金融政策等の関係上、難しい議論もあるので、今回の話とはセパレートにすべきだと思います。
前田さん、御返事有り難うございます。
素人の考えにコメントいただき恐縮しています。
おそらく思いは同じでして、面倒くさいことの「為替の変動にbufferになるシステムが必要ではないか」という狙いなのです。
政府も日銀にも、韓国のような機敏性、中国のような長期戦略性が見られません。
今後も手詰まりで「じっとしているのが仕事」のような現状、せめて、政治がねじ切れても、経済の邪魔をしないようにして置くべきだとおもうのです。
非効率でスジが悪いとは思いますし、個人的にもややこしいのは大嫌いですが、単純な制度ではますます他国にカモられると危惧しています。