下のグラフは大卒求人数を大卒就職希望者数で割ったものです。いわゆる求人倍率というものです。
※出所:リクルートワークス研究所
確かに、これを見ると今の大卒の就職は厳しく見えます。次のグラフは大卒求人数を21歳人口で割ったものです。学歴無視のホワイトカラー求人倍率というところでしょうか?
※出所:リクルートワークス研究所および人口問題研究所
上位の一定割合がホワイトカラーに適した人材だとすると、彼らにとって、今はなんとも就職しやすい幸せな時代です。そして今、就職に困ってるのはレベルは低いのに大学に行っちゃった大卒です。大学進学率20%→50%に増加したことを考えると、だいたい6割程度の大学生がこれにあてはまると考えてはいいのではないでしょうか。つまり
「今、ホワイトカラー職に就きやすい」
「今、大卒の就職難の理由は、大卒が増えすぎたから」
は正しいと言えます。
最初のグラフを見れば判るように、求人倍率は1を超えています。内定率が悪いのは池田信夫先生が仰るようにこのレベルの低い学生が選り好みをしているからです。しかし彼らを責めるのはかわいそうに思います。彼らが現状把握のために上に挙げたような統計を調べることは無いでしょうし、メディアがそれを教えてあげるようなこともありません。今思うと、メディアが「マッチング」と言っているのは、実は「自分の分を知れ」という意味を、反感を買わずに表現しているだけなのかもしれません。このように彼らには自分の能力の低さを知る機会があまりありません。
誰でも、自分の能力が低さを認めるのは辛いものです。まして自分の大学の卒業生が就職しているような企業に就職できないとなると、それは自分の能力の低さではなく、他の何か(たとえば景気)のせいだと思いたくなるのも判ります。そう考えると、大手企業の就職活動の早期化は良いことなのかもしれません。大手企業が早いうちに採用活動をはじめることにより、能力の低い大学生は早いうちに「内定0」がつきつけられます。これにより彼らは自分の能力の低さを早いうちに気づくきっかけになります。彼らの本当の就職活動はこれからなんです。もともと大学の教育に関して、企業はあまり期待していませんしね。
ところで、大学進学率を低下させ、大卒の数を減せば万事解決するかというとそうではありません。今度は高卒の就職難がやってくるでしょう。日本国内におけるブルーカラー人材の必要数は確実に減っていますし、これからも減り続けるかと思います。実際にはそれ以上に高卒が減ってしまったためこの問題が隠れてしまいまっていますが、日本の雇用の本当の問題は「ブルーカラーの雇用不足」になるのではないでしょうか?
逆に、日本の大手企業でホワイトカラーの人材は不足しています。本当に不足しています。大手企業で採用数が少なく制限されているのは、不景気だからだけではなく、優秀な人材が集まらないからという理由もあります。近年日本国内で採用数を満たすことができないので、外国人に人材供給を求めるようになっています。そこで、高度な教育によりホワイトカラーにふさわしい優秀な人材を多く作り上げればこれらの問題は一気に解決します。しかし、実際はそうはなっていません。
企業が大学の教育に期待していないのは、企業における人材にアカデミズムが必要ないからではありあせん。会社や業界にもよるでしょうが、実際には企業は採用する学生にはちゃんとした基礎学力を求めています(せめて分数は理解してほしいです)。大学にそれを期待できないのは、大学がそういう教育ができないからです。その理由のひとつは大学進学率上がってしまったせいで、入学してくる学生に高校で習得すべき基礎学力がなく、大学で習得すべき基礎学力が身に着けることができないためです(最近では大学で、高校物理を教える補習授業があるそうです)。
また、大学の入学がいくら容易になっても、米国の大学のように卒業を難しくすれば卒業する人材が一定以上にできますが日本の大学にそれができません。それをやるには一定レベルに達しないかぎり単位を与えないようにすれば良いのですが、単位取得率が7割を下回ると文科省から大学にクレームがくるんだそうです。建前の理由は「入学試験で一定レベルに選別しているので単位取得率がそれほど下がるはずが無い」らしいですが文科省のホンネはわかりません。(だれか知っていたら教えてください。)
仮に上のようなことが実現できたとしても優秀な大卒が大量生産できるかというと、それもわかりません。Judith Rich Harrisが言うような「人間の能力は、遺伝と幼少期の環境でほとんどが決まる」が正しいとすると、大学でいくら教育をがんばっても能力の低い人間は、低いまままかもしれません。どう転んでもホワイトカラーに適した能力を持った人材の割合は、大学への進学率が上がっても増えることはないのかもしれません。
以上のように、なかなか悪者探しをしているだけでは解決しがたい問題ですし、仮に有効な解決を施しても結果が出るにはしばらく時間が必要です。当事者の学生には「就活どうにかしろ」「就活くたばれ」「ここがヘンだよ就活」「シューカツしたくないよぉ~」という名前でデモをして「競争させるな!」「助け合いをさせろ!」と叫んでいるようですが、同情しますが共感はできません。現状が誰のせいであっても、自分のことは自分が何とかするしかないのです。
