グーグルが夢の自動車に挑戦

大西 宏

スマートフォンやタブレットPCで、世界のメーカーとのコラボレーションを行い、アップルを激しく追い上げるグーグルですが、もっと大胆な実験を行っていることがわかりました。
人工知能とグーグルが収集した膨大な地図データを駆使し、カメラやセンサーなどを搭載したプリウスで、カリフォルニア州の公道をすでに4万マイル(22万5000キロ)以上自動で走らせたといいます。車もクラウドにつながり、また人工知能を駆使して走る時代がが近いのでしょうか。


自動車産業の進化を握る鍵、しかも各社がしのぎを削って研究開発しており、自動車産業の再編の鍵ともいわれているのは、ひとつは電気自動車のための高性能な電池であり、もうひとつが高度情報交通システムといわれています。その後者にグーグルという思わぬ伏兵がチャレンジをはじめており、もしかするとグーグルが自動車産業の将来の鍵を握る新しい存在となるのかもしれません。

詳細は、ニューヨーク・タイムズやフィナンシャル・タイムスで報じられていますが、日本語ではITmediaの記事が詳細が伝えています。
Google、“自動運転カー”プロジェクトを発表――既に公道で試運転中
ニューヨークタイムズの記事は写真も掲載されています。
Google Cars Drive Themselves, in Traffic

自動車は、すでにさまざまな制御がデジタル化されています。またセンサーと使った安全走行の機能も実用化されています。ナビもトヨタのGブックのように、通信機能を使ったサービスもあります。しかし、人工知能とクラウド上の地図データを使って、自動運転させるというのは大胆な実験です。

人工知能を使って自動運転する実験は、イタリアのパルマ大学も現在、ミラノから上海万博に向けて走行させており、予定では今月末には到着することになっていますが、違うのは、グーグルが投入している桁外れの研究開発費です。フィナンシャル・タイムズによると、2009年に28億ドルが投入されたようですが、昨年のグーグルの売上げ高がおよそ237億ドルで、なんとその12%もの資金を投入していたことを考えると、その本気度がうかがえます。

伊、自動運転自動車の実験開始 ユーラシア横断
Google tests self-driving car

先月開催された「TechCrunch Disrupt」イベントでの講演で、「自動車は自動で走行すべきだ。自動車の方がコンピュータより先に発明されたのは間違いだった」とグーグルのCEOシュミットが語ったそうですが、年間推定で120万人が交通事故で亡くなっており、より安全で、より効率的な移動で、より省エネが実現され、また時間の節約にもつながるというのはそのとおりでしょう。

自動車がクラウドにつながり、また人工知能を駆使して走るのも、想像が出来る時代となってきましたがファイナンシャル・タイムスも指摘するように、思わぬ障害があるかもしれません。
この自動走行の地図データともなる画像を収集しているのが「ストリートビュー」の撮影車ですが、パシワードで保護されていないWi-Fiの通信内容を意図せず収集してしまい、その運用を停止するというハプニングがあったことは記憶に新しいと思います。

Google、Wi-Fiの通信内容を「意図せず」収集~謝罪して運用を停止

ほんとうに完全自動運転が求められるかどうか、またそれが受け入れられるかどうかは別にして、自動車産業や高度情報交通システムにかかわっている情報産業だけでなく、グーグルもこの分野にチャレンジをしはじめた影響はやがて出てくると思います。

さて、このシステムをグーグルはどのようにビジネスにつなげるのでしょうか。グーグルはいまのところ、ほとんどが広告収入です。まさか、ナビに広告を忍ばせ、その収益で稼ごうというのでしょうか。
しかし、馬鹿にできないと思うのは、スマートフォンのOSアンドロイドを各メーカーに無償提供していても、すでに、その開発費は人びとのグーグルのスマートフォン利用が増えたために、すでに回収できたそうです。

電気自動車に期待が集まり、また注目され、各社が開発を競い合っていますが、電気自動車には二つの超えなければならない高いハードルがあります。ひとつは、電池は半導体のようにムーアの法則が効かないということです。つまり、半導体のようには性能が飛躍的に向上していくわけではありません。もうひとつは、充電のインフラをどう整備するのかという問題も横たわっています。
電池性能の飛躍的な向上が難しく、電気自動車に求められるパワーを実現することが困難であることは、ウォールストリート・ジャーナルの尾崎弘之・東京工科大学教授のコラムが参考になると思います。
日本版コラム】過熱するも勝者が見えない―電気自動車用電池の開発競争

電気自動車と高度に情報化され自動走行する機能はよく合うカプリングだと思いますが、自動車の高度なインテリジェント化、クラウドにつながる時代のほうが先にくるのかもしれません。

コア・コンセプト研究所 大西宏