ユニクロの致命的な弱点を見つけたり!

加藤 鉱

★加藤鉱の会社すくらんぶる  ファーストリテイリング編★

 ファーストリテイリングのようにメーカー機能を持つ小売業をSPA(speciality store retailer of private label apparel)・製造小売業と呼ぶ。
 自前工場こそ持っていないものの、生産以外は商品のすべてに携わるやり方なので、実はユニクロとはファーストリテイリング社のプライベートブランド(PB)ということになる。
 ユニクロのフリースがバカ売れした1998年頃から日本のメディアは、やたらとSPAという言葉を使いだしたけれど、これは別に目新しい手法でもなんでもない。

【5兆円構想に厳しい視線を向けるアパレル専門家たち】

 わたしの知るかぎり、アパレル産業での先駆者は、1980年代に香港で大ヒットしたジョルダーノ。商品開発、原料調達、生産工程、流通、販売まで、つまり川上から川下までの全工程を管理、加えてITを駆使したジョルダーノ・モデルは瞬く間にアジア中に広まっていった。

 だが、1989年にわたしの取材に応じたジョルダーノの創業者のジミー・ライ氏は、「SPAはヨーロッパの小売業のやりかたを参考にしただけ」と明かしたし、その頃からわたしは欧州系の食品商社の人間からさかんに「SPF」という言葉を聞かされていた。これはspeciality store retailer of private label foodsのことで、すでに当時から欧州の小売業は食品のPBを開発していたのだ。

 それはさておき、知ってのとおり、ユニクロの柳井正会長兼社長は「2010年度のグループ売上8000億円(予定)を2020年までに5兆円にする」という大風呂敷を広げている。
 ユニクロのグローバル化は10年前からスタートしており、今年5月には世界最大のグローバル旗艦店を上海に出店、中国市場では1000店、売上1兆円を目論んでいる。

 いつの時代にもとてつもないアドバルーンを打ち上げる企業は登場するものだし、マスコミはそのたびに騙され続けてきた。たとえば、ヤオハンの和田一夫代表などはその代表だった。はたしてユニクロはどうなのか?
 アパレルの専門家に聞くと、本音ベースではかなり厳しい目で見ている。

「開発はすべて東レ頼み。毎年ヒット商品が出るという前提で達成できる計画には疑問」
「あそこまでシンプルなデザインとラインアップではグローバルでは通用しないのではないか」
「中国人のテイストはどちらかというと欧米人に似通っている。飽きられる前に、大幅なトレンドチェンジが不可欠」

【ユニクロは本当にアパレル企業なのか?】

 わたしは生産面で懸念を抱いている。ユニクロが本気で2020年に年商5兆円の売上げ達成を考えているならば、今後の最大の課題は、どう製造委託先工場を確保するかだと考えている。
 欧米の衣料チェーンや総合スーパーのほぼすべてがSPAをやっていて、ユニクロとはケタ違いの発注量で、優秀な製造委託先を囲い込んでいる。現実には、日本の繊維商社でさえバイイングパワーでは欧米のグローバルリテーラーにはまったく歯が立たない。しかも日本勢はクオリティに厳しいという理由で、製造委託先から敬遠される傾向が強い。要するに、「買い負け」しているのだ。

 数年前から、日本の専門商社がグローバル市場においてマグロや鶏肉の買い付け交渉で他国業者に買い負けしていると話題になっているが、それと同じ現象が衣料の分野でも起きているわけである。
 これまでユニクロのSPAの主力工場は中国華南地区にあったが、数年来の人件費高騰により優位性がかなり薄れてしまった。
 そこでユニクロはバングラデッシュ、ベトナム、カンボジアあたりに製造拠点を移しつつある。特にバングラデッシュでは貧困層向け「マイクロファイナンス」で知られるグラミン銀行と提携、ユニクロは同行のネットワークを利用した対面販売で恩恵を受け、銀行側はユニクロ工場の大量雇用で国民の所得増を期待できるといったウィンウィン関係を築く計画が伝えられている。

 そんな矢先、ユニクロを退社した人の集まる会があるというので、取材に行った。20代後半から30代前半の十数人が集まっていた。大手百貨店やアパレルメーカーを蹴ってユニクロを選んだという人たちが多く、若者たちのユニクロ人気を再認識させられた気がした。

