マスコミの政治責任・・・思わず漏れた本音

岡田 克敏

 11月28日の毎日新聞のコラム、反射鏡には新聞社の本音が漏れているようです。与良正男論説副委員長は次のように告白しています。

「政権交代から1年2カ月。臨時国会は、閣僚の失言、陳謝、撤回のオンパレードで、確かに菅内閣の体たらくは目を覆うばかりだ」
「『日本の政治には政権交代が必要』と長年書き続けてきた私も自省を続ける毎日である」

 そこには長年の努力がようやく実って民主党政権が誕生したものの、そのあまりの出来の悪さに失望し、落胆している様子が見て取れます。長年の自民党政権に嫌気が差し、ようやく取り替えたものの、それは前よりさらにひどかった、というところでしょうか。


「政権交代が必要と長年書き続けてきた」とありますが、自民党政権がずっと続いてきたわけですから、政権交代とは民主党政権の実現と同義であり、それを長年目指してきたということに他なりません。

 中立を求められる筈の新聞社がずっと民主党政権を応援してきたという事実を堂々と話される正直さに驚かされますが、それは社内では民主党を支援することが「あたりまえのこと」となっていて、それがメディアの中立性を侵すものだという意識が希薄になっていたためではないでしょうか。

 政治を左右しようというあからさまな意図が露わになった例として世に有名な「椿事件」があります。93年7月18日の衆議院選挙に臨んで、テレビ朝日の椿貞良報道局長は選挙時の局の報道姿勢に関して次のように述べたといわれる事件です(以下Wikipediaの椿事件より)。

「小沢一郎氏のけじめをことさらに追及する必要はない。今は自民党政権の存続を絶対に阻止して、なんでもよいから反自民の連立政権を成立させる手助けになるような報道をしようではないか」
「共産党に意見表明の機会を与えることは、かえってフェアネスではない」

 これが報道局長であった椿氏の、日本民間放送連盟の第6回放送番組調査会の会合という公的な場での発言だそうですから、その見識に驚かされます。しかしこれが明らかになったのは1ヵ月近く経った後の産経新聞の報道によるものであったという事実などを考えると、発言の背景には民放連の中立性に関する問題意識の低さがあったのではないかと強く疑われます。つまり椿氏はまさか批判を受けるとは思わず、あたりまえのこととして発言した可能性があるわけです。

 発言からは「意見表明の機会」までを意図的に管理していることがわかりますが、そこには中立性など全く見らないばかりか、支配者のような驕りが感じられます。また毎日新聞の場合は論説副委員長、テレビ朝日の場合は報道局長の発言ですから、一部の暴走などではなく、そのメディアの報道姿勢を「正しく」表したものと理解すべきでしょう。

 しかしこのような例、図らずも本音が漏れたという例はわずかです。たいていは自民党に不利なニュースは大きく扱うなどの巧妙な方法がとられます。例えば安部内閣当時、松岡利勝、赤城徳彦元農水大臣の事務所経費問題の報道は凄まじく、松岡氏は自殺、赤城氏は辞任に追い込まれましたが、安部内閣の受けた打撃は取り返しのつかないもので、参院選の大敗につながりました。

 前置きが長くなりましたが、この小文の趣旨は多くのメディアが政権交代、すなわち民主党政権の誕生に大きい役割を演じながら、その出来の悪い政権を作ったことに対して責任を感じている様子が見られないということです。責任は選んだ国民にあるのだということにして。

 与良氏の発言の中には「自省」という言葉があり、民主党政権を望んできたことに対する後悔の気持ちが見られますが、これは例外的と言ってよいでしょう。まあそう思うのであれば少なくとも社説に書くべきでしょう。しかし、ここでも民主党政権を生んだことへの責任は感じられません。

 つまり、多くのメディアは判断を誤り、民主党の能力を過大に報じて、国民の選択を誤らせた結果、誕生したのが「目を覆うばかり」の民主党政権であったというわけです。たしか福田内閣のとき、当の小沢代表自身が「民主党には政権担当能力はない」と発言しましたが、皮肉にも現状はそれを実証する形となりました。

 鳩山内閣が発足すると、首相や閣僚達の発言が逐一報道されるようになりました。発言を聞けばその人物のおおよその見識レベルがわかります。最初の2~3ヶ月間の発言から政権の実像を理解し失望した方は少なくなかったと思います。

 マスコミは情報を収集するのが商売ですから、その情報量は一般国民をはるかに凌駕します。したがって政権発足前に政党やその構成者の能力をより正しく評価することは十分可能であった筈です。にもかかわらずその評価を外したのであれば、自らの評価能力の低さを恥じるべきでしょう。

 政府のレベルは国民のレベルによって決まるといわれています。しかし国民の投票行動はマスコミ報道の反映でもあることを思えば、政府のレベルはマスコミのレベルによって決まるといった方がより適切でしょう。

 誤った判断によって政治が変えられることはたいへん危険です。メディアの判断が頼りにならない以上、有名無実となっている中立性をもっと厳しく考える必要があるでしょぅ。不偏不党、中立報道を看板にするメディアは多いのですが、その看板を自らの政治責任を回避するためにだけ「有効利用」している現状はまことに憂慮すべきものと思われます。

