若者をミスリードするもの

山口 巌

アゴラに何時もとテイストの違うエントリーを発見した。昨年末、閣議決定した筈の周波数オークションを、何と監督官庁の総務省が握り潰そうとしており、それに反対するデモの呼びかけである。

趣旨には大賛成であり、一旦はデモに参加をする事に決めた。が、しかしである!

同時に、遥か彼方のエジプト、カイロのタハリール広場で頑張っている、若者達の光景が目に浮かんだ。

デモに年齢制限は無く、55才の私が参加する事は可能である筈だ。しかし、何か違和感が消えない。

古来、古くて役に立た無く成った制度を壊す為に戦い、明日に続く希望の道を構築し続けたのは、若者の無垢な勇気であり、打算の無い無鉄砲さであった筈だ。古い制度を壊すのは、ある意味若者の特権では無いか。

私の様な、既に老人の一歩手前は、革命の後、箒を手に静かに掃除をしたり、がらくたを片づけ、新たな秩序作りに協力するのが分相応では無いかと自問自答した。

日本から、若者が消えてしまったのでは無いか。

私は、若者を駄目にする四つの悪を知っている。

先ず、筆頭に挙げねば成らないのは親の存在である。

子供が不幸に成る事を望む親等皆無である。将来不幸に成る事の無い様色々心配してアドバイスをする。そして、此のアドバイスこそが曲者である。

親の生きてきた此の50年間、世の中は大きく変わってしまった。結果、親のセンスは最早古くて使い物に成らないのである。子供が現役で活躍せねば成らない、30年後の世の中を想像し、子供に的確なアドバイスをする事等、そもそも不可能なのである。

従って、親の子供の将来を心配してのアドバイスに従う事は、結果ほぼ必ず、子供を不幸にする。

親に次いで悪いのは、教師の存在である。大体、22才で大学を卒業し、行き成り「先生」と呼ばれるのは、如何にも異常である。

しかしながら、此の職種はそれがまかり通ってしまう。結果、全てとは言わないが、社会常識の欠如した「先生」や殆ど社会との関係を持たない「先生」が増殖したのでは無いか。

私の観る所、教師に取っての「神」は偏差値である。少しでも良い中学校に教え子を入れる。少しでも良い高校に生徒を入学させる。そして、大学、企業へと続く。

破綻したJALは、長きに渡り大学生に取って憧れの就職先であった。中身は腐っているにも拘わらずである。

今後、JALに続き、多くの高偏差値企業の破綻を、我々は目にする事に成る筈である。偏差値への盲目的信仰は余りに危険で、結果若者を不幸にする。

そもそも、中学、高校で偏差値と言う神から見放された生徒は、切り捨てられてられ、居場所を無くしているのではないか。

3番目の悪はマスコミである。彼らの悪は、「世の中の価値観」みたいなものを、勝手に捏造し、未熟な若者に刷り込んでいる事である。「世の中の価値観」の如きものはそもそも存在せず、個人のそれぞれの価値観のみが存在する筈では無いか。

マスコミからのアウトプットは、ほぼ全て、現在の既得権益に拠って構築されたシステムを守り、彼らが濡れ手に粟で、稼ぎ続ける為のポジショントークと観るべきでは無いか。広告を出稿してくれるスポンサーを必要以上に持ち上げ、若者に誤ったイメージを与えているのも事実である。

古い世界に生きる親、偏差値至上主義の教師に刷り込まれた偏差値信仰、そしてマスコミの邪悪な誘導に拠り若者は誤った職業選択をしたり、決して行ってはいけない企業に入社してしまう。

例えばである、就活中の大学生は、ネットでの就活を実感として今正に、体験している。普通に考えれば、転職とか派遣とかの業種はネットで簡単にマッチング出来る訳で、此の業界は確実に衰退する事が予想され、就職すべきで無い事、理解出来る筈である。

音楽に於けるCDや、映画に於けるDVDと言った、所謂パッケージメデイアは間違いなくネットに取って代られる。既にアメリカではNetFlixとの競合に敗北したDVDのレンタルショップがシャッターを下ろしていると聞いている。従って、此の業界も就職の対象とすべきでは無い。

大事な事は、今起こって居る事が何で、近い将来当たり前に成る事は何かを自分の頭でしっかり考える事と思う。そして、自分が何に興味があり、何をやりたいのかしっかり自問自答すべきだ。

親、教師からの助言、そしてマスコミ誘導で、本来入社すべきで無い企業を選択する事は、匂いに釣られ、ゴキブリほいほいに入るゴキブリと、レベル的に余り変わらないと言えば言い過ぎであろうか。

最後は「自己啓発」である。親、教師、マスコミに疑問を感じ、拠り所を求め漂流する、無垢な若者の心の隙間に付け込み、更に不安にして、本を売りつけ、セミナーに呼び、入場料をせしめる。

本に書いてある内容や、セミナーで聞いた事を実践しても何も変わらない。そして、更に自信を無くすと言う悪循環である。

正しい道を選択する為には、若者は、大学入学を機に親から経済的に独立すべきと思う。そして、何事も自分の頭で考えるのである。

私自身そうして来た。その為に、入学金や授業料も免除にして貰い、奨学金を貰
い、足らない分は家庭教師で食い繋いだ。

金は無かった様に記憶しているが、親から経済的に独立した事に拠る「自由」が何とも心地良かった様な思いが微かだが今でもある。

就職も、就職1年後の海外留学も自分で決め、決まってから親には報告した。

若者の自立は早ければ早い程良く、何事も自分の頭で先ず考え、自ら決定すべきである。

コメント

  1. ケット より:

    一つお忘れです。

    千人に一人しか成功しない道への誘い、それもとても多くの若者を破滅させるものです。

    「世間を無視し、敷かれたレールに背をむけ、夢だけを胸に誰もいないジャングルを切り開いて行け」

    その言葉のを真に受けた、一人の成功者の影の999人の失敗者が、本来の能力と教育から期待できた収入の三分の一以下で、結婚や持ち家の希望も何もなく最も単調で創造性のない仕事に魂をすり減らしているのです。

    確かに旧来の道はもうだめでしょう。
    でも、大学に言っても就職できるとは限りませんが、大学に行かずに生涯賃金二億以上稼げるのは本当にわずかであり、残りは悲惨に死ぬのです。
    昔なら、夢を追って挫折しても生きられる場はありました…が、今はないのです。
    若者よ夢を追えレールに背を向けろ、という言説も、東大にさえ入れば一生安泰よ、と同じぐらい古い言葉なんでしょう。