もう少し時間がたった時点で検討すべき「将来の危機管理体制」

松本 徹三

今回は想定のレベルをはるかに超える「地震と津波」、及び、想定を超えた「原発の冷却装置の機能停止」が起こった。この為、「未曾有の国難」と言ってもよいレベルの問題が生じ、「先行きの不安」もなお解消されずにいる。


アゴラ上にも、「責任論」から「日本人論」まで含め、多くの意見が飛び交っているが、現時点では毎日状況が変わっており、諸情報にも不確実なものが多いので、私自身は、現時点では何事につけあまり強く意見をいう事は差し控え、諸情報がある程度確定した時点で総括的に論じたい。不確実な情報に基づいて間違ったことを言いたくないからだ。

しかし、今回の対応が、多くの点で少なくとも満点からは相当遠かったのは明らかだ。そして、どこに問題があったかについては今の時点でも幾つかの事は言えるので、これを将来「総括」を行う場合の検討項目として提起したい。

問題の発生後直ちに最大のプライオリティーで行われなければならなかったのは、

1)一人でも多くの人命救助
2)放射能汚染の阻止、或いは極小化

であり、次に

3)被災した人達への支援
4)日本経済の落ち込みの極小化(最低限「国債の暴落」の防止)

であったと思う故、以下、この各項目について、私の現時点での疑問のみを挙げておきたい。

1)人命救助については、自衛隊の大規模投入が何故もっと早い時点で出来なかったのかが、私の最大の疑問だ。今回命を失われた方の多くが「溺死」だったと思われるが、海上を浮遊中を救助された例もあり、自衛隊の空中探査能力を最大限に生かして、早い時点で徹底的な海面の捜索を行えば、或いはもっと多くの人命が救えたのではないか? また、自衛隊の機動力を最大限に生かして、水が引いた後の水没現場にもっと早く車が乗り入れられるようにしておけば、もっと大量の捜索人員を現場に投入出来たのではないか?

2)原発問題については、既に多くの指摘がなされているように、海水の注入時期の遅れや、第3、第4の使用済み燃料の冷却プールへの対応の遅れが、何故生じたかが最大の疑問だ。「殆どの計測器が故障で役に立たず、被曝の恐れがある為に作業員が諸施設に接近出来なかった為、十分な状況把握なしに対策を考えなければならなかったらしい」ことが、今となっては理解出来たが、それならば、「最悪時を想定しての対策」を講じる以外の選択肢はなかった筈だと思うのだが、実際にはそうならなかったようだ。どう見ても、「無駄を覚悟の万全の体制」を早期に固める動きはなかったし、その為に全ての対応が後手に回ったことは否めない。

3)支援体制についても、現場で必死で働いている方々への賛辞は惜しまぬが、組織的な対応という事では、かなりの問題を露呈している。ここでも、先ずは輸送手段の整備(道路の整備と燃料の確保)を真っ先に行い、それから、支援物資についての需給を一元管理する体制を作って、必要物資を整然と補給すべきであったが、実際にはかなりのちぐはぐが生じている。また、「避難所を早期に広域化して、病人、障害者や妊婦、赤ちゃんやお年寄りなどは、物資の不足する避難所には留めおかず、物資の十分ある場所に早く移送すべきではなかったのか」という思いが拭えない。

4)最後に経済活動の低下に関連する事では、これに最も必要な「正確な情報のタイムリーな伝達」には、「原発」関係と「計画停電」関係の両面で、相当の問題があったように思う。(情報の少ない諸外国がリスクを過大に見たのも、ここにその一因があるようだ。)このような時には、首相を頂点とする「組織だった情報の伝達体制」が先ず確立され、誤った情報、不正確な情報については、直ちに「明確な公式の否定」がなされるべきなのだが、これは必ずしも十分ではなかった。(但し、この混乱に乗じた海外の投機筋の円買いに対してG7が間髪を措かず協調介入をしてくれたのは大変良かった。)

今回の事を機に、多くの「日本人論」もアゴラ上に飛び交った。その多くは「非常時にも、我慢強く、秩序正しく行動する日本人に対する再評価」だったが、これを日本の「ムラ社会構造」と結び付けて論じた村上たいきさんの記事が、私には面白かった。

私自身は、今回の事で、日本人の長所と短所がまたはっきりと示されたと見ている。長所については既に繰り返して書かれているので、ここでは敢えて繰り返さないが、短所は「組織的取り組みの弱さ」と「上層部の決断の遅さ」である。

テレビや新聞では繰り返し政府や地方自治体の対応が報じられたが、全ての関係者を包含する「情報と指揮命令の流れ」を示す系統図は、遂に一度も示されることがなかった。

本来なら、「首相(統合本部)を頂点に、知事-市町村長の管理組織と、自衛隊の指揮命令系統が縦方向に並列し、これに、総務省(警察庁・消防庁)、国土交通省、経済産業省、厚生労働省等の中央官庁が横串として入って、支援と調整を行う。各企業やボランティア組織による支援の窓口も明確に決める。『全ての関係者が即座に情報を共有し、要請を受けた組織は直ちにそれに応える(応えられない場合は直ちに上部構造に報告する)システム』も整備する」というのが、あるべき姿だと思うのだが、必ずしもそうなっていたとは思えなかった。

情報管理の手順については、「統合本部が即座に必要情報の項目を明記したフォーマットを作り、各部署は逐次粛々とそれを埋めていく。部分的に埋められたフォーマットは常時「統合本部」で整理され、穴だらけでも良いから『見える化』され、それがそのまま報道機関などに配布される」というのがあるべき姿だったと思うのだが、そのような試みがなされたとは思えない。

この辺のところは、スケールは大きくとも、基本的には会社などの日常業務と何等変わらない筈だが、効率的な会社ならもっと上手くやれたと思う。

上記に示した4項目のように「目的」が明確であり、「情報」がスムーズに流れて、且つ明確な「指揮命令系統」が存在するなら、そこで、おのずから、「誰が何を決めなければならないか」も明確になる。

決定をする立場にある人は、直ちに決定をしなければならない。この決定が遅れれば、戦争なら致命的だし、日常のビジネスでも大きな損失となる。しかし、今回のことを見る限りでは、この決定には随所に遅れが見られたように思う。

今回のような場合は、決定をしなければならない人の立場は非常に苦しい。全ては上手くいって当たり前、しかし、間違った決定をするリスクは避けられないし、そうなると後々まで非難されるから、出来れば誰も出来れば決定などしたくはなかっただろう。しかし、もし決定しなければ、或いは決定が必要以上に遅れれば、それも「失策」として非難されるのは当然だ。

(要するに、決定責任者には逃げ場はないのであり、それが上層部にいる人達の「仕事」の本質なのだ。こういう時に、その結果についての全責任を負う覚悟がもてない人は、そういう地位につくことを固辞し、人並みの出世を諦めて平穏な生活を選ぶべきだったのだ。)

もう少し時がたてば、今回のことを教訓にして、「日本人が今後どのようにその弱点を克服していくか」を、大いに論じなければならない。