コメント

  1. harappa5 より:

     麻生前首相の飲み食いは、批判して、管首相の自派閥とのはしご酒の、批判的な報道を一切しない理由は、なんでしょうか?
     ヤフーのコメント欄を見ると、マスコミに対する批判・不満が、渦巻いている事がわかります。この蓄積された不満が、どの方向へ行くか、心配です。

  2. mucha5 より:

    マスコミに原因があるのではないか
    と結論は間違いではないが…。
    もっと先に根本の原因がある。

    厳密にいえば
    政府のレベルだけではない
    マスコミのレベルだって
    国民の意向によって決められる。

    だから
    「国民のせいではない」は間違っている。

    では具体的に
    国民の何がいけないのか?

    現代日本人の哲学が弱いからだ。

    現代人は自ら生まれた哲学を持たず
    いつも誰かの哲学を借りている。
    それが過去の人であったり
    外国から伝わってきたものであったり。

    現代日本人の大好きな言葉
    「常識」がそれだ。
    「新常識」を自ら生む力がもっと必要だ。

  3. 松本徹三 より:

    私は、長年の圧倒的に強い立場に胡坐をかいて傲慢不遜になってきた既存メディア(新聞・放送)の問題点が露呈されればされる程、そのアンチテーゼとしてのネットメディアに対する期待が高まることになるので、現状を歓迎している一人です。

    但し、心配は、流言飛語や名誉毀損などが日常茶飯事になりかねない「現在のネット社会の未成熟と不安定性」です。

    しかし、タブレットのような使いやすい電子端末の普及がもう少し進むと、現在新聞社などに勤務している有能な編集者や記者がスピンアウトして新しい組織を作り、新しいネットメディアを立ち上げても、ビジネスとして十分成り立つことになると思いますので、これが救いになるでしょう。

    新しいネットメディアが打ち出すべきは
    1)視聴者が自分の興味に従って時間を有効に使え、且つ重要なニュースは見落とさないようにする工夫。
    2)個々の問題に対する深堀り。(解説記事や過去の事例などが満載された「関連サイト」へのリンクの充実。)
    3)異なった視点の並列的な紹介。(これにより、報道の偏向や意図的な誘導が回避できる。)
    4)視聴者が自分の意見や疑問を自由に投稿できる双方向性。(世論調査の日常的な実施。)
    5)ニュースの速報性。(高頻度のアップデート。)
    6)映像の駆使などによる臨場性。
    等々です。

  4. izumihigashi より:

    なんでもかんでも光の道に結びつけるのはどうかと思いますが、こんな所にも光の道が実現しなかった場合の弊害、つまりマスコミの論調以外に情報を取得する方法が無く、それがモロに選挙の投票行動となって現れるのです。ま、そういった田舎ほど一票の重みが高いのですよ。由らしむべし、知らしむべからずの状態が田舎ほど温存され続けるのです。
    光の道は人々の意識を大きくチェンジさせる突破口となります。ネットの影響が増大し、マスコミの影響が低下すれば、マスコミの偏向報道の社会的悪影響も低下するのではないでしょうか?

  5. jazzo より:

    マスコミは世の中に溢れてる情報を取捨選択して伝えることが仕事で、今のようにいろんなメディアが溢れている状況なら、マスコミが中立でなくても良いのではないか?
    マスコミが情報を取捨選択するにはルールや基準が必要になるが、今のように「皆にうけること」がルールとなるよりも、前後の整合性を合わせた情報や主張を提供するという方向性が今のメディアに求められている事ではないだろうか?
    そのためには、数多くのいろんなマスコミが存在して、視聴者や読者がいろんな選択肢を取れるという、マスコミ内での中立でなく、マスコミやメディ界全体でのバランスを確立することが必要であり、その素地はインターネットを含めて出来つつあると思う。

  6. m_akkie より:

    特にテレビ朝日は古館とか鳥越といった民主党or小沢シンパを使って反自民を煽ってましたね。彼らは今も一切自らの無責任な言動を反省せず、平気な顔で適当なことを言ってるようです。テレビを長く視聴する層ほど民主党支持率が高いという調査結果と合わせると気が重くなります。公共目的という名目で格安で提供された電波を海老蔵がどうだこうだと低俗なバラエティで占領するなら、既存テレビ局は電波使用権を返還してもらいたいものです。

  7. courante1 より:

    ご意見をお寄せいただきありがとうございます。
    松本様をはじめとする方々からネットメディアに期待するご意見をいただきましたが、私もそれが既存メディアを監視・牽制する役割を担うことを期待しています。既存メディアの批判勢力でもあった総合雑誌が衰退している今、ネットは既存メディアの批判勢力としての役割を果たしつつあると思います。既存メディアの偏向報道の多くはネットに明らかにされました。
    ただ、一般の視聴者を惹きつける魅力をもち、強い影響力を行使するテレビのような既存メディアに対抗するのは容易なことではないと思います。
    松本様から具体的なご提案をいただきましたが、玉石混交の中から有用な情報を選択・編集するような、信頼できるネットメディアが多く生まれることを期待しています。
    岡田克敏