コメント
大企業のホワイトカラーの席の数も仕方ありません。
大学生が大企業のホワイトカラーになりたがるのも自然なことです。
それが一部の人しか満たされないのも当然です。
しかしそれがあまりに不公平なのです。
卒業した年の経済状況は学生のせいではありません。
また選別内容もあまりにも不自然なのです。
就活期間というものをなくし通年採用とする。
卒業生、またいわゆる第2新卒も差別をしない。
不採用の理由を明示するなど改善点はあります。
新卒重視、年功序列という
安心システムに入れるのとそうでない人の差別が大きすぎるのです。
安心安定状態にある社会人がある程度の不安、不確実を受け入れないと変われないのですが、状況はますます硬直化に向かっています。
同じ就職難のテーマで投稿し、掲載して頂いた者です。
まず、あのデモですが、就職できないことを誰かのせいにしているデモではありませんよ。主張文を読めば分かりますが、あくまで今の就活における非合理的な部分を非難しているものです。遅らせる動きがあったことからも分かる通り、企業側にも現状の就活がおかしいと考えるところがあるようです。
さて、私の記事ですが、
http://agora-web.jp/archives/1139758.html
“学生が選り好みしている”というのは、いわゆる”就活”をした学生からすればとても肯ける意見ではありません。むしろ今の主流は、”幾つかの業界を、大手から中小まで幅広く受ける”スタイルです。
そして、学生が選り好みしていないのに何故就職できないのかも書きました。リクナビとマイナビの掲載企業数を足すとおよそ1万5千社です。対して、リクルートワークスが求人倍率導出の際用いている企業数は70万社です。
いくら倍率が1を超えていようとも、見かけの企業数が全体の一割未満である以上、就職難になるのは当たり前と言えます。
そもそも、理系専門職に専門的な知識を問うならまだしも、文系職の能力をSPIや面接で測れるとも思えませんけれど。
選り好みしない学生も多いですよ。
もちろん最初こそ、どの学生も夢や希望をいだいて
選り好みをしますが、長期化すると100社以上受けている学生もいます。実際に100社以上という数字はマスコミの報道でも出ていますよね。
仮に100社受けたといえば、選り好みなんてしてないですよね。逆に選り好みをしなさすぎても問題です。「特に興味もないけど募集があるから行く」これでは、企業研究も志望動機も適当になり、本心は賃金さえ貰えれば頑張りますとこういうふうになります。
こういう事では、企業も採用しなくなります。
「何がなんでもきれいなオフィスでホワイトカラーが良い!」なんて就職が決まらなくて困っている学生は誰も思っていません。
筆者です。
皆様コメントありがとうございました。おっしゃるとおり、不公正だし、不平等だし、不自然だし、彼らにそれほど責任があるとは思いません。本文で「同情する」と書いたのは私もそう思うからです。この件以外にも社会保障等の世代格差にいつも怒りを覚えています。ただ最近は私自身それらを変えられる(or変えてもらえる)ことは期待しなくなりました。雇用の流動化には政治が必要ですがそれは難しそうです(http://agora-web.jp/archives/1141293.html)。新卒重視、一括採用は企業にインセンティブがある限りなくならないような気がします(http://agora-web.jp/archives/1070769.html)。あと、デモのことよく知りもせず書いて申し訳ありませんでした。ただ、彼らには、影響できないことに努力するより、影響できることに努力してほしい。その方が彼らのためになると思っています。
>tomok様
記事読まさせていただきました。とても興味深く考えさせられる話でした。リクナビやマイナビに掲載する費用は、数人を募集するような事業者にはコストが見合わないのかもしれません。このためジョブパーク、ハローワーク、就職課、などの公的機関があるようですが、学生を取り込めていないようですね。理由はなんでしょうか?(イメージが悪いのか、お役所仕事のせいか)。
日本の場合、労働市場の流動性が低く、以前から小規模の事業者が人材を集めるのに苦労していました。これに注目し中小企業向けの人材仲介をやるアイデア(主に中途採用)がビジネスコンテストでよくみかけます(顧客を足で集めるタイプが多かったと記憶しています)。インターネット技術が進んだ今、こういったLongTailを安価に扱うビジネスがあると支持を受けるかもしれません。。。。と思ったのですが公的機関と競合するのは厳しいかもしれませんね。
>taiki_jp様
コメント返信ありがとうございます。
