民主党参議院議員(神奈川県選出)
まず、このような機会をくださった言論プラットフォーム「アゴラ」事務局の方々、また、株式会社アゴラブックスの代表、池田信夫氏に感謝申し上げます。ご自身とことなる意見を持つ人間に主張を述べるチャンスを与えてくださることほどその方が真摯に議論を展開しようとしていること、また、フェアであることを雄弁にものがたる行為はありません。
さて、私は民主党の「デフレから脱却し景気回復を目指す議員連盟」(略称デフレ脱却議連)の事務局長をつとめています。
この「デフレ脱却議連」は衆参あわせて約140名の国会議員からなっており、規模としては、往年の社会党より若干小さく、現在の党内のグループと比較するならば小沢一郎氏のグループに匹敵するサイズです。もちろん特定のグループとは完全に無関係に、党内の政局とは関わらずに活動をしております。一例を挙げるならば、9月の民主党代表選では菅直人、小沢一郎両氏に対して政策提言を行いました。
現在、われわれデフレ脱却議連は、現在のデフレを脱却する手段として金融政策をもっとも重要な政策手段であると考えています。
今年の参議院選挙でも、脱官僚依存、脱霞が関を訴えて戦ったわけですが、なにも官僚は霞が関だけに存在するわけではありません。日本銀行の官僚ももちろん日銀法という根拠法に基づく強固な官僚組織です。彼らは、霞が関と比較してもそれ以上に大きな権力と自由を享受しています。人事院などのコントロールを受けておらず、実質的な天下りを各種金融機関に対して行っています。また、霞が関では審議会、私的諮問委員会などの透明化などを通じて、官僚システムのガバナンスの向上が図られていますが、日本銀行の場合にはそれも不十分だという声が大変に強く上がっております。
中央銀行の独立性の確保は重要ですが、5月に行われた日銀主催のコンファレンスでFRBバーナンキ議長による発言があったように、それは手段の独立性にとどめられるべきであって、目的設定の独立性は認められません。加えて、高給+終身雇用+天下りという海外に例をみない中央銀行に無制限な独立性を与えることは到底受け入れることができません。
日銀の現状を踏まえ、円高デフレ状況を改善するために、われわれは以下の政策提言 「デフレ脱却・経済成長プログラム」を7月30日に行い、野田佳彦財務大臣、後日、菅直人総理に手交しました。
1.政府内に経済政策の司令塔を設置
・経済成長と景気対策を担当する省庁がなく、各省庁の縦割りになっていることへの対応が急務。・政府は毎年、年末の予算編成にあわせて次年度の物価上昇目標(消費者物価指数プラス2%からプラス3%の間)を決定・公表
2.金融政策:インフレターゲット政策の実施
・長期国債の買い切りオペを中心におこなう必要がある。場合によっては、株式、REIT(不動産投資信託証券)、中小企業を含む低格付けのCP・社債をも対象とすべきである。また、市中の金融機関の企業向けローン債権購入も検討すべきである。3.日銀法改正など日銀のガバナンス向上の方策を実施
・改正日銀法が施行された1998年以降のデフレ・円高不況の原因は日銀による金融失政であるため、日銀法の改正にすみやかに着手する。4.10年間で7割強の経済成長実現:経済成長の数値目標
・われわれのプログラムは、当面の不況から脱却するために経済を活性化することにより今後の成長戦略の成果を一層確実にするものである。⇒10年後の平成32(2020)年度終了時には名目で約70%強、実質で約1/3強わが国経済が成長。
5.経済が中長期的に潜在成長率に復帰した後に、強力に財政再建をおこなう。
「FRBのリーマンショックへの対応」への評価としては
・未曾有の金融危機である2008年9月のリーマンショックに対応するために、大恐慌時代以来封印されてきた連邦準備法第13条3項に基づき、本来FRBの管轄下にない証券会社への貸し出しをはじめとする非伝統的な金融政策を大胆に実施した。・これらの非伝統的な金融政策の発動は、納税者負担を発生させる可能性があるため当初、議会からの強硬な反対を招いたが、急激な米国経済の落ち込みを防ぐことができた。
以上のような問題意識を踏まえ、日銀法改正をできるだけ速やかに可決成立させていきます。この日本銀行法改正については、既に民主党内の正式な審査手続きに入っており、今後、党内の政策調査会財金部門会議で検討していきます。