「なぜ、あなたはユニクロに入社したのですか?」
「海外勤務の可能性が高いから」「実力主義だから」「柳井さんにあこがれていたから」などという答えが返ってきた。
「勤めてみた実感はどうだったですか?」
「すべてがマニュアル化していました」
入社5ヶ月で一人前の社員になり、2年で必要な資格をとり店長となる社員教育システムが完璧に出来上がっているのだという。
 だが、彼らはそれが嫌で退社したわけではない。
そして異口同音に言い募った。
「洋服の好きな人がほとんどいない会社なんです」「洋服のことがわかっていない」「アパレルの会社ではなかった」

餅屋に餅がない会社になってしまった。これが現在のユニクロが抱える最大の弱点ではないか。

ノンフィクション作家 加藤鉱

コメント

  1. うらら より:

    弱点というか、ユニクロには以前からいくつか疑問がありました。
    吐き出してみます。

    基本、繊維産業は『女工哀史』を場所を移し変えて繰り返している。それにしても、まだ繰り返すのでしょうか。
    ユニクロが「グラミン銀行と提携」と聞けば聞こえがよいのだけれど、これは女性から搾取することを公然と謳っているのと同じではないのだろうか。

    生活者(消費者)を甘やかして労働者は苛め抜く「生活者=労働者」でなので切っても切れない悪循環型のこの社会で、「生活者」を「低価格」で甘やかし、踊らせるだけの力がありながらも、生活者を人として正しく啓蒙する努力をしない会社、企業、組織は、良くない集団ではないか。

    啓蒙されない生活者を踊らせる裏で、製造現場で奴隷労働に従事する末端の労働者がいる。
    バングラデシュのとある縫製工場のビルには、自殺防止用のフェンスが張りめぐらされているとか。『garment girls of bangladesh(バングラデシュの衣料工場で働く女工たち)』というドキュメンタリー映画を観たのですが。

    ユニクロの柳井社長が、

    「ユニクロでいちばん発言力のある人、それは社長ではなく、お客様です」

    と仰っていたらしいが、その言葉もしやが生活者へのいやらしい責任転嫁でないことを願いたいが。

  2. hogeihantai より:

    アパレル業界で株価が日経平均以上に伸びてきた会社があるのですか。私の知る限り日本のアパレル業界はユニクロを除き全て国内市場のみに依存しており、他の内需企業と同様、株価は日経平均にリンクどころか日経平均以下ばかりです。縮小する国内から国外の市場に進出しているアパレル企業はユニクロのみです。

    洋服のことがわかった洋服の好きな人がいるアパレルの会社とはどの会社ですか?ユニクロ以上の業績を上げてますか?中国の企業に買収されるような冴えない会社ばかりだと思うのですが?

  3. nnnhhhkkk より:

    ユニクロはオンリーワンに収束しやすい非効率な個性派は目指していないでしょう。
    最初からインナー中心に最大公約数を目指している企業だと思うんですが。
    それがアパレルではないとか弱点とか意味がわかりません。
    無理やりファーストリテイリングを批判したいだけのように感じるのは俺だけでしょうか?
    大量多品種の圧縮陳列のしまむらとは目指すところが違うだけです。

    ユニクロやジーユーの製品の品質はスーパーの同商品よりも品質が遥かにいいのは事実。
    約10年前に買ったフリースもまだ現役。スーパーで買ったフリースは毛玉だらけでボロボロ。
    ジーユーで買ったショートパンツはほとんど劣化なし。スーパーで買ったやつは3カ月で糸クズだらけ。
    品質やクオリティにうるさくない云々も意味がわかりません。
    たかが縫製段階で高い技術が必要なのはよっぽど特殊な衣類ぐらいでしょう。

    文句ばかり書いてしまいましたが、個人的にお世話になっているお店なので批判のための批判を批判させていただきました。
    ユニクロの品揃えが悪いのは否定できません。しまむらの方が見ていて楽しいのも確かです。
    しかしそれでファーストリテイリングを否定するのはかなり無理があります。

  4. suomi_i より:

    またまた尻切れ。

    この記事の一番の肝は最後の「なぜ、あなたはユニクロに入社したのですか?」と退職したスタッフに尋ねたくだりなんでしょ。

    それがあれでお終いなんて。掘り下げが無さ過ぎる。文章の構成力の問題なのか、実際に考察する力が無いのか。

  5. maltcask より:

    「見つけたり!」っていうのがおもしろいですね
    してやったり、という感じでしょうか?
    ユニクロは注目度の高い企業なので、致命的な弱点といわれて思わず読んでしまいましたが、さほどの刺激的な内容ではないようです
    「洋服の好きな人がほとんどいない会社なんです」ということですが、これも企業としての弱点なのか一概には言えないと思います
    なまじな思い入れが無い分、業績を客観的に見ることができるとすれば、それは逆に強みなのかもしれないからです

