「失われた10年」が「失われた20年」になり、「失われた30年目」に突入している。経済は相変わらず停滞し、日本の財政も悪化し続けている。1989年度、1999年度、2009年度の一般会計の決算概要を振り返ることで、この20年間の財政状況を点検したい。
1989年度は、竹下内閣の下、1989年4月1日から消費税3%が導入されたものの、1989年12月29日に日経平均が最高値38915円87銭を記録するなど、まさしく「バブル絶頂期」である。
1999年度は、三洋証券 北海道拓殖銀行 山一證券などが相次いで倒産した1997年の金融危機から景気を回復させるため、1998年7月に首相に就任した小渕首相が「世界の借金王」と卑下し、大規模な財政出動を行っていた頃である。
2009年度は、2007年夏頃から表面化したサブプライムローン問題が、2008年9月のリーマン・ショックへとつながり、“100年に1度”とまで形容された「世界金融危機」の真っ最中だった頃だ。
このように、1989年度、1999年度、2009年度の比較では、経済環境も大きく異なるため、簡単な数値だけですべてを表わせるものではないが、この20年間でどの程度日本の財政が変貌を成し遂げているかを確認するには参考となるであろう。
税収、歳出、プライマリーバランス(基礎的財政収支)※の3点を見てみよう。(いずれも決算後の数値)
1989年度:税収54.9兆円/歳出65.9兆円/プライマリーバランス+5.5兆円
1999年度:税収47.2兆円/歳出89.0兆円/プライマリーバランス▲17.2兆円
2009年度:税収38.7兆円/歳出101.0兆円/プライマリーバランス▲33.5兆円
ご覧の通り、すべての数値が悪化している。1989年度から2009年度の20年間で、税収が3割減る一方、歳出は5割も増加している。プライマリーバランスも40兆円近くマイナスになっている。
税収減と共に歳出も減らせれば良いのだが、増え続ける一方である。これは「失われた20年」だから起きた特殊な現象であり、経済低迷を脱することができれば、税収も大幅に回復し、景気対策費が減る結果、歳出も減っていくのであろうか。
答えはもちろん“No”だ。人口動態が変化しているからだ。高齢会の進展に伴って、主に年金・介護・医療費などで構成される「社会保障関係費」が膨張し、歳出を拡大させる要因となっている。一般会計に占める「社会保障関係費」(当初予算ベース)は各年度において以下のとおりだ。
1989年度:10.9兆円
1999年度:16.1兆円(+5.2兆円)
2009年度:24.8兆円(+8.7兆円)
2012年以降、1947年から1949年生まれの団塊世代が年金受給を開始する65歳に到達し始める。もちろん、介護・医療費も膨らみ続けていく。よって、今後もますます社会保障関係費が膨らんでいくのは明白だ。この社会保障関係費の急速な伸びにメスを入れる必要がある。これを実施しない限り、多少の経済回復が実現できても、税収の伸び以上に、社会保障費が膨張し続け、プライマリーバランスの赤字幅はますます拡大していく。
社会保障関係費以外の“無駄”がまだ他にたくさんあると思われる方も多いだろう。しかし、来年度(2011年度)予算において、社会保障関係費は28.7兆円と、既に税収40.9兆円の7割を占めている。しかも、この2年間だけで約4兆円増と、増加のペースは速まる一方だ。
このような状況を直視し、痛みを甘受していく「覚悟」を持つことが必要だ。高齢者の反発を食らうだろうが、大幅な年金削減、年金開始年齢の大幅な引き上げも必要だろう。
今の日本の財政は明らかに持続不可能だ。
※:プライマリーバランス(基礎的財政収支)とは、国債発行による収入を除いた歳入と、過去の国債の元利払いを除く歳出を比較した場合の収支バランスをいう。つまり国債に関連する収支を除いた数字である。
誤った解説も散見されるので、念のため記載しておくと、プライマリーバランスがゼロとなった場合、名目金利と名目経済成長率が等しければ、対名目GDPの債務残高は増加しないが、利払い費があるため、債務残高そのものは膨らむ。債務残高そのものを減らすには、利払い費を上回るプライマリーバランスの黒字が必要である。
(例)名目GDP500兆円/債務残高1000兆円で、プライマリーバランスゼロ、利子率および経済成長率が2%の場合、名目GDP510兆円/債務残高1020兆円となり、対名目GDPの債務残高は2倍のまま変わらないが、利払い費があるため、債務残高そのものは20兆円膨らむ。債務残高そのものを減らすには、この場合、20兆円を上回るプライマリーバランスの黒字が必要である。
(井上悦義ブログ: Twitter:@atsuyoshi)
コメント
しかし海外債権は世界1位です
長引く円高で企業は海外に工場を立てて
利益をあげています
サムソンなどの朝鮮、台湾にも部品を輸出し
またプラントやロイヤティでも利益を確保しています
無駄な金なら中共への援助金です
老人から金を奪うのは子供から飴や玩具を取るのと
同じ行為で感心しません
社会保障関係費が伸びたから、税収が不足するという話をいやになるくらい聞きます。
しかし、本当にそうでしょうか。
24.8兆円ものお金が、医療・医薬・介護などの産業、および家計(生活保護/失業保険など)に支払われていて、決して消えて無くなっているわけではないということです。
医療・医薬・介護などの産業に携わる人は、給料をもらい、所得税を納め、物を買い消費税を納め、また、その物を売った人がそこで得た利益から、給料をもらい所得税を納めるといったように無限に連鎖し、やがて、お金は国庫に戻っていくはずなのです。
しかし、税収が減っている・・・。
疑問に思いませんか?
誰かがお金の流れを止めて、溜め込んでいるとしか思えないのです。
じゃあ、お金が流れるようにしたら?と思うのですが、そこで出てくる話は、税金が足りない、増税!増税!消費税をあげろーそういった声しか聞かれません。
消費税は、お金の流れを止めるか、増やすか、少し考えたら分かると思います。
誰かがお金の流れを止めて溜め込んでいる、これが誰なのかなぜなのか、答えが出ない限り、いくら増税しても無駄です。
そして今、お金の流れを止めて、溜め込んでいる人が、お金を流したくなるような政策・税制が何なのか、考える必要があると思います。