政府債務が増えると成長率は下がる - 『国家は破綻する』

池田 信夫

国家は破綻するーー金融危機の800年国家は破綻するーー金融危機の800年
著者:カーメン・ラインハート&ケネス・ロゴフ
日経BP社(2011-03-03)
販売元:Amazon.co.jp
★★★★☆

国会では、財政危機をめぐる論議が本格化してきた。与野党ともに現在の政府債務が維持可能ではないというコンセンサスはあるようだが、世の中には「長期金利は低いので大丈夫」といった楽観論が絶えない。本書は過去800年の金融危機と財政危機を網羅した大規模なデータベースによって、この種の楽観論を打ち砕く。

金融危機も財政危機もありふれた現象で、多くのケースに驚くほど共通点がある。それは「かつての危機は**だったが、今回は違う」とか「中南米ではデフォルトが起こったが、わが国は違う」といった理由で、過大な債務が積み上がることだ。

過去のデータを分析すると、こういう話には根拠がない。財政危機は先進国でも途上国でも起こり、対外債務でも国内債務でも同じだ。「政府支出で成長する」という話も間違いで、政府債務がGDPの90%を超えると成長率は大きく下がる

「財政破綻が起こったのは外債だけだ」という話は間違いで、過去の財政危機の多くは国内債務の破綻で起こった。対外債務が目立つのは、それが世界の投資家の関心を引くからにすぎない。「債権者の95%は日本人だから大丈夫」などというのも根拠がなく、国債が暴落しても邦銀が永久に国債を保有し続けると信じる根拠はどこにもない。

過剰債務は、ゲーム理論でいう複数均衡をもたらす。つまり過剰債務が維持されている状態も破綻する状態もナッシュ均衡で、どれが実現するかは先験的にはわからない。通常のマクロ経済理論は、均衡が唯一(パレート効率的な定常状態)だと仮定しているが、バブルや財政破綻も人々の予想が一致すれば均衡となり、一定の限界を超えるとバブルは一挙に崩壊する。

本書も指摘するように「何かが起こると予想されているときは、必ず起こる」。問題はそれがいつ起こるかだが、財政破綻は複数均衡の一つから別の均衡に移行する非線形の現象なので、予想できない。本書は日本についても多くのページをさいているが、いえるのは財政状態がきわめて危機的であり、いずれ破綻するということだけである。

では政府は何をすべきか。「経済成長で債務を完済できる」という主張については、過去にそういう事例はないと本書は指摘している。日本は金融危機に対して大規模な財政支出で対応したが、これは財政危機をもたらしただけだ。多くの場合、政府はインフレによって財政危機を「解決」する誘惑にかられるが、こういうとき起こるのはコントロールのきかない大インフレで、これは経済を破綻させることが多い。

本書は、金融危機や財政危機についてのデータベースとしては決定版といえよう。巻末には世界各国の長期にわたる膨大なデータがついており、専門家には便利だと思うが、一般読者には読みにくい。要約版がハーバード大学のウェブサイトにある。

コメント

  1. agora_inoue より:

    財政危機に政府がどう対応するかはわからないし、我々がコミットすることもできないが、個人の被害を減らすことは容易にできる。それは、個人資産を外貨建てにすることだ。外貨預金だと、預金保険がない上、国債を大量に持っている邦銀の信用に依存することになるので、あまり意味がない。直接、外債を保有するか、外貨MMFにしてしまえばいい。

  2. いわせた より:

    バブル崩壊後日本政府が大規模な財政支出をしていなかったらどうなっていたのでしょうか?20年不況は変わらず政府債務は少ないままだったのでしょうか?

  3. ken355 より:

    自分が返さないで済む借金を止めさせる方法が有るのだろうか?「自分で自分の首を絞めろ」と指示されて、或いは集団リンチの様な空気を演出されて、本当に実行しちゃう人が出てきたとして、誰がまともな人なんだろうか?
    収入が減れば、人は去って行く。自然な流れしかないと思います。
    就職活動の映像を見ていると、採用側まで同じ色の地味なスーツを着ています。これってエキストラのやらせじゃないですよね。だとしたら、自腹で画一化してるんですか?国家社会主義の完成型じゃないですか(精神面の事ですが)。
    エーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』を思い出して読み返しています。

  4. hogeihantai より:

    >1
    外貨預金は邦銀でなく東京に支店のある格付けの高い外銀にすればよいのです。私はナショナルオーストラリア銀行に複数の通貨で定期預金してます。米銀は必ずしも格付けは高くありません。外銀の日本支店では預金保険の保護はないので自己責任です。
    破綻論者の代表である藤巻健史氏のブログを読むと彼はJGB先物のショートロールを繰り返しているようです。JGB安で儲ける仕組み債も個人向けに証券会社で販売してます。