われわれの提案する日銀法改正案は、以下の内容です。
1.FRB(連邦準備制度理事会)を見習い、日銀による金融政策の目的に「雇用の最大化」を盛り込む
2.物価安定目標(インフレターゲット)政策を導入する
3.総裁、副総裁、政策審議委員等の選定のあり方を再検討(透明化など)する
物価安定目標(インフレターゲット)政策については、日銀法を改正しなくても実施することは可能ですが、日本銀行の現状を踏まえ、日銀官僚に明確にマンデートを与え、確実に実施するためには日銀法に明記することが望ましいだろうと判断しました。
前回の参議院選挙での「民主党2010マニフェスト」においても、その骨格を形作った成長・地域戦略研究会(大畠章宏会長)の報告書に、インフレターゲットの導入が盛り込まれていましたし、また、自民党、公明党、みんなの党の3党もそれぞれ参院選マニフェストでほぼ同様の政策の導入を唱えておりました。菅直人総理もデフレからの脱却を重要な政策目的に掲げております。政局に関わりなくこの日銀法改正を実現して、一刻も早い円高・デフレからの脱却を実現します。
今後のデフレ脱却議連の活動や提言については、金子洋一のブログで逐次公表してまいります。また、ツイッターにおいても、日銀法改正をはじめとする経済政策に関する発信をしておりますのでご関心があればご覧ください。
最後になりましたが、言論プラットフォーム「アゴラ」のますますのご発展、心から祈念しております。
(金子洋一)
コメント
まず物価上昇率の設定が高すぎると思います。 理由は、既発国債の平均表面金利が1.4%程度と思われるからです。、インフレ率が2-3%の場合、長期金利が3-4%になるのではないでしょうか。 従って、実際にインフレ率が2-3%に達した段階で、既発国債が巨額の含み損を蒙り、売り圧力が高まって、日銀がコントロールできなくなるのではないでしょうか。
長期金利が4%になれば、既発国債の含み損は200兆円を超えるものと推計されます。
従って、今後の経済運営で目標インフレ率を2-3%に設定することは不可能で、現実的には1%程度にせざるを得ないと思いますが、如何でしょうか。
さらに、経済成長についてですが、現在のように新興国が経済発展している中、資源の有限性が問題になっており、その中で、日本が10年間で実質30%もの成長を達成することは、極めて困難ではないでしょうか。 そのような具体的な方法はおありなのでしょうか。 それなしで夢のような話を語るのは、無責任ではないでしょうか。
また財政再建に対するスタンスが甘すぎると思います。 経済成長は実質2%程度を見込むのが安全であり、債務残高の対GDP比率はこのままでは発散しますので、早急な増税が必要ではないでしょうか。
金子氏の書きぶりは変に激するでもなく丁寧で、説明しようという気持ちがみてとれる点他のデフレ退治論者より好感が持てます。しかし問題は非常に多い。(1)そもそも「デフレありき」で「デフレか否か、原因と波及経路、その対策」についての落ち着いた経済分析が不在なまま、いきなり「デフレだと思う→金融政策が最重要」と「宣言」。(2)金融政策には様々な手段、チャネルがあるがたいした検討もなくメニューを並べている、(3)メリット・デメリット等の比較考量が皆無、(4)巨額の財政赤字や為替レート等、中銀でほぼコントロール不能な変数との関係も言及なし、(5)FRBは中銀でも特殊。金融監督権限も持つ「役所」。雇用責任の明記も例外。(6)日銀は出資証券が店頭売買される存在であり、給料は市中銀行対比で決まっている。天下りは現在はない(退職後2年経過後から)。また今時、経営悪化先以外のまともな地銀では日銀OBなど受け入れない。(7)金子氏の主張はいわば「ケチャップ購入」=財政政策なので、(やりたければ)まず国債で実物を買い、日銀が徐々に国債を買い増すだけで実現可能。日銀法改正とか面倒なことは必要ないでしょう。
日銀の量的緩和、特に長期国債の日銀の買い切りオペを続けることは、インフレ期待を増大させ、長期金利の上昇を招きます。 これは既発国債の所有者に損失を与えます。
