効率的な土地への若者の移住推進を議論すべき ‐ 笹生朋樹アイザック

アゴラ編集部

労働生産性という言葉は、一人歩きしやすい為取り扱いに注意が必要だ。良いPCを職場で貸与される事が労働生産性向上につながると言う人もいれば、経営者の中にはサービス残業を奨励する理由として「労働生産性」という言葉を使うタイプの経営者もいるかもしれない。何れにせよ、労働生産性の向上と一口に言ってもその中身には議論が必要で、もしかしたら人口減少時代にあってその議論をしている猶予はもう無いのかもしれない。


そこで私は、議論をクリアカットにする意味でも、ともすればタブーともなるかもしれない「国土全体での人口の最適配分」を議論することを提案したい。

何が労働生産性の向上につながるのかの完全な明示はまだ途上かもしれないが、少なくとも事業を営む土地によって効率が違う事は統計を引かなくても生活の現場に身をおく方なら誰でも実感として持っているのではないのだろうか。

したがって、この肌感覚から出発すれば少ない人口で生産性をあげる施策は実に簡単で、「国土の均衡ある発展」を捨て、効率の良い土地に資本と生産人口を集めて、生産適応年齢を過ぎた人口はそうでない土地に移動させればいい。

とこのように議論を出発させようとすると暴論の謗りを免れない。

国民は居住する場所の自由を憲法22条で保障されており、「君のような人間はここにいると効率を下げるので引っ越したまえ」という思想は全体主義に容易につながる。

しかし本当にそうだろうか。憲法に逆らうような議論をしてはいけないという思想も十分に全体主義的なのだから、国民の最大幸福を追求する為の憲法改正議論は存在を許されるはず。

例えばテクニカルな方法論として、強制移住や居住規制を行う事は論外かもしれないが、都市圏では若者を税制優遇し、地方では逆をやる、というようなインセンティブベースの政策ならば必ずしも暴論にはならない。

むしろ、現状でも土地によって政府の支援が厚かったりそうでない土地がでているのも広義の居住移転差別と言えよう。

人口移動推奨政策を現場での事例に引き寄せて例示を一つする。地方移住を奨励する年齢を例えば50歳前後にすることによって、いわゆる都市圏の企業でのソリティア社員/企業内失業者の問題解決の一助にもなる面があると想像できる。

生産性がさがる年齢から都市圏での生活を維持するコストが税金の面で跳ね上がるならば、早期退職と移住のインセンティブが働き、結果的には若者へ雇用の椅子が増える。

制度の組み立て方次第では、生産適応年齢をこえていても、都市に残って自分たちの孫の育児や地域支援に奉仕する年配者は税制面でも優遇が受けられるなどすれば、生産とは別な面で社会保障のサービス拡充が期待できる。

もちろん、後期高齢者医療制度の時にもあった「老人を地方に姥捨てる政策!」という反論が当然出てくるはずだが、”少ない年金”でやりくりする必要のある諸先輩方をコストの割高な都市圏に縛り付けておく方が私は姥捨てだと考える。

地方によっては生産拠点であることをやめ、そのリソースをリタイアメントライフに特化した街づくりへの施策に振り向ける事で結果的には高齢者への十分なサービスが提供できるという想定も可能だ。

ただ、人間の理性が「効率的な土地」と「そうでない土地」を判断できるのかという疑問は残る、実際にこの方針を導入する際には、どの県が生産用の土地となりどの県がリタイア用の土地となるかについては、ひどく醜い争いを鑑賞できる事になろう。

人口減少の時代に際して、「産む産まぬ」「結婚するしない」を政府主導によるインセンティブのばら撒きで対応するならば、住む土地についてもそれをやってもらえまいか。 というのが私の考えである。
(笹生朋樹アイザック 会社員)

コメント

  1. livedoa555 より:

    効率的な人口移動政策を実現するためには、これまでの持家優遇制度を廃止すべきです。そして、賃貸住宅を前提とした住宅政策に転換すべきです。

    現実は、賃貸住宅市場は品質面や契約面で不十分な点が多いです。これまで、持家優先の住宅政策を採ってきた結果だと思います。

    更に、賃貸契約時に連帯保証人を求める制度も人口移動や労働市場の流動化の妨げになっていますので、改めるべきです。

  2. ksmo2011 より:

    「国全体での人口の最適配分」
     決して暴論ではありませんよ。簡単です。首都機能移転を先ずやりましょう。遷都というと話がややこしくなりますが、首都機能を、その目的や機能に応じて、最適な配置を再構築するれば、それに伴う膨大な人口移動を誘発することが可能です。然も、地方の地価は安く、インフラも昨今極めて上手く配置されている地域があります。又、通信手段の高機能化は、機能移転の移行期にあっても全く不都合なく順次進めていくことを可能にしています。つまり、段階的に、出来るところから計画的に進めることが出来るのです。当面、首都圏から、新幹線で一時間圏位を目安にしたらどうでしょう。
     何より、景気刺激策になるし、東京の土地を売却すれば、地方では、建物を作ってもおつりが来ます。
     然も、地方の土地利用を推進するだけでなく、農業や、観光資源などの再開発、活性化にも繋がります。
     首都機能が、一極集中していなければならない理由は最早全くなくなっています。リニア新幹線なども、この機能移転にリンクして計画すれば、又違ったものになるでしょう。

  3. hogeihantai より:

    >生産年齢を過ぎた人口はそうでない(効率の悪い)土地に移動させればいい。

    効率の悪い土地とは農山村、漁村、離島等を指していると思いますが、そういう過疎地の自治体の自主財源率は極めて低く、住民一人当たりに費やされる交付金、補助金は極めて高額です。人口を希薄に分散させれば行政コストが低下するというのは大きな誤りです。過疎地の人をある程度のインフラが整備されたコンパクトシティに移動させようという議論があるのも人口密度の低い地方は行政コストが掛かりすぎるからです。

    産業の生産性のみならず生活コストの面から見ても人口密度の高い都市の方が経済効率が高い。シンガポールや香港のパーキャピタインカムが日本より高いのもその証左です。一見、地方の方が生活コストが低く見えるのは都会の納税者がかなりのコスト負担を行っているからです。自家消費農家の生活費は安いが、それは都会の生活者の犠牲の上に成り立っているのです。

    2050年の各都道府県の人口予測で人口が増えているのは
    東京のほかは沖縄だけです。沖縄は現在も毎年人口が増えていますが、政府の交付金、補助金が突出して多いからでしょう。経済効率が高い人口分布にするのは極めて簡単です。自治体が自主的に課税できる仕組みで、100%自主財源の予算が組める地方分権にすれば、過疎地は消滅、人は自然に経済効率の高い自治体に集まるはずです。

  4. akamagaseki より:

    逆に、東京を姨捨山にしましょう。若者は、口うるさい年寄り(政官財の偉い人たち)のいない地方都市(福岡、札幌など)でのびのびと働くのです。ネットの時代に、タコ部屋のように一箇所(東京)にスシ詰めにされて働く必要はありません。

    首都移転などという愚策がありましたが、東京が空けばその必要もなくなります。若者のいなくなった街を、年寄りの住みやすいようにどうぞ改造してください。

  5. qqtk2ccu より:

    このタイトル通りなら老人は社会保障費がかかりすぎるので死んでください

  6. tetuko_trail より:

    国全体での人口の最適配分、一考はしますが私はむしろ反対になるだけ人口を年齢層にかかわりなく、大都市圏に集中すべきと思います。土木コンサルの仕事をしておりますが、民主政権になった今でさえ、なんでこんな田舎にこんな高規格道路必要なのだろう?って思う事例たくさんあります。同じ財源を都市圏に集中的に使用したら費用対効果ぜんぜんちがいます。
    インフラはともかく、医療問題は切実なものがあります。地方ではすでに財源問題で救急体制に問題ある箇所が山積しています。隊員を中心とした人材も若くて体力がないと勤まらないでしょう。またお医者者を中心とするマンパワーもとうに限界を超えすでに見直しが始まっているのは周知の事実です。都市部に人口を集中させ、一人当たりの同じ程度のサービス効用を下げ、施策をとりやすくする方が、人口や財源の減少が見込まれる社会にかなっているのではないでしょうか。
    残念ながらその場合は、都市部以外に生きたい方は、インフラや医療等は自分で勝手にやってもらうことにした方がよいと思います。
    都市部は当然、老年者でも生活しやすいようバスや路面電車の公共移動機関に絶大な権限をあたえ、マイカーは今の数十倍の課税をして、事故防止のため、個人所有の場合は強制的に低出力にした方がよいと思う。事故での時間損失よりスピードを低下した時間損失のほうがはるかに小さいことは証明されていますから。

  7. bobby2008 より:

    >「国土の均衡ある発展」を捨て、効率の良い土地に資本と生産人口を集めて、生産適応年齢を過ぎた人口はそうでない土地に移動させればいい。

    限界集落という言葉があるが、各自治体は効率的な行政サービスが「できない」地域を明確化して、域外へ行政サービスしない事を正当化できる法律を作る事ができれば、地方自治体のコンパクト化と、行政コストの低減を行う事ができるでしょう。

    その上で、東京、大阪、名古屋、仙台など既に発展している大都市に、更に人口を集中させられるような「税制改革」をやって、地要から都市部へ人口集中させられれば、単に「効率的な土地利用」が達成できるだけでなく、土地の価格が上昇して経済をプッシュアップする効果が見込め、サービス業も都市部だけに展開すれば良いので投資効率も上がると考えられます。

    その上で、地方に住む事を選択した人を、リモート・ソフト開発やコールセンターなどで、低賃金で雇用できれば、都市と地方が有る程度共存する事も可能になるかと考えます。

  8. ksmo2011 より:

    こうなると最早お気楽としかいいようがありませんね。
    首都圏は既に、関東大地震が何時襲来してもおかしくない緊迫した状況にあります。名古屋地域も、東南海地震があります。大阪は、阪神大地震で取り残されてしまいました。
    今此の国の大都市圏は、何時大地震に襲われてもおかしくない状況あります。
     そんな地域に人口を密集させることは、自殺行為であり、座して死を待つに等しいのです。
     東京に震災が襲えば、此の国は壊滅します。
     首都機能を移転して、震災のバックアップを確保することは、此の国の喫緊の課題です。

  9. bobby2008 より:

    8. ksmo2011さん

    >首都圏は既に、関東大地震が何時襲来してもおかしくない緊迫した状況にあります。

    この記事の主題は効率的な土地の運用であって、都市の効率的なリスク分散ではなかったように思います。とりあえずそれを棚上げしても、日本の中で、大地震のリスクの「無い」都市がない以上、どこに人口を集約しようが長期リスクはさほどかわらないのではないでしょうか。

    であれば、地震ない土地を探すよりも、地震に強い都市をつくる方向で考えた方が建設的だと思います。

  10. ksmo2011 より:

    bobby2008 さん

    >日本の中で、大地震のリスクの「無い」都市がない以上、どこに人口を集約しようが長期リスクはさほどかわらないのではないでしょうか。

     だからこそ、此の国では、人口の集中そのものが悪なのです。地震に強い都市という幻想は、その圧倒的破壊力の前には全く無力です。
     その事を、世界中の誰よりも知っているのは、他ならぬ此の国の国民の筈なのですがね。
     良いですか。此の国では、集中が悪なのです。
     効率的土地利用と、リスク分散は、対立する概念ではありません。リスク分散なき効率はあり得ないのです。其れが、国土設計というものです。