「夏休みの絵日記」的、今年度後半戦開始時点における世界俯瞰 - 矢澤豊

矢澤 豊

「菅だ、小沢だ」と、日本の既存メディア(と国民の大多数)に分かりやすいトピックとしての民主党代表選挙と、急速に進む円高の話題でにぎわう日本関連のニュースの裏で、以下のような見出しを見つけました。

国交省 来年度概算要求 中小に数十億円追加支援
国土交通省は20日、資金難に苦しむ中小の建設業者の資金繰り支援のため、来年度予算の概算要求に、数十億円の追加金融支援策を盛り込む方針を固めた。
(8月21日付 フジサンケイ ビジネスアイ)

経産省、ものづくり技術で中小を支援 輸出関連、1000億円規模
経済産業省は政府内で検討している経済対策の一つとして、輸出関連の中小企業支援を盛る方向で調整に入った。ものづくりなど技術開発に対する助成と事業資金融資の拡充が柱。経産省は中小の輸出企業にとって円高の打撃は大企業より大きいとみており、人材や技術の基盤を守り、国際競争力を維持するための支援が必要と判断した。
(8月21日付 日本経済新聞 電子版)

国家戦略担当大臣なんてポストをつくってみたところで、与党政治家の皆さんは内輪のもめ事でワイワイ騒いでいるだけ。役職はあっても肝心の「戦略」が不在。結局のところ、官僚の皆さんは従前どおり、「弱者保護」の大義名分の下に「部分最適、全体衰亡、所属官庁の省益・予算枠だけは絶対死守」という方針をミゴトに遵守されておられるようです。

「ものづくり技術で中小支援」などといっても、こんな円高で「国際競争力の維持」なんてオタメゴカシをよくもまぁ真顔でいえるものです。為替政策はうちの責任じゃないのだから知ったことか、ということなのでしょう。

こうした日本政府の自己利益に帰結する部分的善意と総体的無責任の裏で、当地香港には、

「もう日本ではやっていけません」

という自助努力の意識の高い「ものづくり」中小企業の事業主の皆さんが大挙してやってこられて、中国・アジアでの起死回生を模索しておられます。結局、日本に残るのは「なんとかしてくれ!」と叫んで1000億円予算の分け前にあずかる会社だけということになってしまうという筋書きが、もうできあがっているということです。

このように日本にとっては暗い時代が継続しておりますが、世界全体を眺めてみると、この傾向は日本だけではないようです。

夏休み、奥さんのご両親とイヤイヤながら地中海クルーズにつきあわされてきたという友人は、

「スペイン、フランス、イタリア、ギリシャと駆け回ったけれど...いや~、どこいってもデモとスト。デモとストばっかし。ヨーロッパの先行きは暗いね...」

とのご報告。

私は今夏の休暇中、イギリスに数日間滞在していましたが、イギリス自体は「不景気」という現実は否めないものの、全体的に南欧のような社会不安は感じられませんでした。

緊縮予算の導入は「避けられない」と、オズボーン(英国財務大臣:矢澤注)は言った。

 その中身はすべての国民に痛みを与えるものだ。現在17・5%の付加価値税(食料品と子供の衣料品以外のあらゆる商品に掛かる売上税)を来年1月から20%に引き上げる。金融機関に対しては20億ポンド規模の銀行税を新設。年間5万ポンド以上の利益がある投資家に対する資産譲渡益課税も強化する。

 これでもまだ序の口にすぎない。国営医療制度のナショナル・ヘルス・サービスを除き、各省庁の予算は今後5年間で25%削減される。
(ニューズウィーク日本語版8月3日付)

英国政府の緊縮財政政策は、リスクが大きいとみる専門家もいます。しかし政権交代により、新たな政策方針が明確に打ち出されることとなり、政治家・官僚といったエリートが高所に立って国の進むべき道筋を示し、政治家が国民に対する説明責任を果たし、また結果責任を負っている。民主主義において当たり前のことが当たり前に行われているということが、イギリスという国の今の強みに繋がっているのだ、ということが実感として感じられました。そうした社会の「強さ」が、成功につながるとは限りませんが。

じゃあアメリカはどうよ、というわけで、リーマンショック以来、中国人富裕層の間で流行りの「アメリカ不動産競売物件投資ツアー」に参加してきたという友人に聞いてみると、

「いやね、アリゾナあたりで、かつては300万ドルぐらいしたっていう豪邸が、100万ドルぐらいで売りに出ているわけよ...もう庭は広いし、お風呂はサウナ・ジャクージ付き。ホームシアター完備ってな具合でね...」

そいつぁ~豪儀だ。で、なんで買わなかったの、と聞くと。

「それがさ、その家のある道、同じような豪邸がズラ~ッと並んでて、それが全部空き家なわけ...」

「...」

「で、その次の道に行ってみると、そこも同じような豪邸が空き家になって並んでいるんだ。もうちょっとそこにいるだけでコワくなっちゃった。実際アリゾナなんて、もともと砂漠だろ。夜になるとこの豪邸エリアに、野生のコヨーテがやってきてウロウロしているんだってさ。とてもじゃないけど、投資って気分じゃなかったな。」

アメリカでは今年になってから、以前の不動産バブルによる景気浮揚をあてにしていた地方政府発行の債券のデフォルト・リスクが注目されています。ファンドマネージャーや、ファンドを対象にサービス提供している会計士などの間では、かつてのサブ・プライム関連の証券化金融商品と同じように、こうした地方債関連商品の市価の査定が難しくなってきており、市場には疑心暗鬼のムードが立ちこめてきているという、かなり危うい状況が出現してきています。

こう観てくると、デフォルトまでにはまだ余裕があるし、増税の余地もまだあり、従順にしてデモだストだなんてラテンな血気や元気もなく、まだ想定の範囲内の低迷を続けている日本の通貨が強くなりすぎているという現象も、納得できる気がします。

期待できるのは中国の内需による景気浮揚ぐらいでしょうか。

今日お会いしたベンチャー投資家の方がおっしゃるには、

「矢澤さん。次に火を吹くのはミャンマーですよ。ビルマです。」

な、なるほど...???

暗雲さらに立ちこめる世界経済ですが、悪天候のときこそ確かな航海技術が必要とされるということです。

次の四半期も気を引き締めていきましょう。