学生の本音として、公的機関は”失業者が行くところ”というイメージがあるのではないかと思います。これは正直学生側にも責任はあるのですが…現状年度開始早々研究室にナビサイトの営業が来たり、合同説明会に学生が群がる様子がマスコミで映し出され、またナビサイト主催のセミナーも開かれています。更に大きいのは既卒になったら終わりというプレッシャーで、結局周囲と同じくマニュアル通りに就活する方向に向かってしまいます。良いか悪いかは別として、実際にナビサイトの宣伝戦術はとても上手いのです。また”掲載料を払ってナビサイトを使うような企業なら大丈夫だろう”という安心感もあります。
まずこのイメージを打ち破り、学生側からナビサイト以外の情報を取りに行き、また企業も公的機関に求人を出すことがとりあえずの解決策になると思います。公的機関ならおそらく無料なので、特に中小企業にとってメリットがあるでしょう。経産省主導でドリームマッチというプロジェクトが行われていますが、こういうことをもっとやったほうが良いと思います。また、”ナビサイトの充実こそ促すべき”という意見もありましたが、民間企業に”中小企業も載せろ”と強制するのは現実的ではないと思います。
私は、”大学生が増えすぎた”というよりは”大学生の専攻分野と採用枠にミスマッチが生じている”と考えています。実際に機械や電気系は未だ就職に苦労しないという話は聞きますし、理系でエンジニアや研究職に進む学生に対し、文系の比率があまりにも高いのではないかと思います。ちなみに私自身は理系です。
二年前までは就職が厳しいとは言われていたものの、今年のように氷河期を越えたなどという論調はありませんでした。実際、バブルの頃ほどではもちろんありませんが、それなりに好調な数字が出ています。二年前と学生の質が極端に変わったという議論も見あたりません。確かに日本全体の求人倍率は1倍を越えていますが、それは本当に全部が全部、人が来れば採用する実質の求人なのでしょうか。悲惨な内定切りが新聞紙面やテレビを賑わしたのは昨年のことです。考えなしに人を採用して不景気になったから採用を絞った。という単純な話だと何がいけないのでしょう。内定切りを散々叩かれたから採用担当者も異様に慎重になっているだけではないでしょうか。
中小企業については、学生の選り好み云々の前に知名度が決定的に足りていないため、学生が存在を知りようがないという側面もあります。かといって大々的に広報・採用活動を行うコストに耐えられる体力があるはずもなく、健全な企業についてどのような募集を周知徹底するかを論じるのが建設的な議論というものではないかと愚考しますが。
>tomok様
コメントありがとうございます。ナビサイトは、多くの学生集めようとすること、求人を載せるのにそれなりの費用を要求することは、ビジネスとして当然の力学です。公的機関がそのような力学が働かないのも、また当然かと思います。公的機関がもっと努力しろというtomok様のご意見は正当な意見と感じます。しかし、私個人の意見は逆で「公的機関は新卒求人に一切関与しないほうが良い」と考えています。公共機関がまったくタッチしなければ、そこにニーズが放置され、新しいビジネスの参入が期待できます。ビジネスをやる側としては、公共機関と競合するビジネスは、参入のハードルが高くなります。また、公共機関が採用活動に介入してくると採用企業側としては無駄な負担が増えるばかりです。高卒の例ですがhttp://agora-web.jp/archives/1114445.htmlをご参照ください。tomok様とは意見が逆というより、アプローチが逆というところでしょうか。どちらにせよ私も人材市場の効率性が向上を望んでいます。あと、統計上のデータはありませんが私の肌感覚で申し上げると、たしかに今、民間企業は理系の人材は特に不足しており、質を確保するのも非常に苦労しています。
>mzch様
コメントありがとうございます。IIJ社長の鈴木幸一氏は「景気に左右されず、毎年、ほぼ同じ数の新卒者を採用するというのが、弊社の採用方針なのだが、ここ2、3年、採用の数が、計画を下回るようになってきたのである。応募者数は、年々、増えてきているのですが、基礎学力が低くて、採用に踏み切れない。」と去年つぶやいています。mzch様がおっしゃるようにすべての求人は人が来れば誰でも採用するというわけでは無く上記のように採用予定数未達成のうちに、採用活動をあきらめる企業もあるようです。貴重なご意見ありがとうございます。また、おっしゃるように「大学生が多い」も、「ミスマッチがある」も、今にはじまったことではなく、ずっと続いてきた長期トレンドで、2006~2009年卒(「宝くじ世代」なんてネットでは言うそうですが)の高内定率の説明にはなっていませんね。この原因は企業の一時的な大量採用(特に金融セクター)の影響が強いというの意見がなるほどと個人的に感じました。
たしかに中小企業の情報が少ないかも。
ここを出入りする学生は優秀なので、物足らないと思うけど。
中小企業家同友会 共同求人サイト
http://www.jobway.jp/
中より小規模企業が多いけどね。
>kotodama137様
コメントありがとうございます。「ここを出入りする学生は優秀なので」まったく同感です。
>mekashin01様
もし、まだ見ていたら
>不採用の理由を明示するなど改善点はあります。
と思った経緯を教えてください。個人的にとても不思議に思いました。