日本の農業をどうするか - 山口巌

アゴラ編集部

農業に就いては既に夥しい議論が成され、問題点もほぼ判明していると言うのに未だ具体的な解決案が確立されてないと言うある意味不思議なテーマである。

又、今回のTPP加盟は今後の日本発展の為のマストであり且つ加盟しなければ間違い無く日本は衰退する。従って、今回こそはTPP加盟のネックと成っている農業問題をどうするか、先送りする事無く決定し、実行せねばならない。


前提としての今世紀のあるべき日本の国家像
先ず、本題に入る前にその前提条件と成る今世紀の日本の国家像に就いて考えてみたい。

私の理想とする国家像は下記の通りである。

1.通商に軸足を置く海洋国家
2.安全保障の基軸は日米同盟に置く
3.自己責任の明確化と社会保障費の徹底した削減
4.中国及び中国に雁行する新興産業国との関係強化、通商拡大に拠る利益拡大
5.公務員改革を中核とする行政改革の断行と財政支出の削減
6.規制の撤廃、緩和に拠る起業の促進
7.消費税増税に拠る財政規律遵守の早期達成
8.地方分権の加速とその結果としての二重行政の撤廃

あるべき日本の国家像と農業の関連
今更乍であるがあるべき日本の国家像ほぼ全ての要点に対し農業がボトルネックと成っている。あるべき農業改革が焙り出されるのは当然であり、今回のTPP加盟とその前提となる農業改革はその一丁目一番地とせねばならない。

どの様なスタンスで農業改革に臨むべきか?
1.何より大事な事は農業を聖域化せず他産業同様国際競争に晒す事。そもそも戦後の政権与党自民党に拠る農業への手厚い保護は「利益誘導」の典型であり「補助金」で農家票を買収したにも等しいと思う。本来あるべき政治と市場経済を歪めており更に悪い事に此の歪みを規定事実化してしまい結果身動き取れなく成っている。

2.当然圧力団体である農業関係者よりは「国は農業を壊滅させるのか?」等の的外れな抗議もあるであろう。しかし良く考えて見るとそもそも国内農業は産業として見た場合既に体をなして無いのでは無いか?膨大な補助金と国際価格に比較して異常に高額な米価に拠って人工的に延命されているだけでは無いか?無論、高い米価は消費者から米農家への所得移転であり、消費者に取ってはある意味形を変えた税金である。

3.農業の国内GDPに占める割合(1.5%と聞いてるが)と農林水産省、独立行政法人他外郭団体への財政支出のバランスを精査すべき。この点では民間の費用対効果の思想を取り入れるべき。農業は費用垂れ流しの全くのコストセンターに成っているのではないか?此れでは産業とは言えない。この際財政支出の垂れ流しを止めるべく一旦バルブを閉めるべきと考える。

4.巨額の農業関連予算には国・地方の多くの役人がぶら下がり且つ役人の回りに民間が集まり税金を皆で食い物にしている構図が推測される。ある意味今日日本の停滞原因の縮図である。TPP加盟は良い機会なので此れを機に農林水産省、独立行政法人等一切の農業関連行政組織を解体してはどうだろうか?農業問題は小手先の対応では埒あかず大鉈振るう必要ある。

農業改革を円滑に進める為に
それでは激しい抵抗が予想される農業改革をどの様に進めれば良いのだろうか?

1.農業問題が長きに渡り放置された背景は政権与党の自民党が目先の利益に目を奪われ放置し続けた事が大きいのは事実。しかしながら因り根本問題として一票の格差の問題があると思う。地方票は場所に拠るが都会の4~5倍の価値があり且つ、農家が農業保護をよしとする議員に必ず投票するとなると選挙を意識する地方選出議員は此れを無視出来ない筈。結果、補助金を受け取り続ける地方が都市を振り回す、ある意味、尻尾が犬本体を振り回すと言う看過出来ない光景が続く事に成る訳である。折角、民主党に政権交代した訳だし、そもそも憲法違反の疑義ある一票の格差問題、此のTPP加入問題検討を機に解決し格差ゼロにすべきと思う。

2.個別所得保障に追加して農業の地域貢献を地方行政が評価しインセンテイブを支払ってはどうだろうか?農業が他の産業と区別される点は単に農作物と言う商品の生産に留まらず、

○溜池、水田に拠る保水効果
○耕作に拠る害虫等の駆除効果
○美しい田園風景の保全、維持に拠る観光産業への貢献

こう言った点で地域に大きく貢献しており一定の経済効果も在る筈。

最後に
繰り返しと成るが、最後に下記2点を強調したい。

1.政府支援に頼らず飽く迄市場経済に身を晒し、市場に受け入れられる、品質と価格で生き残りを図るべき。

2.従来の農水省、或いは全農ありきの農業行政、つまりは特に農業が好きな訳でも無ければ理解してもいない所謂中央官僚が机の上で作成したプランの実践は止めにして地域主導に拠る地域と地域住民への貢献を重点課題とする政策に転換すべき。
(山口 巌 会社員 Twitter:@iwaoyamaguchi)