デフレ日本 長期低迷の検証―ダイヤモンド・オンラインから

アゴラ編集部

アゴラの記事が金融緩和慎重派に片寄っているので、ちょうど同じテーマを6人の経済学者が論じた「ダイヤモンド・オンライン」のインタビュー・シリーズ「デフレ日本 長期低迷の検証」を紹介しておきましょう。1回目の池尾和人氏はアゴラのメンバーなので省略し、第2回の星岳雄氏は、現在のデフレをまねいた大きな原因は日銀の消極的な金融政策にあると批判しています:

量的緩和も将来の期待に働きかけることによってのみ有効性を発揮するものであるため、コミットメントが重要である。日銀当座預金を目標にした日銀の量的緩和よりも、住宅ローン債権担保証券なども含んださまざまな金融資産を買い取ったFRBの信用緩和のほうが、急激な解除が難しいとの意味で、強いコミットメントになっている。

日銀の量的緩和では、消費者物価指数で見たインフレ率が安定的にゼロ以上になるまで量的緩和を解除しないという明確なコミットメントを発表したにもかかわらず、実際はまだデフレから完全には脱却していなかった06年に量的緩和をやめ、ゼロ金利も同じ年に解除してしまった。


これに対して第3回の齊籐誠氏は、現在の日本経済は実力相応の「長期均衡水準」にあるとします:

ごく普通の知性のある人なら、金融政策がどんな形態を取ろうとも魔法の杖になるなどと思わないはずだ。政府その他で量的緩和論が盛んなのであれば、議論のレベルが低いとしかいいようがない。

物価だけでなく、為替にしても、需給のありようにしても、経済事象を一つだけ取り出して、それを改善するためにがむしゃらに働きかけることなど、すべきではない。わざわざコストをかけて、新たな歪みを生じさせるだけで、実力値を向上させるという日本経済の課題を解決するものではない。

第4回の伊藤隆敏氏は、6人の中で唯一のインフレターゲット推進派です。

包括緩和を行うのなら、どうしてここで、「インフレターゲット」を導入して、期待に働きかける効果を狙わないのか。手段を講じていながら、その効果を最大化する枠組みの構築に失敗している。

中央銀行に求められるのは、コミットメントと透明性である。望ましいインフレ率を正式に宣言することが、企業や消費者の期待に働きかける効果は大きい。FRBもECBもいまやインフレターゲットの重要性に気づき、デフレ懸念から、望ましいインフレ率を明らかにするようになった。

5回目の岩本康志氏は慎重派、6回目の福田慎一氏は積極派、とマクロ経済学者の意見はほぼ二分しています。ただデフレの原因については、潜在成長率の低下などによる長期不況が最大の問題で、金融政策だけではデフレは解決しない、という点では全員の意見が一致しています。

コメント

  1. kazikeo より:

    今日、東京経済研究センターのセミナーで伊藤隆敏先生とご一緒して「世界・アジア経済の展望と日本の課題」というテーマで、報告と討論をしてきました。
    それで、意見交換をしていて、本質的な意見の相違は感じませんでした。会場から日銀の包括緩和に関する評価の差を問う質問もありましたが、それに対する伊藤先生のお答え(ご主張)は、私にも十二分に理解可能なものでした。財政再建の必要性と緊急性に関する認識は、伊藤先生の方が私よりもむしろ切実という感じでした。
    --池尾

  2. 池田信夫 より:

    このシリーズに出ている普通の経済学者の意見の違いは小さいですよね。それがおかしな政治的騒動になるのは、「運動スローガン」で無知な大衆を煽動しようという一部の人々の影響が大きい。自分たちは絶対に正しいのだからデマ宣伝も許されるというのは、レーニン以来の社会主義の発想です。