偽りだらけの就職活動、透明性の確保を優先すべき -  平井 重光

アゴラ編集部

近頃、企業団体によって提案されていることが就職活動の早期化の是正、学業を優先させるべきであるという主張である。確かに現状の就職活動開始の時期は、企業側の囲い込みの意図から早期化傾向であり、学生にとっては迷惑千番な話である。しかし、この措置は近年の就職活動の本質的な問題の解決を促すものではなく、ただ未就職問題の発覚が露呈するタイミングを遅らせる効果を有するのみである。加えて述べるならば、自分自身もそうであったが、大抵の大学生というものはアルバイトやサークル活動に精を出し、その本分である学業に熱心に取り組んでいるとは考えにくい。そうであるならば、就職活動の時期が早かろうが遅かろうが大した問題ではないのである。(もちろん、少数の学生にとってはこの逆についても正であることを付け加えておきたい。)


では、近年の就職活動が抱える問題とは何であるかと述べるならば、それは就職活動における透明性が確保されていないという現状である。池田信夫氏の以前のエントリーにもある通り、「大学生が増え過ぎていることに問題がある」という主張はまったく正しく、さらに議論を進めるならば、就職活動生と企業との間でのマッチングコストが増大しているという点が指摘されることになるだろう。インターネットの普及により、学生は多くの企業に比較的容易にエントリーすることが可能となった。これに対して企業側においても次から次へとやってくる学生たちの中から自社が求める人材をいかに効果的かつ効率的に獲得することができるかが課題となってきた。しかし、学生と企業との間のマッチングは困難なものであり、そのコストは上昇する傾向にある。また果たして多大になコストをかけて内定を出したとしても、幾人かの学生においては「こんな仕事を期待していたわけではない。」といった不満を持ち、早期に退社してしまうということも多々ある。

このマッチングコストの増加の原因には、就職活動生に画一化の傾向があることが考えられる。書店に行けば多くの就活対策本が並び、インターネットの掲示板を利用すれば自己PRや志望動機を簡単に入手することができる。悲しいかな、このような情報環境が豊かになるにつれて、いわゆる“コピペ就活生”が大量増殖してしまう結果となってしまった。学生は参考になる情報が溢れかえっているがゆえに、これを過剰に参考にし、本来の自分自身の姿を作り変えてしまう。企業面接の場では、似たような自己PRや志望動機が飛び交い、企業にとってはどの学生が自社にとって本当に適切な人材であるかを判断しにくくなってしまっている。似通った学生の中から、一握りの優秀な人材を獲得することは誠に困難であり、両者において無駄なコストをかけていることになっていることに気づかない。そうであるから、体育会系やサークルの代表といったわかりやすいシグナルを発する学生を企業は好みがちなのであろう。このような横並び就職活動生の傾向は、「とりあえずは大企業に就職したい」という一般的には高学歴な大学の学生にあると思われる。

この議論の結論を述べるならば、就職活動生が未熟であるということに尽きる。単に浮ついた気持ちのみで学生生活を過ごし、いざ就職活動が始まれば周りの学生の流れに自分を合わせ、何の信念を持たずに企業を選んでしまう。それも就職企業人気ランキングの上から順番にというお粗末なものである。本来は、このような就職活動を繰り返してきた学生に対して、就職先が無いことについて何ら言及する必要はなく、いい勉強になったのではと反省するべきである。しかし、確かに近年は慢性的な不況下であり企業側の受け皿が狭くなっていることは間違いない。また、企業側にとっても自社のイメージを高めるために、求める人物像を曖昧に表現したり、事業上のリスクを隠したままリクルート活動を行っているという問題点も考えられる。極端な話をするならば、企業は「自社は部活動経験者、TOEIC800点以上または何らかのコネクションをお持ちの方を優先して採用します。」と宣言して頂いた方が、学生も割り切った気持ちで就職活動を行えるのではないだろうか。実は就職活動生も企業も自分自信を何も偽る必要は無い。これからの就職活動、求められることは学生と企業が本音を述べて対話ができる環境を作ることである。企業は自社が求める人材を明確に提示する、その上で就職活動生は自分の能力水準を比較し意思表明を行うべきである。

以上は理想論であり、現実的には困難であろう。実際問題として就職活動は引き続き行われており、未就職者は増加し続けている。そこで、会計の専門家である私から提案する。最低限大人の対話をするためにも、学生諸君は自分の希望する企業の有価証券報告書等は研究して知識を得る努力をしてもらいたい。企業の良い面と悪い面を認識してはじめて、就職の志望を行うべきである。有価証券報告書を丹念に研究すれば、「思っていたよりも将来性のある企業だ」「実はあまり持続的なビジネスでをやっている企業ではない」といったことも見えてくるだろう。就職活動対策本やインターネット掲示板によって、人の意見を参考にすることも良いが、一度立ち止まって自分自身の頭で考えてみて欲しい。決して無駄にはならないはずだ。
(平井 重光 早稲田大学大学院会計研究科)