この提案で、インフレ目標を高めに設定されていることの意味は、恐らくインフレで財政赤字を名目GDP比で縮小させようという意図だと理解しますが、現在の国債保有者にインフレで損失を被ってもらう政策なので、現在の国債所有者から政府への所得移転を目論んでいる政策であると言えます。 こういったコミットメントを政府が行うことが正当化できるものなのか、極めて疑問です。 また、現在の国債所有者の反乱、すなわち国債の大量売却を防ぐことは、難しいと思います。 規制を設けると国債が安全な資産というイメージに大きな瑕が付きます。
私見ですが、財政破綻を避けつつ、量的緩和でデフレを脱却するには、まず財政赤字をGDP比で小さくしてからでないと危険なのではないでしょうか。
それとよく分からないのは、デフレが本当に不況の原因なのかということで、デフレは非効率な日本経済の構造が原因で現れた現象ではないかと思っています。
失礼ながら寄稿された一文を読み、嘆息した。これで日本経済が変わるとするのなら、海に流れる川が山に向かって流れる方が容易いだろうと思った。
政治家の方が、どのような政策を決めるに於いても、その有効性と副作用の軽微であることを十分に検証してからのものでなくてはならない。
しかし、この一文を拝読する限り、そのようなことがなされた痕跡が見出せないのである。
1)最近クルーグマン氏がニューヨーク・タイムスに寄せた一文にも指摘していることだが、日本経済の事実として2002~2006年の間に、マネタリーベースを大きく増やし変動させたにもかかわらず、マネーストックは全くといって良いほど反応していない。これは、金融緩和だけでは、市中に金が出回らないことを事実として示している。このメカニズムの言及なしに金融緩和が市中に出る金を増やし、お金の価値を希釈することによってインフレを起こすような構想は、絵に描いた餅以下のものである。
2)1998年のデフレが日銀の罪であるかのような言及があるが、これも拓銀、山一の倒産に由来するもので、日銀ではなく当時の大蔵省の責任である。日銀責任論が経済学者の合意になったものでは全くないのに、異論に対する反論もなく日銀法を変えれば上手く行くような口上は、山師のすることである。
3)現状がデフレであるかどうかも、野口悠紀雄氏が指摘するように、技術革新と国際貿易の品物だけが価格低下をし、サービスは値上がりしている事実から疑わしいと言う指摘にも正確に答えなくてはならない。
他に指摘したいこと多々あるが、文字数の関係からここで留める。
私ごときが書き込むのもあれなのですが、理解できないので質問させてください。
1.金融政策の目的に「雇用の最大化」
を入れるということですが、具体的に日銀に何をさせたいのでしょうか?
人をどの程度雇うかは各企業の裁量のはずです。日銀がどうこうできるものではないでしょう。それとも特定の業界を支援しろというような「雇用の最大化」をはかれるような、何か目算のようなものをお持ちなのでしょうか。
日銀法に書いておくだけ、それだけで満足なんだといわれるならわかりますが、しかしそれだけなら書いておいても書かなくてもいっしょではないですか。
> 場合によっては、株式、REIT(不動産投資信託証券)、中小企業を含む低格付けのCP・社債をも対象とすべきである。
ケチャップではなく REIT、株式等を選択的に購入することは資産インフレを起こす。相対的に資産を持つ者が富み、持たざるものが貧しくなる、格差を拡大する愚作である、という小幡績さんの指摘も大きいですね。
基本的に、非効率が不況の要因であるとすればそれはスタグフレーションになると思われますが。ルーカス批判の背景にあるアメリカの社会情勢は勉強なさったでしょうか?そういう意味で非効率がデフレの要因というのは現状認識としてどうなのでしょうか?
また、インフレ目標が政府への所得移転だという点は事実ですが、それでは家計や企業に目を向ければどうでしょう?住宅ローンや会社の運転資金の利払いで苦しんでおられる方、また不況による名目賃金、売り上げの伸び悩みで借金さえできず、家を建てられない、新規事業を開始できない方たちも政府と同じように財政難なのではないでしょうか?
そして、所得移転で損をするのは池田さんがたびたび指摘する、固定収入を貯めこむだけの「ノンワーキングリッチ」であって、積極的な、新しい、面白い分野への投資を率先するような投資家にとってはインフレは効用を大きな生み出すと思いますよ。