デスマグネットとは僕の造語で、新しい事柄や仕事などに挑戦するときに、その行動を躊躇させる何らかのマイナス思考のことを意味しています。デスマグネットは読んで字のごとく、直訳すると死の磁石です。つまり、心やアタマにはり付いて、思考停止にわれわれを追いやります。
例えば、中年になってからサーフィンをやるなんて無謀だ、とか、オートバイは危険だからやめておこう、などのように、それらが本当に無謀かどうか、危険かどうかなどと検証することもなく、ただ思い込むことで行動することを阻害するものです。
デスマグネットは負の先入観であり、ある種の偏見です。
正しく考えずに、なんとなくそうだろう、という軽い思い込みなのですが、それが意外なほどの強力さと頑固さで、われわれが新たな行動を起こすことを邪魔する。
僕はこのデスマグネットが、マーケティングにおいても、特にブランディングにおいて重要な役割を果たしていると思っています。
iPhoneは日本では流行らない。多くの専門家がそう断言したことを覚えていますか?iPhoneのタッチスクリーンは爪が長い日本の女性には使えない、とか、絵文字が使えないからだめだといったデスマグネットが彼らのアタマにはり付いていたのです。しかし、結果としてそれらの見通しは間違っていたし、そういう予測をさせた理由も正しくはなかった。Appleとソフトバンクは絵文字問題の解消にはすぐにとりかかりましたが、タッチスクリーンについては何も変えていません。
デスマグネットには何としてでも外さなくてはならないもの、そのうち外れていくもの、そしてどうしても外れないもの、があるわけです。読んで字のごとく、直訳すると死の磁石です。
死、というのは生物としての死ではなく、思考の死です。
何かにチャレンジしようとか、生活を変えようとか、新しい製品を試してみようというのは、人間の好奇心や向上心にリンクします。そういう気持ちを萎えさせるものがデスマグネットであり、われわれの心にはり付いて、若々しい精神を蝕むものなのです。
非常に残念なことですが、日本人は米国人や中国人らに比べて、デスマグネットがつきやすい(精神の)体質なようです。
最近では、海外で働くとか、出世したいという冒険心や野心を面に出す若者が減っているらしいですが、国家としての活力が失われつつある証拠であり、重いデスマグネットが国民全体、社会全体にはり付き始めているのかもしれません。
デスマグネットは、本来精神的に未熟な若者よりも、成熟した大人にはり付きやすいものです。
「ああ、それは知ってる、こういうことだろ?」とか、「俺の経験ではそれは失敗するな」というように、なにかとタカをくくってしまいやすいからです。
しかし、それは精神が金属疲労を起こしていることです。古い機械がやれてしまって、へたってしまっているのと同じです。経験や体験、知識や常識にあてはめて判断をすることは悪いことではないのですが、世界には何一つ同じものなどなく、さらにどんどん新しい技術や発見が繰り返されている現代では、常に新鮮な気分と好奇心をもってモノを見なければ、正しい判断はできないはずです。つまり、精神がへたってしまって、自分の”経験や体験、知識や常識”をアップデートすることができなくなっているということです。
精神が古びて、へたってしまっていると、強烈なデスマグネットがはり付き、とれなくなってしまいます。これは老化であり、精神の死です。
大人になればなるほど、デスマグネットを外すことが難しくなります。しかし、それを外せなければダメなんです。
「インセプション」という映画の中では、自分が夢の中にいるのかどうかを判断するために、トーテムという道具を使います。例えば指でコマを回し、現実ならばやがて止まってしまうが、夢なら回り続ける。
僕たちも常に、トーテムが必要かもしれません。好奇心を失い、新しいことにチャレンジする柔軟な精神を失っているのかどうか?デスマグネット、が自分の心やアタマにはり付いていないかを、常に自問自答すること。デスマグネットという概念を知っておくことは、自分自身のトーテムになるはずです。
デスマグネットを自分の意思で外せるようになりましょう。
そうすれば、マーケターとしてみれば、潜在顧客層にはりついているデスマグネットを外す方法も見いだせるかもしれませんから。