貨幣を物神化する人々 - 『貨幣進化論』

池田 信夫

★★★☆☆

貨幣進化論―「成長なき時代」の通貨システム (新潮選書)貨幣進化論―「成長なき時代」の通貨システム (新潮選書)
著者:岩村 充
新潮社(2010-09)
販売元:Amazon.co.jp
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貨幣は奇妙なものである。単なる紙切れでありながら何でも買えるので、それ自体に価値があるかのように錯覚する人々が多い。こうした物神化の傾向は古代からあり、イスラム圏では利子を禁じ、共産主義は貨幣を廃止しようとした。今日でも、金融政策を物神化して「日銀がお金を無限にばらまけば景気はよくなる」と主張する自称エコノミストが絶えない。

貨幣は実体経済のベールであり、ベールを変えて中身を変えることはできない。通貨需要と供給の一致する価格(金利)が自然利子率で、今の日本ではこれがマイナスになっているために通貨の需要不足=デフレになると考えられている。自然利子率は投資や消費などの実需で決まるので、投資が増えないかぎりデフレは脱却できない。

だからデフレを止めることだけが目的なら、日銀が株式や不動産などの実物資産を数百兆円ぐらい買えばよい。しかしこれは狭義の金融政策ではなく財政政策なので、国会の承認が必要だ。この区別をごちゃごちゃにして、日銀が日本経済を自由自在にコントロールできるかのように物神化する政治家が、経済政策を混乱させている。

デフレは不況の結果であって原因ではない。20年もデフレが続いているのは単なる金融政策の問題ではなく、日本経済に大きなひずみが蓄積していることの貨幣的な表現だと著者は考え、そのひずみが一挙に解放されるとき起こるのは、マイルドなインフレではなく破局的な事態ではないかと予想する。

本書は貨幣についての多彩なエピソードを紹介しながら、こうした金融政策についても解説しているが、記述がまとまりを欠き、読みにくい。

コメント

  1. taquonoss より:

    日銀がこれ以上はありません!と断言するような金融緩和策を発表しましたが、これは自動車にガソリンを給油するようなもので遠くまで走ることは可能になりますが、それ自体でガソリンの消費量を増やすことにはなりません。
    公共事業をたくさんやることは遠くまで車を走らせるようなもので結果的に消費量を増やすことにはなるでしょうが、効果が表れるには若干の時間がかかります。一番早くガソリンの消費量(名目GNP)を増やすには燃費を悪くすることです。一円当たりの価値を落とす、そうすることで同じ経済活動をしても名目GNPは増大します。インフレの到来です。一円当たりの効率を落とすには消費税をかけてその分を政府支出で民間に還流させ、給与の増額に使ってもらえばいい。
    単純に考えて、日本経済の効率が良いから円高になるのです。円高に対応すると称して経済効率を上げよう(燃費を向上させよう)とするのは間違いです。経済効率を目指し、経費を切り詰め、生活を質素にした結果、日本円の価値は物や外貨に対して上昇しています。デフレです。このままではさすがに優れた日本製品も価格競争力の欠如から競争力を削がれ、工場の日本脱出を強いられます。日本人は固有の脅迫概念として「国際競争力の維持、優越」を無自覚に抱えていることを承知し、それに囚われない的確な対応策を模索する必要があります。
    小泉政権末期に、外国人観光客の誘致や日本国債の外人投資家への販売を企画しましたが、考えようによってはお笑い草です。だって、どちらも外人の円買いを促し、日本円を高騰に導く要因になるんですから。中国人は尖閣問題で日本制裁の一環として日本国債の大量購入(円高になる)を考えたそうですからさすがに日本人より柔軟な発想をすると言えましょう。ちなみに連中は地道に日本や韓国の国債を購入。為替益を狙うと同時に自国通貨、元の比較安の維持と万が一の時のカード作りを狙っています。