    どんな企業にも弱点はあるだろうという程度の指摘に過ぎない一文だと思います

    勝手な感想ご容赦ください

  6. bobby2009 より:

    >縮小する国内から国外の市場に進出しているアパレル企業はユニクロのみです。

    鈴屋はユニクロ程の派手さはないですが、かなり以前から東アジア(香港・マカオ・中国大陸・インドネシア)へ進出しており、かなりの店舗数を持っているようです。

    http://www.suzuya.com.hk/gb/shoplocations.php

    海外進出しているアパレル企業は、探せばもっとあるかもしれませんね。

  7. tktnrmk より:

    面白い記事でした。ただ、説得力に欠ける気がします。

    なぜ洋服の好きな人のいないユニクロに、国内のアパレル企業がことごとく負けてしまうのでしょうか。

    そこをもう少し掘り下げて欲しいと思います。

  8. katoko より:

    Maltcaskさん

    貴重なご意見有難うございます。わたしの周辺ではファンドなど金融関係にたずさわっている人たちがそれに近いことを言っています。ただし、彼らはユニクロを扱い銘柄として評価していません。かつてのソニーが危機になると画期的な新商品で息を吹き返したような芸当が、商品ライフサイクルの極端に短いアパレルだけに無理だろうという考え方のようです。それは世界のアパレルの歴史が証明しています。

    わたしは、企業が成長するためには使命感が不可欠と考える一人です。ユニクロにはそれが見えません。批判的な内容ながら、Maltcaskさんの折り目正しい性格が伝わってきたことを申し添えておきます。

    加藤鉱

  9. katoko より:

    tktnrmkさん

    >なぜ洋服の好きな人のいないユニクロに、国内のアパレル企業がことごとく負けてしまうのでしょうか。

    それは香港のジョルダーノをコピーして、大掛かりなSPA方式を日本のアパレルで最初に展開した先行者利益が出ているのだとわたしは考えています。いまは猫も杓子も中国、アジア途上国へ進出しており、いずれそれも剥がれ落ちるはずです。
    仮にユニクロの技術者がよい指導をして開発国の製造委託工場を育てても、庇を貸して母屋を取られる式に、欧米大手の圧倒的な発注量の前に寝返りされてしまうことを懸念していますし、現実に起きていると聞いています。だからこそ、拡大戦略を取らざるを得ないのかもしれません。

    加藤鉱

  10. snowbees2008 より:

    1)東レとユニクロとの共同開発:

    [東京 22日 ロイター] 東レ(3402.T: 株価, ニュース, レポート)の杉本征宏副社長は22日の記者会見で、ファーストリテイリング(9983.T: 株価, ニュース, レポート)と共同開発した機能性インナー「ヒートテック」の生産について、2015年ごろには中国外での生産比率を50%に引き上げる考えを示した。

     編み・染め・縫製は中国で集中して行ってきたが、2008年には協力縫製工場をベトナムにシフト。さらに、2010年4月にはバングラディシュで編み・染め・縫製の一貫工場が稼働したという。杉本副社長は「中国外での生産拡大・強化は喫緊の課題」と指摘し、「中国での生産は現状を維持し、今後の拡大は、インドネシア、タイ、ベトナム、フィリピンなどのASEAN地域とバングラデシュなどを生産拠点とし、2015年ごろには、中国以外での機能性インナーの生産比率を現行の20%強から50%に高める」と述べた。

    2)ユニクロとH&M:商品コンセプトが異なる:
    H&Mの商品が個性的なデザインを売りにしているのに対して、ユニクロはカジュアル・ファッションでありながら、品質が売りである。ユニクロは、低価格を維持しながら、品質のよさを追求する。品質のよさの追求は、素材のよさのみならず、着心地のよさ、機能性の追及につながる。
    (スウェーデンはなぜ強いのか by北岡孝義、PHP新書681)

  11. i8051 より:

    ユニクロに「アパレル」を求めて入社された方はちょっと不見識ですよね。ユニクロの商品ってデザイン性に関しては言わずもがなだし、品質もインナーなど一部以外は「値段なり」です。要するにユニクロの売りは喧伝されてるのと違い商品ではないと思う。私見ではユニクロの強みは誰に対しても敷居が低いと感じさせることに成功している点でしょう。ユニクロの店って結構年配者やダサ目の人も多く、それでいてそれがネガティブな企業(店舗)イメージに結びついてない(今のところは)。これって同業他社にはない特徴だと思います。